『デンタルケア』第1回目の記事では、犬の歯や口の中のことについて、基本的なことを学びました。2回目となった今回は、歯周病とはどういうものなのか、それを放っておくとどんなことになってしまうのか、そして、動物病院で歯石除去の処置をする際の手順などについて、引き続き、フジタ動物病院院長の藤田桂一先生にお話をお聞きします。

歯周病って、放っておくと、ほんとに怖いですよ……。

=Index=
・歯肉炎⇒歯周炎=歯周病
・歯周病が進行すると……
・歯周病以外の歯のトラブル
・動物病院における歯垢・歯石の除去はこんなふうに……

歯肉炎⇒歯周炎=歯周病

フジタ動物病院院長藤田桂一先生
「歯周病予防のためにも、日頃から愛犬の歯や口の中をチェックするように心がけましょう」(藤田先生)
虫歯以外で歯や口腔内のトラブルと言えば、歯周病・歯肉炎・歯周炎……といったものをよく耳にします。どれも似ているように思えますが、それぞれどう違うのでしょうか?

歯磨きなどが不充分だったりすると、歯の表面や歯と歯肉の間(歯肉ポケット)に、食べかすや唾液中の成分がたまり、細菌が繁殖し始めます。真っ白だった歯は黄色から徐々に茶色っぽく見えるようになり、歯肉は赤っぽく腫れてきます。白~淡黄色の歯石が少し見られることもありますが、それほど目立ったものでもありません。症状としてはまだ軽く、この段階を歯肉炎と言います。

これが段々と進行してくると、歯肉ポケットが深くなり、歯周ポケットと呼ばれる状態になってきます。その中で細菌はさらに繁殖し、バイオフィルムというものを作り出すのですが、これは、ぬるぬるとした感じがするバリアのような役目をするもので、酵素や抗生物質でもこのバリアを破ることがほとんどできないほど手強い作りをしています。歯肉の赤みと腫れは増し、歯垢や歯石もより多くなって、口臭も感じられるようになります。場合によっては、痛みが出ていることもあるでしょう。ここまでくると、歯周炎と呼ばれる状態になります。

一般的に歯周病と言われているものは、この歯肉炎と歯周炎のことを指します。要するに、両者を総称したものが、歯周病ということなのです。歯周病の進行程度によっては、歯周ポケットに膿がたまり、外に漏れ出てくることがありますが、これは歯槽膿漏と呼ばれています。

歯周病になりやすいのはどんなコ?

では、歯周病になりやすいコというのはいるのでしょうか? 主に、以下のような犬は、その傾向が高いとされますので、より気配りしてあげたいものです。

■小型犬
■パグや狆などの短頭種
■高齢犬
■全身性の疾患によって免疫力が低下している犬
■口腔内のケア不足の犬

次のページでは、歯周病を放っておくと、どんなことになってしまうのか、写真で見ていくことにしましょう。

歯周病が進行する様子

歯肉炎
 
これはまだ歯肉炎と呼ばれる初期の段階。歯肉の赤みもそれほど目立たず、歯石もわずかに見られる程度。

歯周病(中程度)
 
歯石が目立ってきており、上顎の第4前臼歯は歯石がつきやすいというのがよくわかる。歯肉の赤みや腫れも増してきて、口臭も感じられ、歯周炎へと変化している。

歯周病(重度)
 
さらに進行し、歯石で歯が覆われてしまっている。歯石の中の細菌は死滅しているものの、バイオフィルムの中には多数の細菌が存在していて、歯石の上に新たな歯垢を作り、それがまた歯石となり……と繰り返される状態になる。

歯周病(強度)
 
一度歯石ができると歯垢がつきやすい環境となり、それを放置すれば、このような壊滅的様相を示すようになってしまう。歯と歯肉との間には化膿液も見られ、ほとんどの歯がぐらついているために、抜歯をするしか方法がなくなる。

根尖病巣(外歯瘻)/ヨークシャー・テリア、7歳
 
さらに細菌が繁殖し続けると、やがて歯根周囲部分を経て、歯根周囲の骨までをも溶かしてしまう。骨にはトンネルができ、口の中や皮膚に穴を開けてしまうことも。これには、体の外側に穴が開く外歯瘻(がいしろう)と、口腔内に穴が開く内歯瘻、次の写真の口鼻瘻管(こうびろうかん)がある。

口鼻瘻管/シェットランド・シープドッグ、10歳
 
口腔と鼻腔とを隔てる骨の厚さは、大型犬で約2mm、中型~小型犬で約1mmと想像以上に薄く、骨が溶け出すと容易に穴が開いてしまう。こうなると、クシャミや鼻汁、鼻からの出血などの症状が見られるようになる。クシャミが止まらない場合は、この口鼻瘻管であるケースも意外なほど多い。

骨折
 
下顎骨に歯周病が進行し、骨が溶け出すと、下顎の骨が吸収されて薄くなった結果、硬いものを齧った時に簡単に下顎の骨が折れてしまうことがある。小型犬の場合は、下顎の骨の厚さに比べて歯が大きいため、骨折もしやすいので注意。


これはどういうことかというと、大型犬の場合は歯根部の底が下顎の骨の底より高い位置にあるのに対して、小型犬の場合は歯根部の底が下顎の骨の底とほぼ同じような位置にあるのです。体を小型化しても、歯の大きさそのものはそれに見合うほど小さくはなっていませんので、歯のこと一つをとっても必要以上の小型化というのは、犬自身の体にとっていろいろと弊害を起こすということです。

続いて、歯周病以外にわりと多く見られる歯のトラブルについても、次のページに挙げておきましょう。こういうこともあり得るのか……という例です。

歯周病以外に、よく見られる歯のトラブル

破折(はせつ)/ラブラドール・レトリーバー、4歳
 
『デンタルケア』の第1回目でも説明したように、特に上顎の第4前臼歯は、その形状が薄く平たいこともあって、骨やヒヅメ、プラスチックなど硬いものを齧った時に、思いのほか折れてしまうことがあるので注意が必要。何か齧らせる時には、硬すぎないものを与えるように。

咬耗(こうもう)(こうもう)/ラブラドール・レトリーバー、8歳
 
逆に、テニスボールなど軟らかいものであっても長時間齧り続けていると、写真のように歯が磨り減ってしまうこともある。犬の歯は強い、何を齧っても大丈夫と思い込んでしまうのは考えものだということ。

歯だけではなく、他の病気とも大きく関係する歯周病

ここで話を歯周病にもどすことにします。「歯」という字がつくだけに、口腔内だけの問題と思われがちですが、他の病気と大きく関係していることが知られています。

「例えば、心内膜炎や弁膜症、血栓、心筋梗塞、肝炎、腎炎……などを例に挙げることができます。人の場合では、早期低体重児出産、つまり、赤ちゃんが小さく産まれてしまうというケースや、肺炎などとも明らかに関係しているという報告があります」(藤田先生)

丁度この記事を書き上げている途中で、歯周病の病原菌が作り出す酪酸が、潜伏しているエイズウィルス(HIV)を活性化させて、エイズを発症させる可能性があるということがわかった、という内容の報道がなされました(2/11付け『毎日jp』より)。これは人の場合ではありますが、細菌に含まれる毒素が口の中の炎症部分から血流に乗って全身に回ってしまうと、心臓や肺、肝臓、腎臓、その他、いろいろなものに影響を与えてしまうのです。

たかが歯、されど歯。健康にとっては、大きな役割を果たしているのが歯なのですね。

さて、次のページでは、動物病院で歯石の除去をする際の手順を見せて頂きましょう。

動物病院で歯石除去をする際の主な手順

処置前の歯の様子
 
処置を始める前の口の中の様子。歯石がびっしりと歯を覆っている。まずは、口の中を洗浄。

抜歯鉗子で歯石を除去
 
歯垢・歯石を除去(スケーリング)していくわけだが、これは抜歯鉗子を使い、おおまかに歯石を除去しているところ。

超音波スケラーで歯石を除去
 
冷却水を注入しながら、超音波スケラーで歯垢・歯石を除去する。

ハンドスケラーで歯石を除去
 
次に、ハンドスケラーで細かい歯垢・歯石を注意深く除去。

キュレットで歯石を除去し、ルートプレーニング
 
キュレットと呼ばれる器具を使い、歯周ポケット内の歯垢・歯石を除去した後に、再付着を防ぐため、歯肉に隠れている歯の表面を滑らかにしていく(=ルートプレーニング)。

ポリッシングブラシによる研磨
 
歯垢・歯石が除去できた後は、再付着を防ぐため、研磨用のペーストをつけたポリッシングブラシで歯の表面を研磨し、滑らかにする。

ラバーカップによる研磨
 
その後は、仕上げ用のペーストをつけたラバーカップで、同様に歯の表面を研磨。

洗浄
 
最後に、口の中を洗浄する。

処置終了後の歯
 
処置も終わり、すっきりと綺麗な歯になった。しかし、折角処置をしてもらっても、その後のケアを怠るとなんの意味もない。続けて、歯磨き・デンタルケアを忘れないように!

歯磨きが一番!

こうした処置をするにもやはり麻酔が必要になってきます。他に病気があったり、高齢であったりすると、麻酔をかけるのも難しくなることがありますので、歯の処置をしたくともできないということになってしまいます。

できるなら、こうした処置をせずに過ごせたら一番ですよね。加えて、前のページでも説明したように、歯周病はいろいろな病気とも関連してきます。歯周病にならないのが一番です。では、歯周病にならないようにするにはどうしたらいいのか? それは、こまめなデンタルケアを欠かさないこと、歯磨きを習慣づけることです。

次回、『デンタルケア』の第3回目の記事では、歯磨きの仕方やそのポイントについて、さらに藤田先生に教えて頂きます。


画像資料提供/フジタ動物病院院長藤田桂一先生

【関連記事】
デンタルケア:「犬の歯について学ぶ」編(第1回目)
デンタルケア:「歯周病予防と、歯磨き」編(第3回目最終回)

【プロフィール】
藤田桂一先生/フジタ動物病院院長、獣医学博士
1985年日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)大学院獣医学研究科修士課程修了。1988年、フジタ動物病院を開院。2000年、「猫歯肉口内炎に関する獣医歯科学的研究」において獣医学博士号を取得。日本小動物歯科研究会の理事でもある。

【関連サイト】
フジタ動物病院(患者さんの立場に立った医療を信条とし、特に歯科医療分野に力を入れている)
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