300年以上に及ぶクラシックの歴史は、そのまま名曲の宝庫でもあります。ジャズの世界でも、クラシックの名曲を取り上げ、見事に名演奏になっているものも数多くあります。今回はその中から、ジャズっぽい雰囲気たっぷりの名演ベスト3をご紹介します。まずは、コチラ!
 

第1位 スタンリー・タレンタイン 「On a Misty Night」より「ザ・ランプ・イズ・ロウ」 

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この「ザ・ランプ・イズ・ロウ」は、「ボレロ」で有名なフランスの作曲家モーリス・ラヴェルの人気曲「亡き王女のためのパヴァーヌ」より作られた曲です。

その幻想的で美しいテーマを持つラヴェル初期の名曲を、タレンタインはまるで、タレンタインのための曲かのようにブルージーにグルーヴします。
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スタンリー・タレンタインは、1934年生まれのテナーマンで、モダン・ジャズ期にドラマーのマックス・ローチのバンドで頭角を現しました。そして時代がフュージョンに変わっ70年代に見事に転身。フュージョンサックス界でも第一人者になった実力者です。

フュージョンにベストマッチしたサックス奏者の共通の特徴として、ブルーノート・スケール(三度と五度と七度の音が♭する)の使い方がうまいということが挙げられます。まさにタレンタインはコード分析的なソロと、ブルーノートのさじ加減が絶妙。さらにその真骨頂ともいえる、ここぞという場面で出す「ペッポ!」と聴こえる特徴的なハイFの音。これらはタレンタインを大衆的な人気者にしました。

好き嫌いが分かれるプレイヤーですが、このブルージ―さが好きになったら、ハマってしまいます。このタレンタイン最大の武器の特徴は、クラシックを演奏するときでも同じです。この「ザ・ランプ・イズ・ロウ」は、まさにハマり曲。ジャズで演奏されたクラシック曲の中でも1、2を争うカッコよさです。

タレンタインは、この曲の他にも「ピーセズ・オブ・ドリームス」というアルバムでは、「ディープ・イン・ラブ」(ブラームスの交響曲第三番)をやっています。クラシックの曲であってもタレンタイン風に料理できる自信が感じられます。そして、意外に本人がクラシック好きなのかもしれません。

それでは、普通のジャズ曲においてのタレンタインのベスト演奏はと言われると、CTIレーベルの特徴的なジャケットが印象的な「チェリー」。中でも1曲目の「スピードボール」ということになります。
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 「チェリー」より「スピード・ボール」

ハード・バップを代表するトランペット奏者のリー・モーガンの作になるこの曲は、十二小節のブルースに、十六小節の第二テーマが付いた変則ブルース。アドリブ部分は、通常の十二小節ブルース進行で取られています。
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天才リー・モーガンのテーマ曲のようなこの曲を、タレンタインは、いつも通りにタレンタイン色に仕上げています。快調なテーマからアドリブに入ってもますます絶好調。最後までスタンリー節に酔える、代表的名演と言えます。

ここでの相棒のミルト・ジャクソンもさすがの貫録。いつものように相当に粘っこいブルース・フレーズを弾いています。それでもヴィブラフォンの爽やかな音色が、演奏のべたつき感を抑え、格調高く聴こえるのに一役かっています。

次のページでは、腕自慢がこぞって挑むショパンのあの曲の登場です!

第2位 ラムゼイ・ルイス 「コンシダー・ザ・ソース」より「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」(革命のエチュード)

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ラムゼイ・ルイスは、1935年シカゴ生まれのジャズ・フュージョン・ピアニストです。そのラムゼイにとって、クラシックは一度は本気で目指した道でした。

幼少の頃よりクラシックピアノのレッスンを受け、大学ではピアノを専攻。卒業後には、シカゴ交響楽団とピアノ協奏曲を演奏したという将来を嘱望された本格派です。

それが、一転ジャズをこころざし、ベースのエルディー・ヤングとドラムのアイザック・レッド・ホルトとで、ラムゼイ・ルイス・トリオを結成。1956年地元シカゴで活動を始めたと同時に、地元のチェス・レコードの目に留まりデビュー。

そのまま、瞬く間にシカゴで人気のトリオになりました。そして次の転機は、1965年。「ジ・イン・クラウド」によってグラミー賞のジャズ部門を受賞し、一躍全米で人気のピアノ・トリオになったというシンデレラ・ストーリーです。

このCDでは、1曲目にフランスのジョルジュ・ビゼーの有名なオペラ「カルメン」をやっています。ソロの途中には「エニシング・ゴーズ」などジャズのスタンダード曲を引用し、ラムゼイ流のジャズとクラシックの融合を楽しんでいる様がうかがえます。

そして、さらにおもしろいのは4曲目「マイ・ファニー・ヴァレンタイン」です。この有名なジャズ・スタンダードで、なんと前奏部分に有名なクラシックのピアノ曲を高らかに奏でるのです。

それは、「ピアノの詩人」と呼ばれたフレデリック・ショパンの「革命のエチュード」です。そのまま、マイ・ファニー・ヴァレンタインのテーマに入るというなんともユニークな解釈に驚きます。

この受けを狙ったかのような、なんでもありの割り切ったスタイルが、ラムゼイの真骨頂でもあり、同時に真剣なジャズファンには敬遠される部分でもあります。それでも、このラムゼイ特有の軽妙洒脱なポップさが彼をして、人気者にしたことも事実です。
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このトリオのドラマー、アイザック・レッド・ホルトが抜けた後にドラマーの椅子に座ったのが、後にファンク・ミュージック界を席巻するスーパーバンド「アース・ウインド&ファイアー」のリーダーとなるモーリス・ホワイト。

モーリスは1970年までの4年間もラムゼイ・トリオのドラマーとしてラムゼイを支えます。そのラムゼイ・トリオの経験が、モーリスにとっていかに大きなものだったかは、計り知れないものがあります。

ラムゼイとの活動に恩義に感じたモーリス。ラムゼイの元を離れてすぐに結成し、1974年当時はすでに全米NO.1ヒットを放っていた「アース・ウインド&ファイアー」を引き連れて、ラムゼイの後押しをします。
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 「太陽の女神」より「太陽の女神」

そして、モーリスの後押しの甲斐あり、そのラムゼイのアルバム「太陽の女神」は大ヒット、ついにグラミー賞を受賞するまでにいたります。その辺も、ラムゼイの人柄と、ミュージシャンとしてデビュー当時からの変わらない「持っている男」ぶりを示すエピソードと言えます。
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最後のページでは、クラシック界とジャズ界最大の天才2人の登場です!

第3位 バド・パウエル 「バド!ジ・アメイジング・バド・パウエルVol3」より「バド・オン・バッハ」

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最後はビ・バップの天才ピアニスト、バド・パウエルです。この「バド・オン・バッハ」はジャズの天才、奇才として有名なバドが、精神病やアルコール中毒により自分の思うとおりに演奏ができなくなってしまった時期の演奏です。
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バド・パウエルは、モダン・ジャズピアノのスタイルを作り上げた最大の功労者にして、最高のピアニストです。ただし、バドのインスピレーションに見合う演奏ができたのは1940年代後半までと言われています。

精神病を患い、その治療のための電気ショック療法。重度のアルコール中毒。さらには、警官の暴行が原因と言われる頭部への打撃による損傷など、不幸な要因が重なったのです。

事実、40年代と50年代では、別人のように聴こえるものも少なくありません。このバドのブルーノート・レーベルでの第3弾「バド!ジ・アメイジング・バド・パウエルVol3」は、そうした後期の兆候が表れているアルバムでもあります。

中でも、「音楽の父」と呼ばれ、音楽史上最も偉大と言われるヨハン・セバスチャン・バッハを取り上げた「バド・オン・バッハ」に顕著です。

ここでは、最初に学校の音楽室から聞こえてくる練習のような、たどたどしいバッハの曲が聴こえてきます。バドの頭の中ではおそらくは荘厳なバッハが高らかに鳴っているのでしょう。でも、私たちが聴くことができるのは、おそらくはバドが思う何分の1にも満たないピアノの演奏です。

そして、聴く者がやるせない気持ちになりかかったときに、やっとバドは目を覚ましたかのようにジャズを奏で始めます。その瞬間が、夢から現実への狭間、狂気の世界からジャズへと変わる瞬間です。この一瞬に、強烈にジャズを感じ、演奏者としてのバドの生身の音楽を感じます。

ジャズは決して、完ぺきな音楽ではありません。たとえ、思うように指が動かなくても、体臭のような自分独自の音楽を奏でることができるものです。そしてその強烈な個性こそが、ジャズの、バド・パウエルの、魅力となっています。

50年代以降は評価が分かれるバドですが、最も人気がある曲はと言われると、迷わずこの曲が選ばれます。後期の1959年、バド最大の人気盤がコチラ!
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「ザ・シーン・チェンジズ」より「クレオパトラの夢」
この「クレオパトラの夢」は、テレビなどでもよく流れており、バド最大のヒット曲として、一度は耳にしたことがある方も多いと思います。エキゾチックな題名と、哀愁あふれるテーマは耳になじみ、聴きやすくバド最大のヒット曲と言っても良い人気曲です。
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この人気曲は、ブルーノートでの最後のアルバム「ザ・シーン・チェンジズ」の1曲目に入っています。このアルバムは、ジャケットも秀逸です。物憂げなそれでいて、シャープさが残る真剣な表情でピアノに向かうバドの後ろには、覗き込むように小さな顔を見せるバドの子供の聡明そうな横顔。全体のブルーの色調といい、構図といいジャケットから、このアルバムが特別なものである雰囲気が伝わってきます。

この「クレオパトラの夢」は、後世のジャズ・ピアニストに多大な影響を及ぼしたジャズピアノの巨人バド・パウエルに相応しい格調高い曲調と言えますが、実はこの曲は同じピアニストからの評価がわかれる曲でもあります。

熱心なバド・パウエルの信奉者として知られるピアニストのバリー・ハリスが「そんな曲は知らないね」とつれなかったり、日本を代表するピアニスト穐吉敏子には「あんな曲より、テンパス・フュージット(同じくバドのオリジナル曲)の方が数段良い」と言われる始末。

特にバドを崇拝するミュージシャンからは人気がないこの曲です。それでもその数倍、数百倍のリスナーより支持されているのもこの曲です。おそらくは、ミュージシャンサイドとしては、神がかった絶頂期のバドの姿がここにはないということなのでしょう。

この曲には人間バド・パウエルの等身大のベスト・プレイが宿っています。ことテーマの曲調やアドリブという木や枝を見る観点からはその通りと言えます。しかし、音楽と言う大きな森を見る全体像からは、この「クレオパトラの夢」が名曲、名演であるのは間違いがないところです。

クラシックの名曲をジャズで聴く!いかがでしたか?ジャズよりも長い歴史を誇るクラシックには、まだまだ名曲がズラリと揃っています。

そして、それに挑戦したジャズの名演も他にもたくさんあります。またの機会にでも、それらをご紹介いたします。それでは、また次回お会いしましょう!
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