いやほど知ってるつもりが……

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今年の流行語大賞は2年ぶりにお笑いの世界から「ダメよ、ダメダメ」が選ばれました。授賞者の日本エレキテル連合は、デビューから7年、業界内やお笑いマニアからは高い評価を受けながらも、一般的知名度は決して高くなかった彼女たちが、2014年に大ブレイクを果たしました。

出世作となったのは、ご存知「未亡人朱美ちゃん3号」のネタですが、今年一年テレビではほぼこれのみがオンエアされていたため、正直、皆さん飽きるほど見ているのでは? しかし、あのインパクト絶大なメイクに目を奪われて、肝心のストーリーが頭に入らなかったという方も少なくないでしょう。

今年に限らずお笑い芸人による流行語は、その言葉自体は後々まで残ったとしても、なぜそれが大受けしたのかという肝心なところは忘れ去られてしまうものです。そこで、この年末にエレキテルの出世ネタを再検証して、その面白さを深掘りしてみたいと思います。

子どもは怖くて面白いものが大好き

まずネタに入る前に、流行語大賞獲得の「ダメよ、ダメダメ」について、なぜあそこまで流行したのか考えてみたいと思います。時系列をたどると、4月12日放送の「めちゃイケ」(フジ系)でAKB卒業の大島優子とコラボして、ダブルおしゃべりワイフが「ダメよ、ダメダメ」を連呼したことが大きかったかと。

子どもたちもよく見るあの番組で、強烈なインパクトを残したことが、その後の展開に多大な影響を及ぼしました。「怖いけど笑える」という感覚は、奇しくも同じく流行語大賞のトップ10に輝いた「妖怪ウォッチ」と共通しています。

時代をさかのぼってみても、ゾンビのようにただ純粋に怖いものには近づかない子どもも、そこにユーモラスな感じを加えたキョンシーであれば、興味津々で何度もリピートして見てしまいます。おそらく今後も「怖くてユーモラスなもの」は、定期的に流行っていくことでしょう。


なぜ朱美ちゃんは白いのか?

こういった流行とは別に、ネタ自体を詳細にチェックしていくと、数分間のコントにもかかわらず、ディティールにまで趣向を凝らした設定とストーリー展開であることに驚かされます。エレキテルの他のコントを見ても、インパクトについてはかなり重視しているものの、これほどストーリーに凝ったものは少なく、そういう意味でも異色作といえるでしょう。

まず冒頭から見ていくと、橋本小雪演じる未亡人朱美ちゃんは「ウーン」とか「前の亭主が忘れられなくて」などと、商品名の「おしゃべりワイフ朱美ちゃん3号」どおり、結構おしゃべりしています。しかしこのネタを初めて見る観客には、彼女がなぜ白塗りなのかまだ分かりません。最後まで見終わってようやく、人形だからあの白さなんだと気づかされるのです。

一方、中野聡子演じる細貝さんは、言葉巧みに朱美ちゃんを口説きに掛かりますが、こちらも初見の時と、朱美ちゃんとは細貝さんの購入した人形だと判明した時では、場面の印象ががらりと変わって見えます。要するに細貝さんは、自分で購入したおしゃべり人形を口説いていた訳です。深読みしてみると、おそらく細貝さんは女性を口説いたことがなく、その興奮を味わいたかったのでしょう。

1つの言葉に3つの意味

それを受けての朱美ちゃんは、例の「ダメよ、ダメダメ」を連発します。わざわざ説明することでもないのでしょうが、これは拒絶の意思表示ではありません。しかし、演劇やドラマならともかく、コントの中で台詞に逆の意味を持たせるという高度な技術は、今まで見たことがありません。

そこからドンドンと不具合は進行していき、大きく首を振りながら「ダメよ、ダメダメ」を連呼していきます。ここでの「意味」は拒絶でも同意でもなく、はっきり故障している状況を知らせる警報のようなものです。そしてラストで、あたかも自分が返品されると知って絶叫しているかのような「ダメよ、ダメダメ!!」。ここでようやく本来の拒絶の意味に使われます。

これほど複雑にレトリックを駆使したものは、幅広い層に楽しんでもらうコントに向かない筈が、流行語大賞に選ばれるなんて、奇跡と言ってもいいかもしれません。さらに驚くことは、これほど複雑な構造のコント「未亡人朱美ちゃん」が、日本エレキテル連合の中では、分かりやすい部類に含まれるってことです。一発屋候補などとからかわれることもある彼女たちですが、個人的には新しい笑いの世界を切り開いてくれる存在になることを大いに期待しています。
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