トキソプラズマとは

トキソプラズマは、Toxoplasma gondiiという原虫(原生生物と言って、アメーバやゾウリムシのような単細胞の微生物)です。この原虫は、哺乳類や鳥類に感染します。一度感染すると、免疫力である抗体が体内にできるため、2度目の感染がありません。人における感染率は、国・地域・年齢・食生活・ネコの保有率・衛生状態などによって変わってきます。世界的には、全人類の1/3以上(数十億人)が感染していると言われています。

トキソプラズマの大きさは幅3μm(マイクロメートル)、長さ5-7μmで、形は、半円~三日月形をしています。哺乳類・鳥類の細胞に寄生し、トキソプラズマ単独では増殖できません。

人を含む哺乳類・鳥類では、口から感染し消化管から体内に侵入します。そして細胞内で増殖し、中枢神経や筋肉内で安定した壁を持った構造である「組織シスト」と呼ばれる状態になると、その壁の中でゆっくりと増殖していきます。

筋肉内にあるこの組織シストを食することで、食べた哺乳類・鳥類にも同じように消化管から体内に侵入し、組織シストを作っていき、感染が拡大していくわけです。人でも同じことで、妊娠中であれば、胎盤を介して胎児に感染します。しかし、すべての胎児に感染するわけではありません。

ネコ

ペットして身近なネコですが、妊婦では注意が必要です

一方ネコ科の動物では、腸管内上皮において非常に増殖しやすく、8個の原虫を含むオーシストと呼ばれる状態で、糞便に出てきます。ネコの糞便を経由して飲料水や土壌にトキソプラズマが見られるようになり、それをネコ、または哺乳類・鳥類が摂取することで、感染が拡大します。つまり、ネコ科の動物によってさらに感染が拡大しやすくなると言えます。

トキソプラズマの感染経路

加熱の不十分な食肉(豚肉など)に含まれる組織シスト、あるいはネコ糞便に含まれるオーシストの経口的な摂取により生じる経口感染です。空気感染、経皮感染はしません。感染したネコの糞便には注意が必要で、土壌や水が汚染されている可能性があります。

トキソプラズマ症の症状

トキソプラズマの臨床症状は感染時期によります。

■先天性トキソプラズマ症
妊娠中の女性がトキソプラズマに初感染した場合、トキソプラズマが胎盤を介して胎児に感染することで起こります。

世界的には、1/10,000~80/10,000出生の頻度で先天性トキソプラズマ症を発症すると言われています。日本では、宮崎県での1997年7月から2004年12月までの約7年半にわたる妊婦4,466例の調査では、0.25%の妊婦が妊娠期間中にトキソプラズマ抗体が陽性化しているために、妊娠中のトキソプラズマ感染が推定されています。先天性トキソプラズマ症の発症は、都市部での年間600例ぐらいと推定されているため、出生数の約0.05%です。

妊娠初期での感染では胎児死亡、妊娠中期の場合は、低出生体重、脳炎、黄疸、肝臓と脾臓が大きい肝脾腫、リンパ節が腫れるリンパ節腫脹で、妊娠後期になれば、先天性トキソプラズマ症の4つの主要な症状と呼ばれる

  1. 精神運動発達の遅れ
  2. 脳脊髄液が溜まって脳を圧迫する水頭症
  3. 視力障害の原因となる網脈絡膜炎
  4. 脳の中でカルシウムがたまる脳内石灰化

が見られます。さらに、痙攣、貧血、血小板減少、黄疸、肝機能障害などがあります。

■後天性トキソプラズマ症
健康な大人または子どもがトキソプラズマに感染した場合、多くは無症状です。発症した場合に症状が見られます。

  • 急性感染…発熱、全身倦怠感、リンパ節腫脹などの症状がみられます。
  • 眼トキソプラズママ…眼だけに発症します。先天性感染の後に、免疫力の低下などでトキソプラズマの再活性化で起こります。視力障害、眼痛、羞明(まぶしい)などが見られる
  • 日和見トキソプラズマ感染症…AIDSなどの免疫不全者では、体内に発症せずに潜伏感染していたトキソプラズマが再活性化して、脳炎、肺炎、脈絡網膜炎などの症状を起こします

特に、先天性トキソプラズマ症についての予防が大切になります。

トキソプラズマ症の検査

先天性トキソプラズマ症では、髄液からのトキソプラズマ原虫の分離、遺伝子を増幅して検査するPCR検査、血液中の抗体で急性期にみられるIgM抗体検査が行われます。さらに生まれてから6ヵ月~1年後に抗体検査を行います

妊婦での感染が疑われる場合は、IHA法、LA法などによる抗体検査(トキソテスト)、ELISA法などのIgM抗体検査、正確で診断能力が高いIgGアビディティ(avidity,は結合力と言います)検査が結果によって行われていきます。

IgGアビディティは、一部の医療機関のみでしか施行できません。

  • トキソテスト陰性…まだ感染していない
  • トキソテスト陽性、IgM検査陰性…すでに感染した
  • トキソテスト陽性、IgM検査陽性、IgGアビディティ高値…すでに感染した
  • トキソテスト陽性、IgM検査陽性、IgGアビディティ低値…妊娠中の感染の可能性があります。

妊娠中にトキソプラズマに初めて感染したとしても、必ず胎児に感染するとは限りませんし、胎児に感染しても、先天性トキソプラズマ症を発症するとは限りません。ただし、妊娠時期が早いほど胎児への感染の危険性が低いのですが、より重篤になります。

トキソプラズマ症の治療

ピリメタミンやスルファジアジンが使用されます。セチルスピラマイシンは胎児への影響がないために、妊婦に使用されます。これらの薬は、日本では発売されているにもかかわらず、トキソプラズマ症の治療薬として保険適応になっていません。

トキソプラズマ症の予防

健康な大人または子どもがトキソプラズマに感染した場合、多くは無症状なので、つい予防しないことがあるかもしれません。しかし、原虫の潜在感染の可能性がありますから、予防は望ましく、胎児感染の点では特に妊婦の予防が大切になります。

  • 不十分な加熱処理をした肉の摂取習慣(馬刺,牛刺,レバ刺など)が原因になりますので、十分な加熱した食肉を摂取する
  • 土壌にトキソプラズマがある可能性があるので、土いじり習慣(ガーデニング,畑仕事)を避け、土を触った時にはしっかりと石けんで手洗いをする
  • ヨーロッパ,特にフランス(フランスでは、トキソプラズマの感染率が高い)への旅行を避ける、旅行時には食材や野生動物やネコとの接触に注意する

経口感染ですが、食事前に手洗いをしっかりとすることが一番重要になります。

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