待っていました、このアプローチ!

Kenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerの作品の一例です。一見良い意味で極々普通の(と言うかとても綺麗な)内羽根式のストレートチップですが、医学的に正しい靴の要素が、なにげなくふんだんに盛り込まれているのです。
一方で、「もっと歩き易い・動き易い靴が欲しい」がためにオーダーなされる方が、そろそろ増えて欲しいなぁ……とも私・飯野は思うのです。この種の靴への要望は正に靴の役割の根幹をなすものなのですが、残念ながら現状では、そのような思いに応えてくれる「受け皿」が、あまりに単層的な感が否めません。「健康」や「歩き良さ」を謳い文句にした紳士靴は、確かに数多く世に出ています。しかし「健康」への意識が強い故に、その種の靴はどうしても機能ばかりが優先され、デザインは二の次三の次で普遍性に欠けるものが主流。外に出るために欠かせない靴の筈なのに、デザイン故にその意欲が逆に減退する……。起きてはならないことですが、実際にはそんな寂しい事例も結構あるのではないでしょうか。
そんな現状に、まだ小さいながらも勢いの良い風穴を開けてくれそうなのが、今回ご紹介するKenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerの紳士靴です。アトリエがあるのは「楠公さん」こと湊川神社の目と鼻の先。そう、東京でも大阪でもなく、神戸です。 次のページはKenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerのオーダーの仕組みなど!
整形靴の作成ノウハウをしっかり応用!

整形靴のノウハウを採り入れたKenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerらしい特徴が出るのが、採寸と中敷きです。フットプリントを基に靴をより立体的に、より足に合うように仕上げて行きます。
主宰する橋本 健児氏は日本のビスポーク(誂え)靴職人としては、かなり異色のキャリアパスの持ち主です。大阪市内の出身で商社マンから神戸医療福祉専門学校三田校の整形靴科を経て、義肢装具製作の世界では有名な田沢製作所に整形靴技術者として入社。ここで整形靴や矯正靴を製作する傍らHiro Yanagimachi Workshopの柳町 弘之氏に師事し2013年に独立を果たした、「美しい靴」以上に「医学的に正しい靴」での経験が長い職人だからです。

中敷きの中身をペロッと開けてみました。ベースは自然なクッション性の得られるコルクで、必要に応じてアーチクッションや中足骨パッド等を封入した上でレザーの全敷で仕上げるので、見た目に非常に自然な起伏となります。
木型の作成方法は、ベースのものに盛り・削りを入れる「カスタム」と、顧客の足から石膏包帯で直接型取りし樹脂を流し込んだものから作成する整形靴と同様の「キャスティング」の2通り。前者であっても削りの工程が入るので、木型は使い回しではなく顧客毎の個別管理です。その上で本番用の革とは別の革で仮靴を作った上で仮縫いフィッテイングを行い、微修正を加え本番の靴の作製に進めて行きます。仮縫いはほぼ一回で大丈夫だそうですが、状況次第では複数回でも応じてくれますのでご安心を。納期は「カスタム」「キャスティング」いずれの場合も、今のところ約2~3ヶ月です。
まだまだこれまでのオーダーシューズにはない特徴があります。詳しくは次のページへ!
視野の広さから生まれる、懐の深い靴!

セメント製法での底付けが基本のKenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerの靴ですが、いわゆる九分仕立てやご覧のようなフルハンドソーン・ウェルテッド製法での底付けにもオプションで応じてくれます。求める性能や予算に応じての選択肢が、他のビスポークアトリエより広いのが何より嬉しい!
コスト面のみならずセメント製法の靴の圧倒的な利点が、この「速く作製できる」点。他にも底付けの縫い目が存在せずそこから雨が浸み込まない等、安かろう悪かろうではなく活用次第でそれはもっと評価されるべきなのです。橋本氏によると、接着剤の技術革新には著しいものがあり、懸案だった底の張り替えも問題無く可能だそうで、お手入れさえ怠らなければこの底付けでも十年以上確実に履けるものをお届けできるとのこと。レザーソールのみならず、軽くてクッション性に優れたEVAソール(多くのスニーカーに見られるあれです)も用意されている点も含め、テクノロジーの進化を積極的に採り入れる整形靴の製造に携わっていたからこその、より広い視野に立ったメニューと言えます。
「整形靴の仕事をしていた頃、作製中に『この靴で果たして喜んで歩いてくれるのかな?』と考え込んでしまうことが度々ありました」と語る橋本氏。「『速く作って訓練や外出の機会も少しでも早めてあげたい』との思いで真剣に取り組んでいた訳ですが、医学的に正しいとは頭では解っていても、整形靴はその分意匠がどうしても無機質になりがちで、そこが常に引っ掛かっていたのです。だから今、顧客の方から出るデザイン的な要望は出来る限り満たしてあげたい。機能面なだけでなく心理的な面からも快適に履ける靴を、顧客の方と同じ目線で、一緒に創り上げて行ければと思っています」

上の靴の底面です。お手本のようなフィドルバック! これで履き心地に最先端の要素がしっかり含まれているのですから堪らない! 因みにこの底付けを行ったのは橋本氏ではなく別の職人さんなのですが、この方も今後要注目なのであります。詳細は次回の記事でお伝えしましょう。こうご期待!!
本格稼働してからまだ間もないものの、早くもリピーターが付き始め立ち上がりは順風満帆。今後は神戸のアトリエ以外にも、JR京都伊勢丹や東京・原宿のOLDHATでも定期的に受注会を行う予定だそうで、作品を目にできる機会も増えそうです。Kenji Hashimoto Orthopedic Shoe Makerの靴は、ファッションの世界で暫し耳にする「クラッシック」なる響きに、何処か表層的で実際の生身の人間と繋がらないもどかしさを感じる読者の方にこそ履いていただきたい、正に「今」と言う大地にしっかり足を付けることができる、美しくかつ実用性の高い靴です!
【店舗案内】
Kenji Hashimoto Orthopedic Shoe Maker
住所 : 〒650-0016 兵庫県神戸市中央区橘通3-3-12 ボシュケ橘南1F
TEL : 050-3596-8400
HP : Kenji Hashimoto Orthopedic Shoe Maker
営業時間 : 12:00~19:00(これ以外の時間の場合も応相談)
定休日 : 月・火曜日(祝日も休み)
【商品価格(いずれも税抜き。またいずれも仮縫い代を含みます)】
カスタム:初回は12万8000円~(短靴・セメント製法・EVAソール)
→木型が同一で大丈夫な場合、2足目以降ここから木型作成代3万円が引かれます。またデザインも同一で大丈夫な場合、2足目以降ここから更に1万円が引かれます。
キャスティング:初回は18万8000~(短靴・セメント製法・EVAソール)
→木型が同一で大丈夫な場合、2足目以降ここから木型作成代6万円が引かれます。また、デザインも同一で大丈夫な場合、2足目以降ここから更に1万円が引かれます。