鍼灸治療と安全性……「施術を受けない方がよいケース」はあるのか

鍼灸治療

代替医療として世界的に用いられている鍼灸。受けてはいけないケースというのはあるのでしょうか?


代替医療として世界的に用いられている鍼灸治療ですが、施術を避けたほうが良いケースはあるのでしょうか? その真意はあいまいで、鍼灸師を含む医療関係者間でも異なります。とはいえ、受ける側からすれば、施術を受けても良いのかどうかは気になるところでしょう。

特に子供や、妊娠中、手術後のデリケートな時期、糖尿病や高血圧、がんなどの持病がある場合に鍼灸治療を受けても大丈夫なのか、医療現場においてはどう考えられているのか、私の経験も踏まえて解説してみたいと思います。
 

鍼灸治療の目的は「バランスを整えること」

本題に入る前に鍼灸治療の目的を理解しなければこのテーマは語れません。そもそも鍼灸治療の目的とはなんでしょうか?

東洋医学全般にも言えることですが、鍼灸治療の大きな目的は“バランスを整える”ことです。私たちのカラダはある程度の変化に臨機応変に対応できるように作られています。しかし、対応できないほどの強烈な変化や日々の小さなストレスの積み重ねによってバランスは崩れ、体調不良や病気となります。

東洋医学には治療としていくつかの手段があり、鍼灸や漢方、気功、薬膳など の方法があります。これらの方法でもっとも効率的にバランスを整えることができるものを組み合わせていきます。

中でも、考え方によってたくさんの目的がある鍼灸治療ですが、一般的には「陰陽の調整」、「気血水の調整」、「痛みやコリを取る」、「自律神経の調整」という働きが挙げられます。


■鍼灸治療による陰陽の調整
陰陽図

すべてのものは陰と陽の性質に分けることができる、という考え方を表している陰陽図

東洋医学の基本理念に「陰陽論」があります。陰陽論とはすべてのものは陰と陽の性質に分けることができるという考え方のことです。

陰の性質を持つものを分けると月・大地・冷たい・下半身・女性などとなり、陽の性質を持つものを分けると太陽・天・温かい・上半身・男性となります。対になる概念を比較的して陰と陽を分けるだけなので絶対的なものではなく、相対的な考え方です。

たとえば、男性と女性を比較すれば、男性は「陽」、女性は「陰」となりますが、女性っぽい男性とたくましい男性を比較すれば、女性っぽい男性は「陰」、たくましい男性は「陽」となります。あくまで相手次第で陰と陽は入れ替わります。

陰陽の調和でわかりやすいのは、冷えている時は温め、熱があるときは冷ますといえば理解しやすいのではないでしょうか。冷えているならば、お灸やお風呂、食べ物でカラダを温めてあげる必要があります。


■鍼灸治療による気血水の調和
気血水

体内外を流れるエネルギーを構成する3つの物質「気血水」


東洋医学では基本的な3つの物質「気血水」によってカラダは栄養されると考えています。この気血水は「正気」と呼ばれ、私たちの体内外を流れるエネルギーです。

「血水」に関しては、多少意味合いは違いますが、血液やリンパ液、唾液、胃液、尿を想像してもらえば理解しやすいと思います。ただ、“気”という物質は目には見えないので、本当にあるかどうか……、そう考える方も多いのではないでしょうか?

気は見えずとも存在する物質と考えてられており、私としては“感じるもの”、“思い”であると思っています。気力・元気・覇気・根気などいろいろなところで使われている“気”です。この気がスムーズではないと病気になると考えています。気血水は、食事や空気などから五臓六腑で作り出されて全身に分布し、私たちは生きています。その気血水を体内で作り、循環させるために鍼灸を行うのです。


■鍼灸治療による痛みや凝りの除去……「不通則痛」「不栄則痛」
川の流れ、豊かな流れ

川の流れ、豊かな流れ、滞りのない流れ


「不通則痛」、「不栄則痛」とは、気血水の流れが悪くなると痛む、栄養が注がれないと痛むという言葉です。世の中にはたくさんの病気がありますが、基本的には何らかの“痛み”を起こします。風邪のときの喉の痛み、切り傷、悪性腫瘍による痛み、リウマチによる関節の痛み、心筋梗塞による胸の痛みなど、病には痛みが付き物です。

東洋医学では、この痛みが不通則痛、不栄則痛によるものと考え、気血水の流れる通路、「経絡」を整えることで、症状を緩和させます。そしてさらに病の根本を治療するべく、気血水、経絡と結びつきのある五臓六腑や精神面、体質、住環境などを考慮した治療を行います。

コリを取るというのも同じ発想で、凝り固まった筋肉は気血水が流れず滞っています。もともとカラダに気血水がないから凝り固まったのか、それとも流れが悪いから凝り固まったのかを考えながら施術を組み立てていくのです。

川や海などと同様に“いつも安定して循環している”ことが自然界の理であり、人もまた同様であると東洋医学は考えています。


■鍼灸治療による自律神経の調整
自律神経(交感神経と副交感神経)

          自律神経(交感神経と副交感神経)


そもそも自律神経は私たちのカラダの大部分を支配しています。内臓機能やホルモンバランス、免疫システムも自律神経の働きです。つまり自分ではコントロールできないものを支配するのが自律神経ということです。自律神経には「交感神経」と「副交感神経」があり、交感神経は活動的な神経、副交感神経はリラックスな神経といえます。お互いシーソーのような関係で成り立っています。

東洋医学では陰陽五行や臓腑、経絡といった特殊な理論を用いて診察診断しますが、その中でも陰陽が最も基本かつ重要です。陰陽もまた交感神経と副交感神経のようにシーソー関係が成り立つため、判断の材料にしていくこともあります。

施術によって副交感神経を高めていきたいと思えばリラックスしてもらうことが一番早く、安心感や信頼感も癒しとなり、副交感神経が優位となります。逆に、強い刺激など興奮を誘うことで交感神経を優位にできると考えます。施術の後、血行が良くなり肌がほんのり色づいてポカポカになったり、おなかがグルグル鳴るなどの現象は自律神経が動いた証となります。

私が運営している鍼灸マッサージ院でも、施術中にいびきをかいて寝てしまう方がいらっしゃいますが、そういった場合は心拍数や呼吸数が少なくなり、副交感神経が優位になっていることを実感できます。ただし、どのような場合でもリラックスが良いというわけでありません。たとえば、代謝が落ちていて太っている人は交感神経を優位にしなくてはいけません。

結果的に鍼灸治療の醍醐味は、「陰陽の調和」、「気血水の調和」、「不栄則痛」、「不通則痛」、「自律神経」を総合的に判断し、施術を組み立てていくことであると考えます。

では、鍼灸治療を受けてはいけない人はいるのでしょうか。
 

子供・妊婦や、持病がある場合も鍼灸治療は安全か

生薬

鍼灸治療をはじめ、どんな施術にも効果があれば副作用もある

まず結論から言うと、デリケートな時期であっても鍼灸の施術は行えます。

ただ勘違いしてほしくないのですが、必ずしもリスクがないということではありません。鍼灸治療をはじめ、どんな施術であっても効果があるのであれば、副作用もあることを知っておいてください。この世に万能なものなどないのです。ただし副作用が限りなく少なく、効果がしっかり出せるように私たちは多くを学んでいます。それが専門家です。

私の経営している鍼灸院は妊婦と子どもを専門で行っている治療院なので、デリケートと言わざる得ない方の施術を行っています。開院した当初、日本ではしっかり妊産婦のケアをする場所がなく、ましてやWHOでは妊婦への施術は禁忌と謳っていました。現在は妊婦への鍼灸治療はWHOも認めていますのでご安心を。

とはいえ、当院では問題が発生したことはありません。その理由は、丁寧に一人ずつ診て、施術を組み立てるからです。

約9年間、4万人以上の妊婦を見てきましたが、一人ひとりに合わせた施術を心がけてきました。丁寧で的確な施術を行えば、副作用は極力少なくできると確信しています。患者さまの主訴をしっかり見極め、症状と根本の両者に効果的で、かつ負担が少ない手技にて対応することが重要です。

また手術後も同様で、傷に直接鍼灸をすることはありませんが、免疫力を高める、傷の回復を促進するなどの目的で鍼灸を取り入れています。筋肉や神経、血管、さらには経絡や経穴といったパワーバランスについても考慮し、漢方薬や食事、運動指導を交えた施術を組み立てます。

小さな子供に至っても、通常の鍼から刺さない鍼などを使い分け、負担にならないように行う必要があります。言葉を上手に使えるまではなかなか意思疎通が難しいですが、子供の動きや表情を観察すると違和感を感じることができます。その違和感を整えることを第一としています。

 

安心して受けられる鍼灸院の選び方

では実際に鍼灸を受けるにあたり、どの鍼灸院に行ったら良いか参考までにポイントをあげます。

鍼灸師になるには3年以上学校に通い、国家資格を取得していますが、残念ながら資格があるから治療経験も豊富かというと、そうではありません。また経験年数の長さや、高齢であるという点も選ぶ基準にはなりません。鍼灸学校には18歳から60歳を過ぎている方まで幅広い年齢層が通っています。60歳で新人というのも良くある話です。

とはいえ、鍼灸治療には人生経験も重要です。大自然と体内の小自然を理解するには感性も問われてくるからです。そこで私が患者だったらどういう鍼灸院を選ぶか、独断と偏見でお話いたします。
 
  • 鍼灸だけでなく食事や漢方、運動など多岐にわたる知識を持つ(知識量)
  • 他の医療関係者(医師など)と積極的なかかわりを持ち情報交換している(最新情報)
  • 一人で一人の患者をじっくり見てくれる(一度に数人の患者を見ない)
  • 自分の経験だけで施術を行っていない(十人十色、一人ひとりの状態の見極め)
  • 治療院が清潔である(施術にも反映される)
  • 傲慢な鍼灸師ではない(人のつらさを理解できない)

町の小さな鍼灸院であっても、とても腕の良い鍼灸師はいます。きっと皆さんの健康維持の大切なツールになるのではないでしょうか。 

では子供や妊婦、術後は大丈夫だとして、それ以外に鍼灸をしてはいけない場合はあるのでしょうか?

 

鍼灸治療を避けたほうが安心な病気一覧

世界保健機関(WHO)によって、鍼灸治療を避けたほうが良い疾患を上げられていますので、病名をご紹介します。

「急性伝染病、急性腹症、重篤な心疾患、悪性腫瘍、血友病、壊血病、紫斑病、免疫不全症、肺炎など高熱を発する疾患、血圧が著しく高い時あるいは低い時、酩酊時、精神トラブル、その他重篤な状態にある時」

上記の病気の特徴としては、免疫力が落ちている、出血しやすい、心臓への過負荷などが考えられます。鍼は体内に入れ、灸は皮膚に熱を入れていくため、多少の傷ができ、出血や炎症を起こします。そのため、治癒力がない、出血が止まらない、感染のリスクがあるものなどに関しては、医療現場的には触れてほしくないと思うでしょう。

ただし先述の通り、上記の疾患も時と場合によっては鍼灸治療の適応となる場合もあり、一概にダメとは言えません。あくまでも目的として鍼灸が使えるかどうかの判断が必要となります。しっかりとしたカラダの構造と機能、そして病、さらには東洋医学における病などの知識をしっかり持っていれば、よほどのことがなければ施術はできると考えます。

身近にいらっしゃる、柔軟性があり、バランスの良い施術者をお探しください。きっと「目からうろこ」な情報がいただけると思います。
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