E-girlsがYMOをカバー!『RYDEEN ~Dance All Night~』
2014年3月4日、アイドルグループ『E-girls』がアルバム『COLORFUL POP』に目玉曲として収録されている『RYDEEN ~Dance All Night~』のミュージックビデオをYOUTUBE上などで公開した。
2014年3月19日に発売されるE-girlsのアルバム『COLORFUL POP』
察しのいい方ならすでに「ん?」と思われたかもしれないが、なんとこの曲、日本が世界に誇るテクノユニット『YMO』の代表作『ライディーン』にオリジナル歌詞をつけて(原曲はインストゥルメンタル)カバーしたもの。

1980年にリリースされた本家・YMOの『ライディーン』。和製テクノの代名詞のような曲だ。
意外な取り合わせが話題を呼んでオフィシャルのYOUTUBE動画(歌詞は『JP歌詞』を参照)は公開一週間で100万回再生を記録する勢いだが、その内容をめぐってコメント欄では賛否の意見が激しくぶつかっている。
うん、ダサいよこれ
ここからは僕個人の感想だ。初めてこの曲を聴いてから数日目。楽しい時も、イライラしている時もあった。素面の時もあったし、執筆している今現在のように酒を飲みながらの時もあったがいつ聴いてもこの曲はダサい。
けっして"ダサかっこいい"と言うような肯定的な表現ではない。音楽、映像、歌詞……この曲の構成するすべての要素がダサいのだ。音楽面
まず音楽面について指摘しよう。『RYDEEN ~Dance All Night~』はざっくり言うと、『ライディーン』から拝借したサビと新たに創作されたAメロ、Bメロ、中盤に挿入されるラップによって構成されている。創作部分の作曲と編曲を担当したのはエレクトロユニット『CLARABELL』の猪俣裕和氏。

猪俣氏が所属するCLARABELL
サンプリングなのか、イントロ、サビなどわかりやすい部分のサウンドは有名すぎる原曲をフィーチャーしているが、創作部分の中途半端に年代感を意識したエレクトロサウンドは1990年代に多発された企画ものの安っぽいリミックス盤のようだ。
メロディーに関しても平凡の域を出ない。ラップはK-POPとアメリカの最新ヒットを足して3で割ったような印象。
聴けば聴くほど「そこらへんによくあるダンス系アイドル曲に『ライディーン』を取ってつけただけじゃないか」という違和感を覚えるのだ。
映像面
映像に関してもいろいろ物申したいところはある。しかし僕は別にE-girlsのみなさんが嫌いなわけではないし、本人たちには『RYDEEN ~Dance All Night~』の方向性についてなんの責任もないことはだいたい予想がつく。
ただ「特に楽しい内容の歌詞でもないのにニヤニヤ歌われるのは苦手だ」とだけ言っておこう。
歌詞面
作詞はモデル、DJ、作詞家などさまざまな分野で活動する岡田マリア氏とアメリカのエレクトロユニット『MNDR』による共作。メロの日本語部分と、中盤に挿入されているラップの担当を分け合ったのだろうか。『RYDEEN ~Dance All Night~』に違和感を覚える人がまず気にくわないのはこの歌詞だろう。
オリジナルが持っていたクールでアーティスティックな世界観を完全に無視した
という冒頭のフレーズはあまりに破壊的だ。Dance All Night~♪もう止められない
岡田マリア氏はこれまでにもE-girlsやEXILE関連でいくつかの歌詞を書いているがいわゆる「しゃべり言葉で現代っ子のノリを綴る」タイプの作詞家。
今回ははからずもインパクトの強すぎる歌詞で話題になったが、そもそもコピーライター的な技巧や作家的なアート性を秘めているタイプではない。
ビートにまぎれて聴き流せる楽曲ならそれでもよかったのだろうが、すでに"歌詞によらない世界観"が構築された『ライディーン』をリライトするには荷が重すぎたのではないだろうか。
カバーという行為の難しさ
以上が僕の『RYDEEN ~Dance All Night~』に対する感想だ。他人の曲をカバーするのは難しい。
特に今回のようにオリジナルがハイセンスな楽曲を大衆的にアレンジする場合、どうしても"安っぽい"違和感が出やすいものだ。
それを乗り越えるには創意工夫、アーティストのパワーなどさまざまな要素が必要になるわけだが『RYDEEN ~Dance All Night~』ははたして?
マーケティングとしては巧みで、商業作品としてはそれなりの成果をおさめるだろうが、音楽はあくまで芸術。確固としたオリジナリティーがなければただのフォロワー、劣化盤と見なされるのも致し方ないだろう。
繰り返しになるが、ダサい。
アーティストのセンスとは?名カバー『来るべき世界』に学べ
『ライディーン』はこれまでにも複数のアーティストに歌詞をつけてカバーされているが、中でも秀逸なものに空手バカボンの『来たるべき世界』(アルバム『バカボンの頭脳改革 -残酷お子供地獄』収録。1988年)がある。
大槻ケンヂ、内田雄一郎、ケラによるテクノユニット。シュールかつ実験的な作風がいわゆる『ナゴム系』のコアな人気を集めた。
エレクトーン一台で作ったようなペラペラの音作り。イントロにあわせて「テ~ク~ノ~♪テクノライディーン~♪」と叫び、続くメロでも「もみあげはちゃんとそろえたか」などYMOを揶揄したかのような歌詞。名古屋章風のしわがれた"セルフ・ボコーダー"……
茶化しているように思われるかもしれないが、実際これほど『ライディーン』の持つ高みに迫ることに成功したカバーはない。
『来たるべき世界』の魅力は『ライディーン』を原曲とはまったく異なった方向から解釈し、よりシュールでコアな作品として自己流に消化しきったところにある。
そしてこういうことができるのがアーティストの"センス"なのだ。
最後に
いかがだっただろうか。いささか辛口の批評となったが、それも日本のポップミュージックを愛するがゆえである。ご意見があればぜひうかがいたいものだ。
また、この記事を書くにあたってインターネット上のさまざまな反応に目を通したが、なかでも『ガジェット通信』記者Taka氏による
というコメントが秀逸だったので記しておく。(ガジェット通信『E-girlsがYMOの名曲『RYDEEN』を大胆カバー MVが『Youtube』で100万回再生達成もコメント欄は賛否両論』)往年のYMOファンの年代の方々からすれば「『Dance All Night』つったら『言葉にすれば嘘に染まる』だろうが! ダンスじゃなくてダンシングだけど」と言いたくなるかもしれない。