営業利益1000億を、350億円赤字の見通しに下方修正

グラフの図

年末商戦が終わって、任天堂の非常に厳しい状況が発表されました

任天堂は、2014年1月17日に、平成26年3月期の連結業績予想を修正しました。簡単に言うと、2013年4月から2014年3月の1年間の売上とか、儲けの予想を修正したということですね。問題なのは修正内容ですが、売上を9,200億円から5,900億円に、営業利益は1,000億円としていたものを、350億円の赤字に下方修正しました。

1,000億円儲けますって言っていたのが、350億円の赤字になりそうですって大変な話ですね。ここまで極端な修正になった背景には、コミットメントがあります。コミットメントというのは公約、強い約束、というような意味で、任天堂経営陣は1,000億円の営業利益をコミットメントとして株主に対して掲げていました。

任天堂はWii Uの不振などでこのコミットメントを達成するのは難しい状況が続いていましたが、業績を最も大きく左右する年末商戦までは、あくまで営業利益1,000億円を目標に据えて動いていました。

しかし、年末商戦でも挽回できず、一気に下方修正、現実的な数字を見ると350億円の赤字になった、というわけです。

ニンテンドーDS(以下DS)やWiiなどで飛ぶ鳥落とす勢いだった任天堂が、大変な苦戦を強いられています。これを見て、スマートフォンのゲームアプリにユーザーを取られている、という報道も見られますが、ガイドはそれはやや安易な見方であるように感じます。

任天堂が抱える問題は、もう少し根深く、難しいものであるように思うのです。

目標未達ながら3DSは堅調、Wii Uは絶不調

Wii Uと3DSの図

Wii Uは特に厳しい状況にさらされています

任天堂の今後を考えるに際して、抱えている2つのプラットフォームの状況を確認しましょう。

ニンテンドー3DS(以下3DS)は日本では絶好調で2013年は約500万台を販売して、現在の累計は約1,500万台。ポケットモンスターX・Yが約420万本、モンスターハンター4が約340万本、歴代ソフトでは100万本以上のタイトルが10本もあります。しかし、北米やヨーロッパでは日本ほどの勢いはでず、結果、平成26年3月期のハードの販売予想を1,800万台から1,350万台に修正しています。

1,350万台と言われて、それが多いのか少ないのか、というのは分かりにくいと思うんですが、好調とは言えないまでも、堅調と言って良い数字ではないかと思います。ゲームハードの寿命というのはこれまでの例から考えるとだいたい5年~7年ぐらいなんですが、1,350万台平均で6年売ると8,000万台くらいの数字になります。PlayStation3が発売7年で全世界8,000万台、というと、なんとなくイメージできそうです。ちなみにゲームボーイアドバンスの最終累計が約8,100万台。

奇跡のようだったDSの圧倒的成功を周りも任天堂自身も描いているので厳しい状況に見えますが、これまでのゲームハードと冷静に比較するとそれほど悪くはない状況で、今後の展開に期待もできます。

Wii Uの方は大変に厳しい状況です。平成26年3月期の目標を900万台としていましたが、280万台に下方修正。目標に届いていないということも問題ですが、単純にプラットフォームとしての規模が小さく、サードパーティーにとって魅力のない市場に感じられることは、長期的なゲームタイトルの供給を危うくします。

一方、海外で2013年末に発売されたソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE)のPlayStation4(以下PS4)や、マイクロソフトのXboxOneは短期間で400万台以上を販売。1年間のアドバンテージがある分、まだWii Uの方が累計販売台数では上回っていますが、その1年間のアドバンテージもこのままだとあっという間に追いつかれ、そして追い越されてしまうような状況です。

なぜ、このような苦しい状況になっているのでしょうか?

本当にスマートフォンの影響で苦戦している?

スマートフォンで遊ぶ人の図

日本では、スマートフォンのゲームと3DSが両方同時にヒットしています

任天堂が苦戦している原因を、スマートフォンのゲームアプリなどが普及してきたことに求める分析があります。全く影響が無いとは言えないでしょうが、スマートフォンとの競合を1番の原因に挙げるのはやや不自然です。

まず、任天堂が最も苦しんでいるのは据え置き機のWii Uの不振であり、本来スマートフォンと競合しやすいはずの携帯機である3DSは目標に未達ながらも確実にプラットフォームとして普及しています。

それこそ、携帯電話ではモバゲーやGREEなどのソーシャルゲームが台頭し、スマートフォンが普及し始めると「パズル&ドラゴンズ(以下パズドラ)」が2,000万ダウンロードを達成して空前の大ヒットを飛ばしている日本でこそ、3DSは絶好調なのです。

また、スマートフォンの台頭によってゲーム専用機の立場が危うくなっているというのであれば、ライバルのPS4やXboxOneが勢いをつけていることの説明がつきません。

逆に例えば、スマートフォンが無ければWii Uは売れたでしょうか? 多くのゲームユーザーに、スマートフォンを持っていなかったならWii Uを購入したかと聞いて、イエスと帰ってくるでしょうか? おそらく、それは難しいのではないでしょうか。

そこには、スマートフォンとの競合以上に、根深く、厄介な問題が存在します。

任天堂のリソース不足

ピクミン3の図

ピクミン3など、発表されていたタイトルが次々と延期していきました

Wii Uはその発売当初から開発の遅れが目立ちました。本体からして、発売と同時に大規模なアップデートが必要だったことが、内蔵のソフトウェアの開発が遅れていたことを匂わせます。ハードの起動やソフトの切り替えなどの遅さは多くのユーザーの不評を買い、アップデートにて改善されていくことになります。

ゲームソフトに至っては延期につぐ延期、ピクミン3、Wii Fit U、Wii Party Uなど次々延期し、2013年前半はゲームソフトが数えるほどしか発売されない異常な状態となっていました。夏以降に自社の有力ソフトを投下するも、サードパーティの積極的なソフト供給が見られないこともあり、全体としては発売タイトル数は寂しい状況になっていました。

参考までに、日本における2013年のWii Uのパッケージソフトの発売タイトル数についてお話すると、2013年1月から6月までに発売されたタイトルはたったの9本、うち任天堂は『ゲーム&ワリオ』の1本だけ。この時点でWii Uは勢いを完全に失っていました。その後年末商戦に向けてタイトルが増えていきますが、最終的な数は32タイトル。平均して月に3本弱。Wiiの同時期が約100タイトル、初期において非常に苦戦したPS3でも約50タイトルというと、Wii Uの苦しい状況が分かりやすいのではないでしょうか。

任天堂はこれまでもゲームタイトルの発売延期をすることがありましたが、Wii Uのリリース戦略は、あまりにガタガタです。結局の所、2013年におけるWii Uは、安定してソフトが発売されず、勢いを失いました。任天堂が後半発売したタイトルは完成度こそ高いものの、残念ながら勢いが失われたWii Uを蘇らせる程のインパクトはありませんでした。

ハードの高性能化、多機能化が進んでいく中で、任天堂は思うようにWii Uのプラットフォームを運営できていないのです。

ビジネスモデルの限界

次世代ハードの図

次世代ハードは、多かれ少なかれこの問題を抱えています(イラスト 橋本モチチ)

任天堂が直面している状況は、必ずしも任天堂だけの問題ではありません。ハードが高性能化していくに従って、ソフトの開発が複雑化、大規模化していって、リリース戦略に支障をきたしたり、タイトルが不足するような状況が訪れやすくなります。

任天堂というメーカーは、独自の発想でオリジナリティの高いハードを開発し、自らその特徴を引き出したソフトを開発、自社のタイトルで市場を切り開いていくタイプのプラットフォーマーです。任天堂が作った市場にサードパーティーを巻き込んでいくことができれば強力ですが、初期においてはどうしても孤軍奮闘の格好になります。

そしてその孤軍奮闘が裏目にでて、圧倒的にコンテンツが足りない状況に追い込まれています。ハードが多機能化して内蔵ソフトやサービスも充実させようとしている、3DSにもWii Uにもソフトを供給しなくてはいけない、ソフト開発はどんどん大規模化していく、サードパーティーの協力も期待できない、その中で任天堂に求められるのは、多くの人があっと驚いて、Wii Uの価値を再発見できるようなキラータイトルです。環境は苦しく、求められる要求は高くなっています。

ライバルとなるSCEのPS4は、SCEらしさをあえて捨て、PCに近い設計を選択しました。もちろんそれは、PS4というハードをどう差別化していくかという点において大きなリスクがあります。しかし、それよりも開発しやすい環境、PS4にソフトを出しやすい環境を優先した形です。これが正しかったかどうかは現時点では判断できないにせよ、そういった決断が迫られる状況であることは間違いありません。

任天堂はすでに独自路線を進んでいるわけで、そう簡単に引き返せるものではありませんし、またそれは得策ではないでしょう。今後Wii Uに関して言えば、「大乱闘スマッシュブラザーズ for Wii U」や、「マリオカート8」などのタイトルで巻き返しをはかると思われますが、コンスタントに有力なゲームソフトを提供していく、という面では苦しい状況が続くと思われます。据え置きゲーム機の開発には時間がかかります、今、Wii Uが売れていないことが、1年先、2年先のタイトル数に関わっていくのです。

巨大化しきったゲームビジネスをどう運営し、コンテンツを充実させ、魅力的なプラットフォームに育てるか、これはこれからゲーム業界が直面する大問題となるでしょう。これまでのパッケージビジネスが限界にきていることは多くのゲーム業界に関わる人間が感じていることです。

任天堂はスマートフォンにゲームを提供するべきだ、ソーシャルゲームをやるべきだというような意見もあります。それも1つの考え方ではありますが、安易なコンテンツの切り売りになればリスクもあります。任天堂が頑ななまでにこだわって築き上げたゲームタイトルの価値が損なわれることもあるかもしれません。そして最も恐ろしいことは、任天堂が任天堂らしくなくなることで、高い品質を支えている開発者が離れていくことです。

考え方、やり方に転換が必要な場面です。これまでと同じではもう、上手くいかないかもしれません。しかし、任天堂が任天堂足り得る選択をしなければいけません。今後のゲーム専用機のビジネスを占う意味でも、その判断に注目が集まります。

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