愛犬の歯磨き、していますか? その大切さは充分わかりつつ、実際はしていないという人が意外に多いのではないでしょうか。愛犬に健康で長生きをして欲しいなら、歯のケアは欠かせません。

それは何故か? 歯の健康と体の健康は、実は相互に作用し合っているからです。それが理解できれば、歯のケアの大切さも納得できますよ。今回から3回にわたって、犬の歯の構造や生え方など基本的なことについて、歯周病とはどういうものか、そして歯磨きのポイントまでをご紹介していきます。まずは、犬の歯について知るところから始めてみましょう。

=Index=
・依然として多い歯周病
・犬の歯の生え方
・犬の歯の構造と口腔内環境について

依然として多い歯周病

フジタ動物病院院長、藤田桂一先生
「歯周病始め、それに関連する病気予防には、歯磨きが最も効果的です」(藤田先生)
お話を伺ったのは、フジタ動物病院院長の藤田桂一先生。同病院は、特に歯科医療分野に力を入れていることで知られています。

“3歳以上の成犬の約80%が歯周病をもっている”と言われるようになってからかなり経ちますが、その数は減っているのでしょうか。

「いえ、その数は以前とあまり変わっていません。犬も歯のケアが大切だという意識は一般に浸透してきていますが、そのわりに実際ケアをしている飼い主さんというのは、40%に満たない程度です。これには面倒だからしないという人も確かにいるでしょうが、歯磨きをしようとすると犬が嫌がるからとか、ケアのやり方自体がよくわからないという人も多いようです。加えて、歯周病の場合には症状が出ても気づきにくいということも、この病気を多くしている一因だと言えます。実は、症状が出た頃には、すでに進行している状態なのですが」(藤田先生)

犬の歯は本来真っ白、口の中も無臭

早くに歯周病の兆候に気づければいいのですが、発見が遅れるということは、どこかに飼い主の勘違いもあるのかもしれません。

「確かにそれはあると思います。まず、歯の色ですが、犬の歯は本来人間のものよりずっと真っ白なんです。黄ばんでいたり、茶色っぽいというのは、すでに歯垢や歯石がついているからです。次に口臭。よく“犬臭い”なんていう言葉を使う人がいますけれど、口臭がしてもそれが“犬の匂い”だと思い込んでしまっている人もいます。口腔内が健康であれば、本来は匂いもしません、無臭なのです。それから、歯肉の色の変化も見落としがちですね。そのコの色素によって黒っぽいコもいますが、健康であれば普通はピンク色。これが赤みがかっている、紫色っぽい、血が滲んでいる、膿が出ている、というような場合は歯周病が疑えます」(藤田先生)

なるほど、本来の犬の歯、口の中の状態をきちんと把握しておければ、歯周病の発見はもとより、歯のケアにも役立つということですね。

「そうです。合わせて、犬の歯とはどういうものなのか、その構造や生え方、口腔内の病気などについて、ある程度知識を得ておくことは大切だと思います。それが理解できてこそ、歯磨きの大切さが納得できるはずですから」(藤田先生)

では、次のページでは、犬の歯の構造や生え方など基本的なことについて教えて頂きましょう。

犬の歯列:上顎の第4前臼歯は意外に折れやすい

犬の歯列
成犬の場合、上顎の歯/下顎の歯=切歯3/3+犬歯1/1+前臼歯4/4+後臼歯2/3×2=42本。子犬の乳歯は28本。

犬の歯は、乳歯の時には28本。永久歯が生えて成犬の歯になると42本あります。これらの中で、犬にとって物を噛み切るのにとても重要な役割をもつ歯は、上顎の第4前臼歯と下顎の第1後臼歯で、ハサミのように物を噛み切るので、これらの歯の状態を鋏状咬合と言います。そして、これらの歯を「裂肉歯または機能歯」とも呼びます。

犬の歯は人間のものとは違って、そのほとんどが、先が細く尖っていて薄い形状をしています。特に、裂肉歯は歯垢・歯石がつきやすいのに加えて、硬い物を噛んだ時に上顎の第4前臼歯がパキッと折れてしまうケースが少なくないので注意が必要です。

この歯の生え方や形状を、ある程度頭に入れておくということは、デンタルケアにとって大切なポイントとなります。何故なら、犬の場合、過剰歯や欠歯、乳歯遺残などが時に問題になることもあり、本来の口の中の状態を知っていれば、歯周病を始め、こうした病気や症状にも早めに対処してあげられることになりますから。

子犬は7ヶ月ぐらいになったら歯の本数などチェックを

子犬の歯は、通常、生後21日齢くらいから生え始め、生後2ヶ月齢ほどで生え揃います。その後、生後4ヶ月半くらいから永久歯が生え始め、生後7~8ヶ月齢くらいで生え変わりが完了。

この生え変わり完了間近の生後7ヶ月齢くらいの時に、歯の本数や形などをチェックしておくことをお勧めします。乳歯が抜けきらずに残ってしまう、いわゆる乳歯遺残は、歯並びが悪くなるということに加え、食べカスがたまりやすくなることから、歯垢・歯石のつきやすい環境を作ってしまい、結果的に歯周病にもなりやすくなってしまうので、できる限り早めに抜いてあげたほうがいいということです。

この乳歯遺残は小型犬に多く見られます。特に短頭種を代表とする小型犬は、歯が密集して生えている傾向にあります。これは、体のサイズを小型化しても、歯の大きさはそれに比例したほどには小さくなってはいないということ。また、小型犬では欠歯や埋状歯(歯がきちんと生えてこずに歯肉や顎骨に埋もれてしまっている状態)も多いそうです。

歯にも生えてくる順番がある

そのチェックをするためにも、歯がどんな順番で生えてくるかを知っていたら役に立つはず。実は、歯には生えてくる順番というのがあるのだそうです。これは、乳歯も永久歯も同じ。

■歯はこの順番で生えてくる
下顎の切歯→上顎の切歯→下顎の前・後臼歯→上顎の前・後臼歯→下顎の犬歯→上顎の犬歯

子犬と暮らす方は、是非チェックしてみてくださいね。

次のページでは、歯の構造などについて。

歯の構造自体は人間と同じ

犬の歯の構造
歯の構造や歯周組織自体は、犬の歯も人間の歯も同じ。
「形状などは違いますが、実は歯の構造や歯の周りの組織そのものは人間と同じなんですよ。ですから、この構造を知っておくということは、飼い主さんご自身のデンタルケアにも役立つと思いますし、また、自分自身の歯のことを考えれば、愛犬の歯についてももっと理解が深まるのではないでしょうか」(藤田先生)

歯の一番外側を覆っているのはエナメル質。これは一度欠けてしまうと再生ができません。その下にあるのが象牙質で、ここはたいへん細かい穴が開いていて、エナメル質が欠けてしまった場合など、そこから知覚過敏になることもあります。さらにその下には神経や血管が通っている歯髄があります。

歯を支えている歯周組織のほうはというと、外から見えているのは歯肉。その内側では、歯の表面をセメント質が覆い、そのセメント質と、歯を支えている骨である歯槽骨との間を歯根膜がつないでいます。歯槽骨というのは、上顎と下顎の中でそれぞれ歯を支えている部分を表すのみで、この名をもつ特殊な骨が存在するというわけではありません。

犬は虫歯になりにくい

次に、口の中のpH(ペーハー)について。人間と犬とでは、このpHが違うのです。人間の場合はpH6.5~7の弱酸性であるのに対して、犬ではpH8~8.5のアルカリ性。犬は虫歯になりにくいと言われますが、その理由の一つが、口腔内がアルカリ性であるということ。その分、虫歯菌が繁殖しにくいのです。

また、前のページで説明したように歯の形状が薄く尖っているということが、虫歯菌をたまりにくくもしています。

加えて、犬の唾液中にはデンプンを糖に分解する時に必要なアミラーゼという酵素がないということも、虫歯が少ないことの理由になります。口の中の炭水化物(糖質)が歯垢の中に存在する細菌によって発酵し、酸を作り出すことで歯の組織を破壊、虫歯となるわけですが、アミラーゼがないので、犬の口の中には糖がそれほどないということになります。

以上のような理由で、犬は虫歯にはなりにくいのです。

歯の健康は、体全体の健康と関連性があり

本来、口の中には400~500種類の細菌が存在し、歯垢1gにつき約1000億個の細菌数になります。その数にびっくりしますね。その他、食べカスや被毛などの異物、ウィルスなどが存在することもあります。これではしょっちゅう病気になりそうなものですが、そうならないのは何故か。それは、体の防御機構がちゃんと働いているからです。

例えば、唾液中に含まれるラクトフェリンやリゾチームなどには抗菌作用がありますし、同じく唾液中の免疫グロブリンであるIgAは細菌の活動を鈍らせたり、毒素を中和する働きをします。口の中だけに限らず、免疫システムを担う白血球の一種である好中球やマクロファージといった免疫担当細胞は、体の中に進入してきた細菌やウィルスを取り込んで消化する作用(食作用)をもっています。

こうした働きによって、口の中に細菌やウィルスがあっても、病気にならないように自分の体を守っているわけですが、それも口腔内の衛生や体の防御システムが健全に保たれていればこそ。このどちらかがひとたび崩れると、病気の進入を許してしまうことになり兼ねません。その代表的なものが、歯周病。

なんでも口にしちゃうタイプのコは歯周病になりにくい?

「最近では、歯周病というのは歯だけの問題ではなく、内臓疾患などが影響して体全体の免疫力が落ちることで歯周病が進行する、と考えられるようになってきています。面白い話があるんですが、口が“綺麗”なコより、食い気がたっぷりで、オモチャでも何でも口にしちゃうような少々やんちゃなタイプのコのほうが歯周病にはなりにくいのではないかと考えることができます。それは、その分、唾液の分泌も盛んなわけですから、唾液中の殺菌効果により、口腔内の自浄作用効果が期待できるからです」(藤田先生)

このように、歯周病とは、歯だけの問題ではなく、体全体のことと相互作用し合っているものなのですね。加えて、ある意味では、そのコの性格も影響してくる部分があるということです。こう考えると、歯周病というのは、奥の深い病気だということです。

では、その歯周病とはどんな病気なのでしょう? それについては、また次回に、引き続き藤田先生に解説して頂きます。合わせて、歯周病が進行するとどういうことになるのか、その治療法などもご紹介します。


【関連記事】
デンタルケア:「歯周病と、その治療法」編(第2回目)
デンタルケア:「歯周病予防と、歯磨き」編(第3回目最終回)

【プロフィール】
藤田桂一先生/フジタ動物病院院長、獣医学博士
1985年日本獣医畜産大学(現 日本獣医生命科学大学)大学院獣医学研究科修士課程修了。1988年、フジタ動物病院を開院。2000年、「猫歯肉口内炎に関する獣医歯科学的研究」において獣医学博士号を取得。日本小動物歯科研究会の理事でもある。

【関連サイト】
フジタ動物病院(患者さんの立場に立った医療を信条とし、特に歯科医療分野に力を入れている)

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