2015年、エンタメ業界最初の大ニュースと言えばコレしかないでしょう! 演劇界の巨匠・蜷川幸雄氏とジャニーズ事務所のトップ・ジャニー喜多川氏による対談トークの公開。1月1日にNHKラジオ第1で『蜷川幸雄のクロスオーバートーク』第1回として2時間に渡ってオンエアされた同番組は各所で大きな話題を呼びました。

出会いは50年前
79歳の蜷川氏と83歳のジャニーさんが語る

この番組が収録されたのは2014年の9月。当時帝国劇場で上演中だったジャニー喜多川氏演出の舞台『ドリームボーイズ』(Kis-My-Ft2 玉森裕太さん主演)終演後に劇場内での対談が実現。実際に顔を合わせるのは3,4年振りだというお二人からどんな話が飛び出したのでしょうか。

ジャニー喜多川氏が所属タレントを「You」と呼ぶ理由

バラエティ番組などでもお馴染みの「ユー」という呼称。蜷川さんがこれに対して質問すると、ジャニーさんから返ってきた言葉は「アメリカでは相手をYouと呼ぶのは普通の事」「タレントの名前を覚えられない時に便利」という2つの理由。「いやー タレントの名前を全部覚えるのは正直無理。僕の悪い所なんだけどね」とジャニーさんがお茶目なトーンで語ります。

主役の選び方

「舞台の主役はどうやって選んでいるか?」という蜷川さんからの問いに対してジャニーさんの答えは以下。

「こちらから掬っていく。バックで踊っているのを見たら大体分かります。色々な子がいますね。鈍感な子もいるけどそれはそれで面白い。」

お二人の交流は50年にも及ぶそうですが、最初にジャニーズ事務所のタレントが蜷川幸雄演出作品に参加したのは1989年(オンエアでは約20年前と語られていました)。当時「男闘呼組」所属の岡本健一さんが、日生劇場で上演された『唐版・滝の白糸』に出演したのが始まりだそう。

その頃からジャニーさんに対して「誰か若くて良い俳優を紹介して欲しい」と蜷川さんサイドより度々要請があり、同じく1989年にSMAPの木村拓哉さんが『盲導犬』に出演。この後、ジャニーズ事務所の多くのメンバー達が蜷川演出作品の舞台に立つことになります。ちなみに、『盲導犬』のキャストを選ぶ面接には木村さんと共に中居正広さんも参加し、残念ながら落選という結果になったとか。

タレント、俳優を育てるという事

蜷川さんが次に挙げたジャニーズのメンバー名は森田剛さん。「ジャニーズ事務所は懐が深い。森田君みたいなちょっと変わった子もいるし」これに対するジャニーさんの答えは「ああ、顔で選ばないからね」。一瞬「ちょ……!」とツッコみたくなりますが、蜷川さんが森田剛さんの事を高く評価しているのは演劇界では有名な話。「変なひげで……野ネズミみたいで」と語る蜷川さんに「あー とうとう言っちゃった」と楽しそうに返すジャニーさん。

そして話はジャニーさんの生い立ちやジャニーズ事務所の変遷、ジャニーさんがどうも気に入らないらしい”今時の子は皆同じ髪型”トークを経て、「俳優・タレント育成の肝」に入っていきます。

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ジャニー喜多川氏
「僕らが扱っているのは”人間”」

ジャニー喜多川氏が事務所を立ち上げるきっかけともなったのが、1961年公開の映画『ウエスト・サイド物語』。中でもジャニーさんが1番好きだという作品中のナンバー「cool」を聞いたところで蜷川さんから核心とも取れる質問が発せられます。

「いい子だと思って採ったら実はダメだった、って子も居るでしょう?」

この問いに対してジャニーさんは「いない。僕等は”人間”を扱っている。どんな子でも輝きや良い所を持っている。」と返答。

アイドル作りは人間作り、芸能界で1番大切なのは”真面目な事”と話すジャニーさん。その語り口はとてもソフトで謙虚。マスコミで独り歩きしている「ジャニー喜多川」氏のイメージとは大きく異なるものでした。
 

蜷川幸雄氏
「問題児の方が伸びる」

番組冒頭からしばらくはホスト役として聞き手になっていた蜷川さんが自らの”俳優論”を語るのは番組後半になってから。この時に蜷川さんの口から出た俳優名は藤原竜也さんと綾野剛さん。中学生の時は眉を剃っていたという藤原さんに対して「どちらかというとひねくれていて、問題児の方が伸びる。」と語る蜷川さん……何だか嬉しそうです。

「30代になった俳優に演劇的な経験を積ませてシェイクスピアの台詞を喋れるようにする。」「テレビのインタビューで生意気な態度を取っていたらすぐ電話。」「稽古場にどういうテイで入ってくるかという所から俳優を見る。僕らの仕事は共同作業。集団で気持ち良く仕事をする事が大事。」「死ぬ前にもっと色々なことを伝えて、自立出来る俳優を育てる。」

「この腐った世の中に危機感がなければバカ。」……そう言い切る蜷川さんからはいつまでも変わらず”挑戦者”として現場に居続けるという覚悟を感じました。
 

時代を走り続ける二人のトップランナー

蜷川幸雄のクロスオーバートーク』第1回放送分として実現した二人のトップランナーの対談。比較的マスコミの取材を受ける機会が多い蜷川さんはともかく、新聞・雑誌等の紙媒体にコメントを出すことはあっても、その姿や肉声を公にすることがほぼないジャニー喜多川氏が、こういう形でメディアに出演し、独自の「タレント論」や「舞台に対するこだわり」を語ったことはエンタメ界の大ニュースではないでしょうか。

ラジオから流れるお二人のトークを聞いていて、個人的には蜷川さんが「いつまでも闘い続ける人」であり、ジャニーさんは「ただ真っ直ぐに夢を追う人」という印象を受けました。

約2時間のオンエア中、ジャニー喜多川氏の口から否定的な言葉やネガティブな単語はほぼ出ず(唯一氏が否定的な言葉を発したのは”今の若い子は皆同じ髪型でつまらない”という文言のみ)

「芸能は自分にとって一つの宿命。素晴らしい世界である。」「昔は良かった、なんて一度も思った事はない。今が一番良い。」「理屈っぽいジジイみたいなことは言わない。カッコ良く生きたいから。」「3時間の(舞台の)中で、1分でも(観客が)気に入らない所があったら返金する。」等々のポジティブ名言も飛び出し、終始和やかなムードでオンエアは終了。79歳と83歳……常に変化を恐れずトップを走り続けるお二人のトークは非常に聞き応えのあるものでした。

9月の番組収録後、11月に海外公演先の香港で倒れ、日本の病院に緊急搬送された蜷川さんですが、1月22日には彩の国さいたま芸術劇場で自身が演出する藤原竜也さん・満島ひかりさん主演の舞台『ハムレット』の幕が開きます。

また帝国劇場ではこのラジオ番組のオンエア日と同じ1月1日に初日を迎えたジャニー喜多川氏作・構成・演出の舞台『2015新春ジャニーズ・ワールド』が上演中。

きっちり同じラインの上を進む事はなくとも、どこかでリンクしながら日本のエンタメ業界にエネルギーを注入し続けるであろう蜷川幸雄氏とジャニー喜多川氏。79歳と83歳の二人の活躍から今年も目が離せません。

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