労務管理/就業規則の基礎知識

採用前に正しく知る!試用期間の意味と活用法

多くの会社では社員の雇用にあたって試用期間が設けられています。しばしば会社にとっての従業員のお試し期間のような意味合いで用いられる試用期間。実際はどのような運用をするべきなのでしょうか。

渋田 貴正

執筆者:渋田 貴正

企業経営のサポートガイド

試用期間とは?

試用期間

試用期間の意味を正しく理解しましょう。

多くの会社では新卒や中途の新入社員の雇用にあたって、一定の試用期間を設けています。採用する側にとって、履歴書や職務経歴書などの書類や、面接だけでは性格や適性、能力を完全に把握することは困難です。試用期間は、こうした情報の不足を解消し、新入社員の特性や能力を見極めるための期間といえます。試用期間の満了時点で、会社と社員の両者から特段の意思表示がなければ、そのまま通常の正社員へと移行することになります。

試用期間の内容は、就業規則(作成義務がない10人未満の会社については社内規則など社員が内容を把握できるもの)に定めておく必要があります。


試用期間の長さはどれくらい?

試用期間の長さは会社によって違いますが、おおよそ3~6か月程度の期間の場合が多いです。あまり短いとスキルや仕事ぶりを把握するための試用期間としての役割が果たせませんし、長すぎると社員にとって不安が生まれたり、労働意欲に影響を及ぼしたりしかねません。

また、採用時に雇用契約で決めた試用期間の延長も原則としてできません。試用期間を会社の都合で何度も延長できるとすると、試用期間の本来の目的が失われ、社員を不安定な状態で拘束してしまうためです。試用期間を延長できる場合として、試用期間中に長期の休養を取る必要があった場合などが考えられますが、この場合も社員に延長の同意を得て、延長期間も明示する必要があります。


本採用拒否は会社の自由なの?

試用期間といっても雇用契約を結んでいるので、本採用の拒否は解雇に該当します。ただし試用期間中の本採用の拒否については、これまでの例からみると通常の解雇よりも広く解雇の理由が認められています。

まず、労働基準法では、採用から14日以内であれば、試用期間中に解雇の予告をすることなく解雇できると定めています。さらに、14日を超える場合でも解雇にあたって試用期間特有の理由による解雇が認められています。

学歴や業務能力の詐称・犯罪歴の無申告といった採用時の経歴に関することや、採用後の顧客とのトラブルや、社内での勤務態度不良などが解雇の理由として挙げられます。

経歴の詐称については、例えばキャリア採用でプログラミングの経験を職務経歴書に記載して採用されたのに、実際には指示されたデータを打ち込む程度の能力しかもっていなかったというように、そもそも採用の理由を覆すような詐称であれば認められます。一方で、新卒のように教育が必要な社員に対して、書類の作成ミスが多いといったことや、パソコンスキルが足りないといったことで、試用期間を理由に解雇することはできません。

試用期間は通常よりも解雇の理由が認められやすいとはいえ、会社の都合で自由に辞めさせることはできないということです。これは会社の就業規則にどのような試用期間の定めがあっても同じです。


採用段階でのフィルタリングで雇用後のトラブルの解消を!

試用期間は解雇の理由が通常よりも広く認められているとはいえ、解雇はできる限り避けたほうがよいということは、試用期間以外の場合と同じです。そのためには採用にあたっての能力の把握のためのテストを行ったり、いろいろなポジションの社員との面接を実施して人間性の把握に努めたりするなどして、採用段階でできる限りのフィルタリングをすることが大切です。

こうして手を尽くしても、やはり実際の現場で働いてからわかる能力や、顧客応対などの問題が、引き続き雇用するに耐えられないようであれば、初めて試用期間中の解雇を検討することとなります。「とりあえず雇って、ダメなら試用期間で辞めさせよう」といった姿勢だと、採用費がムダになるだけでなく、解雇を巡ってもリスクを抱えることになります。


試用期間は新入社員の意識を変えるよきツール

ここまで書いたように試用期間は解雇の特例が認められていますが、このことは試用期間の一面でしかありません。試用期間中と試用期間後の給与体系や等級を変える会社があるように、会社と社員双方が、試用期間はトレーニング期間であり、試用期間満了後は一人前に働いてもらうといった一つの区切りとしてとらえれば、新入社員の意識を変えるよいきっかけとなります。給与や人事制度に試用期間を組み入れるといったポジティブな試用期間の利用方法こそが、試用期間を定める本当のメリットといえます。
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