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探偵小説に真っ向から喧嘩を売る「虚無への供物」

この『虚無への供物』をいろいろ説明するのは、非常に難しいのです。これは普通の意味での探偵小説でなく、一種の「アンチ・ミステリ(反探偵小説)」と呼ばれるもので、その過去の探偵小説の知識とそれへの愛を持ちつつも、そのすべての探偵小説に真っ向から喧嘩を売るような展開で、おそらく当時の読者は相当に驚かされたことと思います。

投稿記事

■作品名 虚無への供物
■作家名 中井英夫
■おすすめポイント・読みどころ
この『虚無への供物』をいろいろ説明するのは、非常に難しいのです。これは普通の意味での探偵小説でなく、一種の「アンチ・ミステリ(反探偵小説)」と呼ばれるもので、その過去の探偵小説の知識とそれへの愛を持ちつつも、そのすべての探偵小説に真っ向から喧嘩を売るような展開で、おそらく当時の読者は相当に驚かされたことと思います。

過去の探偵小説への目配せは、探偵小説ファンには心にくいほどで、たとえば主人公が一連の氷沼家の殺人事件をわざわざ「ヒヌマ・マーダー・ケース」というのは、ヴァン・ダインの「アルファベット六文字の単語+マーダー・ケース(例えば『僧正殺人事件』なら『Bishop Murder Case』)」というタイトルへのオマージュであり、また特にポーの「赤死病の仮面」、ガストン・ルルーの「黄色い部屋の秘密」に関しては、オマージュというだけでなく、作品の核にも関わってくるようにできています。

しかしそのような衒学趣味であれば、小栗虫太郎の『黒死館殺人事件』や夢野久作『ドグラ・マグラ』と並べても良さそうなものですが、これがそのような小説と大きく異なる点は、本作は徹頭徹尾、まっとうな「探偵小説」でありながら、しかし「探偵小説であること」を最後の最後でひっくり返してみせることで、やはり探偵小説的であり続ける、という点でしょう。

この探偵小説への愛と、知識と、その大逆転ぶりに驚きたい方は、ぜひ手に取るべき傑作です。
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