2014年から2015年の年またぎ企画として、電通四季劇場[海]で上演中の『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』。様々なミュージカルナンバーをゴージャスに構成したショー形式の作品です。今回のコンセプトは”劇団四季の現在と未来”。本作にヴォーカルパートでご出演の劇団四季俳優・上川一哉さんにお話を伺って来ました!

瞬発力を意識して作品の世界を大切に伝えていく


上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


――上川さんはショー形式の作品には今回が初参加ですが、お稽古に参加してみていかがでしたか?

上川
通常のミュージカル作品と違い、1つのストーリーが展開していく舞台ではないので、1曲ごとに気持ちや体のモードを切り替えるという感覚を自分の中に入れて行くのが最初はとても大変でした。殆ど手探りの状態だったかもしれません。

――中でも1番厳しいと思われたのはどんな事でしょう?

上川
今回僕はヴォーカルパートで参加させて頂いていますので「歌」で作品の内容だったり、曲に込められたメッセージをお客様に届けるというのが1番の仕事なんですね。1曲1曲としっかり向き合い、どうやったらきちんと伝わる歌を歌えるのか……そこを深く考えました。

上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


――『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』(以下四季フェス)の中で、上川さんはご自身が演じられた『ウィキッド』や『リトルマーメイド』のナンバーも歌われていますが、作品の中で役を演じるのと、ヴォーカルパートとして四季フェスの中で歌われるのはまた違う感覚ですよね。

上川
ああ、それはもう全然違いますね。作品を通して役を演じる時はストーリーの中でその曲を歌う流れが出来ていて、そこに自然に乗って行けるのですが、今回のように1曲1曲すぐに気持ちを切り替えて歌う構成ですと助走が出来ないというか、一瞬でその世界に入る瞬発力がより大事になると思います。

――今回は構成・振付・演出が加藤敬二さんですが、加藤さんとの現場はいかがでしたか?

上川

最初に加藤さんの振付で作品に出させて頂いたのが『夢から醒めた夢』(2006年)や『エビータ』(2006年~)だったのですが、当時は入団して1,2年で右も左も分からず、ただ必死に付いていくという感じでした。あの時も沢山厳しいお言葉を頂きましたが、当時があったからこそ今があるのかな、と思っています。

今回、ヴォーカルパートでの出演ではあるのですが、「フレンド・ライク・ミー」(『アラジン』)のパートではダンサーとして踊る場面も用意して下さって感慨深いです。

四季

『劇団四季FESTIVAL!』(撮影:荒井健)


――本作では芝(清道)さんや味方(隆司)さんらのベテラン勢ともご一緒ですね。

上川

いやあ、本当に得るものが大きいです。芝さんからは歌に関して様々なアドバイスを頂きますし、実は”見て盗ませて頂いている”ところがかなりあります。味方さんはあの存在感が凄いと思いますし、台詞の言い回しや間(ま)を同じ舞台に立ちながら勉強させて頂いています。

――ご自身が担当されているナンバーで特に思い入れが深いパートはどこでしょう?

上川

特に”頑張らないと”と思うのは「一歩ずつ」(『リトルマーメイド』)ですね。オリジナルキャストの1人としてエリックを演じさせて頂いた事もあり、しっかりお客様に届けないといけない、作品の世界観をお伝えしたいという思いがより強いナンバーです。

フェス

『劇団四季FESTIVAL!』(撮影:荒井健)


――では難しいな、と苦心された場面は?

上川

特に難しいと感じるのは「ハンニバル」(『オペラ座の怪人』)等、クラシックの歌い方が要求されるナンバーでしょうか。僕は元々、四季ではダンサーとしてスタートした事もあり、クラシックの歌唱法に関してはまだまだ勉強しなければいけない事が沢山あるな、と痛感しています。ただカンパニーの中にはクラシックの勉強をなさって来た方達もいますので、”もっと横揺れのリズムを感じて”など、色々アドバイスも頂けています。こういう風にその道に詳しい方達から教えて頂けるのが劇団四季の素晴らしい所です。


上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


⇒ 上川さんが高校時代にハマったモノとは?(次ページ)


 

高校時代はストリートダンスに夢中!


――上川さんが劇団四季に入るきっかけになったのは『ライオンキング』観劇だと伺っています。

上川

ライオンキング』を初めて観たのが島根に住んでいた中学生の時で、「ああ、こんな世界があるんだ!」って凄く感動したんですね。でもそこからすぐに四季を目指して何かを勉強するという方向にはいかず、高校生の頃はずっとストリートダンスをやっていたんです。そんな中でジャズダンス等にも興味が出て、色々なジャンルのダンスレッスンを受けるようになっていた時に通っていたダンススクールの先生から「1回受験してみたらどうだ」と薦められ、高校3年生の時に研究所のオーディションを受けました。

その時は周りにいる人たちと比べると畑違いの場所に来てしまったというか……とても良い刺激になったし結果はどうでも悔いはない!位に思っていたんですが、運良く勉強するチャンスを頂き、今に至ります。
 

上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


――プロフィールを改めて拝見すると、アンサンブルでの出演を経てメインキャストとして舞台に立たれている作品も多いですよね。

上川

ああ、確かにそうかもしれません。とても嬉しい事ですよね。アンサンブルとして作品に関わりながら勉強させて頂くことも多くて、色々な方向から作品や役を捉える事が出来たのだと思います。
 

2011年
『ユタと不思議な仲間たち』東北公演で得たもの


ユタ

『ユタと不思議な仲間たち』 東北特別招待公演(写真提供:劇団四季)


――2011年、東日本大震災後に東北特別招待公演として巡演した『ユタと不思議な仲間たち』では俳優として大きな経験をされたそうですね。

上川

はい、まず現地に着いてその場所を見た時に”言葉にならない”ってこういう事なんだと凄い衝撃を受けました。そんな中、被害に遭われた方達の前で”ユタ”という「死」を考えている少年の役を演じるという事に対して当然プレッシャーもありましたし、とてつもない責任も感じていました。

しかも公演先が整備された劇場ではなく、体育館という環境の中、子どもたちがすぐ目の前にいて舞台を観てくれているんです。1つ1つの台詞や踊り、歌の全てに嘘があってはここにいる意味がないと演出家からも言われていましたし、自分もそこは肝に銘じていました。

 

ユタ

『ユタと不思議な仲間たち』(撮影:荒井健)


テレビや新聞のニュースで見聞きするのではなく、自分たちがそこに足を運んで現地の状況を間近に見ることで思う所も本当に多かったです。「生かされている」という事に感謝しなければいけないとカンパニー全員が強く思って舞台に立たせて頂いていました。

劇団四季のツアー公演では俳優が舞台のバラシ(撤収作業)に参加をします。この時も勿論そうだったのですが、そういう作業を通じて”舞台公演は俳優だけでは成立しない”という当たり前のことをとても強く実感しました。色々な立場、セクションの方達の力があってこそ俳優は舞台に立てるのだなあ、と。若いうちにこういう経験をする事で舞台人として自覚が芽生えたのではないかと思います。貴重な経験をさせて頂きました。

 

ユタ

『ユタと不思議な仲間たち』 東北特別招待公演(写真提供:劇団四季)


 
上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


――ここまでお話を伺って、上川さんは前向きでありながら地に足の着いた考え方をなさる方なのだな、と感じています。これまで大きな壁にぶつかった事はありますか?

上川

それはやっぱりありますよ(笑顔)。入団してすぐ『エビータ』に出演させて頂いた時に、加藤さんの厳しい言葉がグサグサ刺さって……。勿論今でしたら「育ててくれようとしているんだ」って、指導する側の愛情を受け取ることもできるのですが、当時はまだ自分自身混乱し、色々なことを考えて「辞めた方がいいのかな」と悩んだりもしましたね。

――そんな事があって時を経た今、加藤(敬二)さんとこういう形で組めるのは嬉しいですね。

上川
本当ですね。『ユタと不思議な仲間たち』でユタを演じさせて頂いた時にも加藤さんにはたくさんの事を教えて頂きました。加藤さんもずっとユタ役を演じていましたので。その時も”絶対に演じる上で嘘は吐くな”と良く言われましたね。少しでも”嘘”があると、加藤さんにはすぐ見抜かれます。ですから今回の四季フェスでも絶対に嘘がないよう毎回舞台に立たせて頂いています。でないと僕があの場所にいる意味が無くなってしまいますので。


⇒ 『リトルマーメイド』エリック役で苦労した意外なコトとは?(次ページ)



原点に帰れる作品
『人間になりたがった猫』

――これまで演じてきて特に思い入れが強い作品や役は何でしょう?

上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


上川

人間になりたがった猫』は初舞台を踏ませて頂いた作品という事もあり、後に主役のライオネルをやらせて頂いた時は凄く嬉しかったです。

実はライオネル役のオーディションの前日に島根の家族から祖父の危篤の知らせが入ったんです。いろいろと葛藤したのですが、その時に”今、帰っちゃいけない”と強く思い、オーディションを受ける道を選びました。その後病室に向かい、意識がない状態ではありましたが祖父に会う事も出来て、病院にいる時に劇団から合格の知らせを受けました。

そういう意味でも『人間になりたがった猫』は僕の原点でもある作品で、何かあった時はあの時の気持ちに帰るようにしています。大切な作品ですね。

稽古場では革靴着用
「ロイヤル感」を意識した『リトルマーメイド』


――『リトルマーメイド』のエリックや『ウィキッド』のフィエロは”王子様”という設定ですが、ご自身の中に”王子様モード”はありますか?

上川

いやいや(笑顔)、僕自身は全然王子様キャラじゃないですね(笑)。ん?王子様……王子様って何なんだろう?……位の感じで。『ウィキッド』のフィエロはそこまで王子様色が強くはなかったのでその点に強くアプローチする事はなかったのですが、『リトルマーメイド』のエリックは本当に「王子様」じゃないですか。

リトル

『リトルマーメイド』(撮影:下坂敦俊)


エリックをやらせて頂くことが決まった時に、稽古場でディズニー側のスタッフから”ロイヤル感”を意識するようにと何度も言われました(笑顔)。例えば稽古初めでまず「ダンスシューズはNG」と言われ、稽古中は基本革靴を履くようにしていましたし、ジャージも駄目。きちんとした服装をし、稽古場にいる時から王子と言う事を常に意識するようにしていました。

それで時に「大変だなぁ」って思ったりもしたのですが、ある時「ああ、エリックもきっとそうだったんだな、だから海に出たんだな」……と。こういう感覚がエリック役と自分とを繋げる際の1つのヒントになったと思います。

――上川さんは普段から”役”を引きずるタイプですか?それとも劇場を出たらすぐ切り替えられる方?

上川

かなり引きずる方ですね。ライオネル(『人間になりたがった猫』)の時には動作が猫っぽくなってしまいますし、ユタ(『ユタと不思議な仲間たち』)の時は姿勢が悪くなって、いつもうつむいているような感じでした。意識的にそうしている訳ではないのですが、気が付いたらそうなっているという感じでしょうか。それを自覚すると、役と自分がリンク出来ている様な気がしてかえってほっとします(笑)。

上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


――これまでストレートプレイへの出演経験はありませんが、今後はいかがでしょう?

上川

是非やらせて頂きたいです。台詞と演技のみで伝えていくストレートプレイに出させて頂くことで、自分自身大きな勉強が出来ると思いますし、芝居を深めていけたら嬉しいですね。その時は敢えてなるべく難しい役に挑戦したいと思います。

――毎日お稽古と舞台とでお忙しいと思いますが、どうリフレッシュされていますか?

上川

僕、走るのが好きなんです。ジョギングが趣味ですね。距離とか時間はそんなに意識していないのですが、「汗をかき足りない」って思った時に走ります。仕事場が主に劇場内ですので、外の空気を吸ったり、太陽の光を浴びたりすることが気分転換とリフレッシュになっているのかな、と……光合成みたいなものです(笑)。大体オフの日は午前中にパーッと走って、午後は寝ることでエネルギーのチャージをしています。

――最後になりましたが、『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』をご覧になった方、これからご覧になる方にメッセージをお願いします。

上川

劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』は、劇団四季のレパートリー作品の中から特に代表的だったり人気の高いナンバーをセレクトして構成していますので、1曲1曲の持つエネルギーも大きいですし、たくさんの方に楽しんで頂ける作品になっていると思います。舞台装置や照明、衣裳など見どころも多く、ご覧頂く度に新しい発見をして頂けるのではないでしょうか。出演者一同、構成・振付・演出の加藤敬二の下(もと)、お客様に歌やダンスの持つメッセージをお伝えできるよう日々頑張っておりますので是非劇場にお越し下さい。お待ちしています!

上川さん

(撮影:演劇ガイド・上村由紀子)


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『劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ』にヴォーカルパートでご出演中の上川一哉さんに、マチネの終演後お話を伺いました。

インタビューをする中で特に感じたのは「素直でありながら芯の強さ」を持った俳優さんだな、という事。誠実に言葉を選びつつ、時に話が脱線した時の笑顔がとても魅力的でした。インタビューの中でもお話頂きましたが、上川さんの強みの1つがファミリーミュージカルやアンサンブルの経験をしっかり積まれている事だと思います。子どもたちの素直な反応に鍛えられ、作品を多面的に捉えて来た事が今の彼の輝きに繋がっているのではないでしょうか。

四季フェスではヴォーカルパートでのご出演ですが、ダンスシーンで見せるキレのいいダンスや「ラブ・チェンジズ・エブリシング」(『アスペクツ・オブ・ラブ』)での大人っぽい佇まいも要チェックです!

劇団四季FESTIVAL! 扉の向こうへ
電通四季劇場[海]で2月1日(日)まで上演中
劇団四季公式HP

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