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アブラ(油・脂)の多い食事がおいしい理由

【管理栄養士が解説】アブラ(油・脂)自体に味はないのに、アブラの多い食事はなぜおいしく感じるのでしょうか? そこには3つの理由があります。アブラの種類の多さと調理による七変化の効果、身体への必要性から解説します。

平井 千里

執筆者:平井 千里

管理栄養士 / 実践栄養ガイド

2つのアブラ「油」と「脂」の違い

アブラ(油・脂)の多い食事がおいしい理由

メタボの大敵! と知りつつも、とてもおいしいアブラ料理。アブラがおいしい理由を探ります

アブラが多い食事は身体に悪い、と知っているにもかかわらず、ついレストランでメニューを見ていると、気になってしまうのがアブラの多い食事です。天ぷら、とんかつ、エビフライ、から揚げ、牛丼、ハンバーガー……などなど、アブラの多い食事というのは魅力的です。

アブラだけを味見したことのある人は少数だと思いますが、実はアブラ自体には何の香りも味もありません。無味無臭です。それなのに、こんなにアブラが魅力的なのはどうしてでしょうか?

その前に「アブラ」という漢字には2つあることをご存知でしょうか? 1つは「油」もう1つが「脂」です。「油」はサラダ油やオリーブ油のように室温で液体のものを指します。一方、「脂」は室温で固体のアブラです。日常の食生活でよく見かけるのは、牛肉などの白い部分(背脂)などです。

アブラの構造はグリセリンと脂肪酸が結合してできています。グリセリンは1種類しかありませんが、脂肪酸にはいろいろな種類があります。この脂肪酸の性質によって「脂」と「油」の違いが起こります。

このうち、脂肪酸は炭素と水素が手をつないでできています。炭素には4本の手が、水素には1本の手があることから、「炭素+炭素」で手をつなぐ場合、「炭素+水素」で手をつなぐ場合があります。さらに、「炭素+炭素」が手をつなぐとき、1本の手でのみで手をつなぐ場合と、2本の手でつなぐ場合とがあります。2本の手でつないでいることを「二重結合」と呼びます。

この「二重結合」があると、アブラは融点(溶けて液体になる温度)が下がり、室温で液体の状態になるのです。だから固体の「脂」と液体の「油」が存在するのです。そして、この「アブラが溶け出す温度」は、おいしさを引き出します。たとえば、魚の脂は二重結合を5つ含むEPA(エイコサペンタエン酸)や6つも含むDHA(ドコサヘキサエン酸)などを豊富に含み、刺身などで食べると、口の中で脂が溶け出します。その「口溶け」感がおいしさを感じるポイントなのです。

このように、アブラのおいしさの秘密は、口の中に入れたときの食感にあります。他にも、2つのアブラ(油脂)は調理の過程でさまざまな味わいを起こし、アブラはさらに、おいしくなります。アブラは調理の過程でどのような変化でおいしくなるのでしょうか?
 

調理でこんなに変わる「アブラ」の七変化

アブラはさまざまな調理過程で食材にいろいろな物性を与えます。サクッとしたもろい食感(ショートニング性)や空気を抱き込みクリーミーな舌触りを作り出したり(クリーミング性)します。また、「水と油」といえば、相容れないもの同士を指しますが、実は「エマルション」と言い、油の中に水の小分子が分散したり、水の中に油の小分子が分散することで「乳化」を起こし、マヨネーズや生クリーム、バターやマーガリンなどのおいしさを作り出しています。

反面、アブラは空気に触れると酸化するという悪い面も持っています。アブラが酸化することを「アブラが劣化する」と言いますが、色や風味、食感などが悪くなるばかりでなく、健康にも悪影響を与えてしまいます。酸化の主な原因は、光、熱、生鮮食料品に含まれる酵素などです。酸化を防止するには、光の遮断や、抗酸化剤の使用、低温保存による酵素の働きを抑える、酵素を除去するなどの方法が有効です。

酸化は、アブラの構造上、動物性の「脂」よりも「二重結合」の多い植物性の「油」で起こりやすいとされていますが、植物性の油には抗酸化作用を持つ脂溶性ビタミンのビタミンEが多く含まれており、酸化を防いでいます。また、ビタミンEのほかにも米ぬかのオリザノール、ごま油のセサモール、セサミノールなどに抗酸化作用のある物質が含まれています。
 

アブラは身体に必要だから「おいしい」んです

エネルギーの蓄積には、脂肪貯めておくのが効率的

エネルギーの蓄積には、脂肪貯めておくのが効率的なのです。

アブラがおいしい理由にはもう1つ、大きな理由があります。それは「身体に必要だから」です。

「肥満肥満と言うけれど、いったいどこに脂が貯まっているの?」で、身体に脂肪が蓄積する理由をお話しましたが、身体がエネルギーを蓄積しておくためには、脂肪で蓄積するのが最も効果的です。

もちろん、体内で炭水化物やたんぱく質から脂肪を合成することは可能です(一部、例外はありますが)。とはいえ、体内で作るより、食品中のアブラで摂取し、そのまま蓄積するほうが、効率がいいのは間違いありません。

人間の身体は不思議なもので、身体に必要なものをおいしく感じるようにできています。たとえば、酸味の利いたレモンは事務仕事の途中で食べてもさほどおいしいと思いませんが、運動をした後のレモンはおいしく感じます。これは、レモンに含まれるクエン酸が筋肉の疲労回復を促進するから。

同じように脂肪がおいしいと感じるのは、身体が欲している証拠です。特に、脂肪は遠い昔から「エネルギーを蓄積する」大事な栄養素なので、「脂肪は身体に必要だからおいしい」と感じるよう、私たちのDNAに刷り込まれているのです。
 

アブラを健康的においしく食べる…よいアブラを摂取する方法

これまで見てきたように、アブラの性質は「脂肪酸」によって変わります。そのため、身体にとって「よいアブラ」と「悪いアブラ」があります。

大まかな見分け方としては、常温で液体で存在するアブラの方が健康的といえます。具体的に身体によいアブラの例は、「油の種類で健康効果は違う?体によい油・悪い油」に説明されていますので、参照してください。

アブラを健康的に食べるポイントは、アブラの全体量は増やさず、いかに「よいアブラ」を摂取するかです。たとえば、肉料理と魚料理を選べるときは魚を選ぶ、ハンバーグを焼く時の油はサラダ油ではなくオリーブ油にする(本当はテフロン加工のフライパンを使って油を使わずに焼くのが一番いいのですが、テフロン加工でも古くなってくるとくっついてしまうこともありますよね)など生活の中で可能な範囲で「置き換え」をするのです。

また、パンなどにマーガリンやバターを塗る回数や量を減らす、フライパンはテフロン加工の新しいものを使って油を使わないようにするなど、アブラの摂取量全体を少なくする工夫も忘れてはいけません。

ただし、アブラの摂取量全体を少なくする工夫が必要だといっても、限りなくゼロにしてしまうのは考えものです。エネルギーの備蓄がゼロでは生命の危機に陥ってしまいます。さらに、アブラはビタミンA、D、E、Kなどの脂溶性ビタミンを吸収する際になくてはならないものです。

アブラも、食べ方を工夫すれば、健康に有益なのです。

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