*2017年11月インタビュー(本頁)
*2018年3月『ラ・カージュ・オ・フォール』観劇レポート(2頁)
*2013年9月インタビュー(3頁)

鹿賀丈史 1950年石川県生まれ。73年、劇団四季『イエス・キリスト(ジーザス・クライスト)=スーパースター』タイトルロールでデビュー。退団後、舞台、映像に幅広く活躍。主な出演作に舞台『レ・ミゼラブル』『ジキル&ハイド』『シラノ』、映画『野獣死すべし』、TV『料理の鉄人』等。日本アカデミー賞助演男優賞、菊田一夫演劇賞特別賞を受賞。(C)Marino Matsushima
日本では85年に初演、ゲイ・クラブのショー・シーンの華やかさ、「ありのままの私」など名曲の魅力も手伝って上演の度に好評を博してきた本作で、2008年から主人公カップルのうちジョルジュを演じているのが、鹿賀丈史さん。もう45年以上の付き合いだという市村正親さんとの、“阿吽の呼吸”の共演が大好評ですが、鹿賀さんにとって市村アルバン、そして作品の魅力とは? 近年のご出演作のお話も含め、たっぷりとうかがいました。
荒波を乗り越えてゆく”家族”の姿に
ほろりとさせられる『ラ・カージュ・オ・フォール』

『ラ・カージュ・オ・フォール~籠の中の道化たち~』
「私はどちらかというとシリアス系の作品に出演している印象が強いかもしれませんが、今回出演10年目になりますこのミュージカル・コメディは、公演の度にスタンディングオベーションで、お客様に本当に喜んでいただける舞台になっていると思います。それが10年も続いているのは、ひとえに僕の努力でしょうか(笑)」
――この作品の魅力は?
「ショーに登場するダンサーたちとの関わりも楽しく描かれていますが、主人公はゲイの夫婦で、主要なテーマが“家族愛”。今はそれほど意識されることもないと思いますが、この作品が出来たのは30年以上前の話で、当時はまだ世間からの目だったり、負い目もあったと思うのですが、その中での夫婦愛が強く描かれています。
ですが実は、僕が演じるジョルジュには息子がおりまして、いいわけとして、“一回きりの過ちでできた”ということになっています(笑)。その息子を、“妻”のアルバンはずっと育ててくれて、彼はまっすぐに育つんですね。
そしてガールフレンドが出来、彼女の両親が来るということでドタバタが始まるんです。それまでずっと“母親”だったアルバンが、叔父のふりをしようと男の格好をしたりしてね。男はこう、女性はこうと“区別”されていた時代の中で、家族の団結がどんどん強まっていく。人はどう生きるべきか、家族はどう続いていくのか、そんなことがテーマになっているのが作品の魅力なのかな、と思います」

『ラ・カージュ・オ・フォール』前回公演より。写真提供:東宝演劇部
「そうですね。例えば今井清隆くんと森公美子さん演じるダンドン夫妻はストレートで、僕らゲイの夫婦と衝突しますが、その場面はかなりコミカルですし、その奥にあるゲイの夫婦の愛の強さも浮き彫りになっています」
――そういうお役を演じるにあたって、当初、手掛かりにしたものはありますか?
「本作の脚本家、ハーヴェイ・ファイアスラインの書いた『トーチソング・トリロジー』という作品を、僕は36歳の時にやっているのですが、養子をとったゲイの主人公の家を初めて母親が訪ねてくる、そこで大騒ぎになったりと、基本形が似てるんです。
その経験があるので、こういう作品に入るということは全然抵抗がなかったですね。僕は(夫婦の)どっちをやるのかな、と楽しみにしていたくらい(笑)。まあ、いっちゃん(市村正親さん)が先に(93年から)アルバンをやってたから僕はジョルジュなのかな、と思ってはいましたけどね」
盟友”いっちゃん”との45年

『ラ・カージュ・オ・フォール』前回公演より。写真提供:東宝演劇部
「彼は現在、『屋根の上のヴァイオリン弾き』の稽古中なのかな。とにかく間を置かず、次々と出演していて、そんなに舞台に出ている日本人といったら、歌舞伎俳優さん以外いないんじゃないかな。そんな中で、『ラ・カージュ・オ・フォール』はいっちゃんが特に楽しんで演じている作品に見えます。もう45年くらい、そろそろ半世紀の付き合いですから、お互い、いい歳ですね(笑)。(俳優として)認め合って、いいコンビになっているんじゃないかと思います」
――市村さんとの出会いは、劇団四季の『ジーザス・クライスト=スーパースター』(初演時は『イエス・キリスト=スーパースター』)でしょうか?
「ええ、そのオーディションでしたね。21か22歳ごろだったかな。(オーディションでは)だんだん人数が絞られてきますから、周りにいる人が見えてきますでしょう。『ラ・カージュ・オ・フォール』のチラシでもだいぶきれいに写ってますけど(笑)、当時の彼は独特のオーラがあって、美少年だったんですよ。そういう意味では他の人とはちょっと違った美しさが舞台に立ってもありましたし、確か高校で体操をやっていたのかな、動きもきれいだったし、他の俳優に比べて舞台で演じるエネルギーもおおいにありました。
彼が出て来るとふっと空気が変わるような、そういうものを持っていましたね。劇団では演出家が強力でしたので、あまり役者同志で演劇論を戦わせるようなことはなかったけれど、いっちゃんの家に遊びに行ったりはしていました」
――鹿賀さんが退団し、映像に主軸を移されたことで、いったんは袂を分かったのですね。
「劇団で僕は主役をいっぱいさせていただきましたが、29歳で退団し、映画やテレビドラマの世界へ入っていきました。36、37歳の時、『レ・ミゼラブル』でまた舞台に復帰し、いっちゃんともストレート・プレイを皮切りに共演するようになりましたね。10年以上の歳月が流れていましたので、そういう意味ではお互い、変化を感じたでしょう。映像をやったことで、僕はそれまでにはないものも発するようになっていたと思いますし、いっちゃんも以前は細身の美少年だったのが、がっしりしてきて、大人の魅力が出てきていました」
――そして2008年、『ラ・カージュ・オ・フォール』で“作品史上最強コンビ”の誕生です。
「ジョルジュは見た目は普通の男性ですがゲイですから、演じるにあたっては、もうちょっとゲイのニュアンスが出るよう、台詞や歌詞を工夫して稽古に臨みました。いっちゃんが相手役ということで、(掛け合いは)やりやすかったですね。そう来るだろうと思う通りのこともあれば、そんなに大きい表現なんだと思う事もあるし、それに応えていくのが面白いんです」
――市村アルバンの魅力とは?
「アルバンはジョルジュに対して甘えていて、けっこうわがままなんです。それをジョルジュはなだめすかし、たまには叱りもしたりするんですけど、いっちゃんのアルバンは芸が“かわいらしい”というか、感情が豊かなんですよね。男性でありながら女性以上に感情の揺れを的確に表現していて、そこが魅力なんじゃないかと思います」
――そんな市村アルバンが愛おしくなる?
「40数年来の仲ですから、やっぱり僕にとって、いっちゃんはあくまでいっちゃん(笑)。そのあたりは冷静に、掛け合いしていますね。この10年間で、間の取り方ですとか、二人の芝居は少しずつ変わってきていると思います。家族の在り方がお客様によくわかっていただけるように、ということに神経を使ってきているので、また今回、どういう芝居になるか自分でも楽しみにしています」
――今この時代にこの作品を上演する意義を、どうとらえていらっしゃいますか?
『ラ・カージュ・オ・フォール』前回公演より。写真提供:東宝演劇部
――元祖“ありのままの私”ミュージカルと言いますか、寛容さの大切さを教えてくれる作品でもありますよね。世界が不寛容に傾きかけている今こそ、本作のような作品が大切に見えてきます。
「本当にそうですよね。またこの作品は最近の新しいミュージカルに比べるとちょっとテンポがゆったりしていて、その分、話の内容や登場人物のことも良く分かるし、じっくり、安心して観ていられるという声をよく聞きます。丁寧に作られた、人の心を掴むのがうまい作品だと思いますね。前回が非常にいい舞台になっただけに、今回はそれにもまして喜んでいただけるよう、細かく稽古していこうと思っています」
40年ぶりに歌ったロイド=ウェバー作品

『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
「ロイド=ウェバーはとても才能のある方だし、あまりにも有名な曲ばかりでプレッシャーがないわけではなかったですけど、久しぶりに彼の作品を歌えるという楽しみはありました」
――ロイド=ウェバーのレパートリーの中でも、『ジーザス~』と『ラブ~』は、多彩なジャンルの音楽を詰め込んでいる点で共通しているように感じますが、いかがでしょうか?
「『ジーザス~』は確かに、非常にバリエーションに富んでいたし、先をいった音楽でした。初演を思い出すと、当初バンドの方々は、譜面を見ても冒頭の「Heaven On Their Minds」の前奏であったり、ジーザスが逮捕された時のリアクションの部分が複雑すぎて、弾けなかったんですよ。5拍子も7拍子もありましたしね。中野サンプラザの落とし公演で最初はガラガラだったのが、(口コミで)千穐楽の頃には立ち見が出ていました。今だったらもっと早かったでしょうね。本当にいい作品で、そこでデビューできたのは非常に恵まれていたと思います。
『ラブ・ネバー・ダイ』はそこまで前衛的には感じませんでしたが、やはりロイド=ウェバーらしさは感じました。メロディに彼の人生観が反映されていたと思います」
『デスノート』では主人公の父役を世界初演

『デスノート』2015年の舞台より。写真提供:ホリプロ(C)大場つぐみ・小畑健/集英社
「映画版でも同じ役を演じましたので、舞台ではどう描かれるのかなと思っていましたが、長編を舞台化するので、(父子のドラマは)そこまで深くは描かれていませんでしたけれど、ソロ・ナンバーが一曲あって、(演出の)栗山(民也)さんからダイナミックに歌ってほしいという要求がありました。あのナンバーで夜神総一郎の存在がクローズアップされてきたと思います」
――デビュー以来そろそろ半世紀という鹿賀さんですが、最近のミュージカル界をどう御覧になっていますか?

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部
――ブロードウェイとの比較は常に意識の中におありだったでしょうか?
「ブロードウェイに観に行って驚くのは、出演者の年齢層の広さですよね。若い人から70歳ぐらいの方まで出演する舞台が少なくありません。日本ではどうしても若い人ばかりの舞台が多かったけれど、22歳ぐらいでこの世界に入った僕らが60代になった今、年齢層もだいぶ厚くなり、いろいろな方に楽しんでいただけるようになってきたと思います。それは心強いし、必要なことでもあります。
『デスノート』は韓国でも上演されましたけれど、その際、夜神総一郎を演じるのにふさわしい(年代の)俳優さんがいらっしゃらないと聞きました。日本ではミュージカルの伝統が生まれてきているのだと感じますね」
――改めて、鹿賀さんにとって、ミュージカルの魅力とは何でしょうか?
『ジキル&ハイド』写真提供:東宝演劇部
――現時点で、どんなビジョンをお持ちでしょうか?
「もう何年かすると70代に入りますが、そこでも味のある俳優としてやっていきたいですね。昔からやっているミュージカルの基礎をふまえた上で、味のあるミュージカル俳優というものを目指していければいいかなと思います」
*公演情報*『ラ・カージュ・オ・フォール~籠の中の道化たち~』2018年3月9~31日=日生劇場、4月7~8日=久留米シティプラザ、4月13~15日=静岡市清水文化会館マリナート、4月20~22日=梅田芸術劇場メインホール
*次ページで『ラ・カージュ・オ・フォール』観劇レポートを掲載しています!
【『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 観劇レポート】
ゴールデン・コンビと充実のキャストが描く“極めつけの人生讃歌”
*若干の“ネタバレ”を含みますので、未見の方はご注意ください。『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
ジャン・ミッシェルとの逢瀬との際、くるくると回りながら彼の目の前でぴたりと止まり、こちらも“ジャン・ミッシェル一筋”であることを美しく見せる愛原さんと、微笑ましいコンビぶりです。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部

『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
台詞の応酬はもとより、ダンドン夫人が腰をかける度、皆が揺れるというリアクションなど、ちりばめられた小さなギャグに客席は大いに沸き、あちこちから屈託のない笑い声が聞こえます。大人の女性のゆとりを全身に漂わせた香寿ジャクリーヌのアイディアで、全員が「今この時」を歌い踊るシーンは、何気ない日常の喜びを歌う歌詞が染み入り、幸福感でいっぱいに。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
ステージにはジョルジュとアルバンの二人が残り、デュエットとなりますが、ここでの市村さんはスーツのポケットに手を入れ、アルバンとはちょっと異なるふぜい。いわばここでのお二人は役柄を超越し、かつて同じ舞台でデビューし、それから45年間、それぞれにキャリアを築いてきた“同志”が改めて互いを敬愛し、友情を確かめ合うようなニュアンスが、この光景には滲みます。
『ラ・カージュ・オ・フォール』2018 写真提供:東宝演劇部
*次頁で2013年9月のインタビューをお届けします!
2013年9月 鹿賀丈史インタビュー
『エニシング・ゴーズ』に見る“古き良き”コメディ・ミュージカルの新鮮な魅力
鹿賀丈史さん、2013年9月撮影。(C) Marino Matsushima
20世紀前半を代表する作曲家のひとり、コール・ポーターらしい「ほどよいリラックス感」に包まれながら、瀬奈じゅんさん演じるヒロインは明るく華やか、名曲「Easy to love」を歌う田代万里生さんの高音は耳に心地よく、上品な英国紳士役の吉野圭吾さんは終盤に目が点になるほどの弾けっぷりを見せてくれます。
最近のミュージカルにはない、ボリュームたっぷりなダンス・ナンバーも1幕、2幕それぞれにあり、ほぼ全員参加で(普通の演出ならそれほど踊らないであろう、保坂知寿さん演じるセレブママも激しく踊ります)、複雑なナンバーを歌い踊り、踊り、踊り、息も切らさずさらに歌い踊るさまは圧巻!
稽古中の鹿賀さん。いったいどんなシーンなのか、は本番で。写真提供:東宝演劇部
今回のムーンフェイス役も、とぼけた中に色気をまぶし、何気ない台詞も豊かに、面白く膨らませる台詞術はさすが(例えば終盤、台本には「何のカードか見て。……じゃ代わりに引いとくよ」と何の変哲もない台詞がありますが、これを鹿賀さんがおっしゃると、実に味があるのです)。
今回は稽古直後の取材。開口一番、「今、稽古をご覧になったから、あとはテキトーに書いておいてください」と笑わせてくれた鹿賀さん、ムーンフェイスはかなり地に近いのかも?!
シンプルかつダイナミックな、80年前の傑作コメディを演じる楽しさ
――通し稽古は今日が初めてだったそうですが、手ごたえはいかがでしょうか?
『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
――春に英国で同じコール・ポーター作曲の『上流社会』を観まして、彼の作品には意外な難しさがあるのかなと感じました。演技派の方々が演じていたのですが、熱が入りすぎてポーターのお洒落で軽やかな曲調とは違う方向に行っていたのです。でも先ほどのお稽古では、鹿賀さん、瀬奈さんはじめキャストの方々がさらりと演じていらっしゃり、音楽ともぴったりでした。こういう空気感は、皆さんで相談されて作っているのでしょうか?

『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
――コメディですから、台詞の間合いも大切そうですね。
「難しいですよね、帝国劇場は2000人近い劇場なので、よっぽどニュアンスを出してはっきりしゃべらないと、聞き取れなくなっちゃう可能性があるので、それは注意してやりたいと思いますね」
――喋りということで思い出したのですが、以前演じられた『シラノ』に、ものすごく歌詞をつめこんだ早口のナンバーがありますよね。そういうナンバーはたいてい“よく聞き取れないけれど雰囲気がわかればいいのかな”で終わってしまうのですが、鹿賀さんの歌唱では歌詞が全部聞き取れ、強く印象に残りました。

『シラノ』 写真提供:東宝演劇部
――話は戻りますが、今回のムーンフェイスというお役は謎めいたキャラクターですね。どの程度作りこんでいらっしゃるのでしょうか?
「ムーンフェイスというキャラクターは、なかなか難しいですね。危険なギャングリストの38番目に乗ってるという設定で、マシンガンも持ち歩いてはいるんですが、それで本当に人を殺そうとしたりと言うシーンは一切出てこなくて、先ほどご覧になったように、本当にくだらないところでしか出しません(笑)。(←注・ドリフターズ的な、かなり笑えるシーンです)。どちらかというと気が弱く、何かあると最終兵器としてマシンガンで脅せばいいと思っている人、そういうふうに僕は考えています」

『エニシング・ゴーズ』写真提供:東宝演劇部
「そうですね、ムーンフェイスはちょっと異質な存在かもしれないですね。狂言回しではないのですが、ふっと芝居の隙間に顔を出してきて、空気を和ませたりとか、いいことを言ってみたりくだらないことをやってみたり、そういう役回りだと思いますね」
――細かい部分ですが、恋する若者を励ますナンバー『青い鳥のように』で、台本には「歌」とある箇所を、「夢」と歌っていらっしゃって……。
「そうそう、それはね、間違えちゃったの(笑)。さっきダメ出しされました。ここは“いつも心に歌を持とうよ”という、いい歌なんですが、つい“夢”と歌っちゃって。(根が)単純なんですよね(笑)」
――てっきり、鹿賀さんのご発案で変更になったのかと思ってお尋ねしてしまいました(笑)。今回の舞台、観客の皆さんにはどう楽しんでいただきたいですか?
「コール・ポーターが1934年に書いた作品が、この忙しくなった現代にどう受け止められるかというのが僕の中では楽しみです。今回は、オリジナルの台本をほとんどカットせずに上演するので、そういう意味で見ごたえがあると思います。80年くらい前の作品の魅力、現代とはちょっと違った味わいを楽しんでいただけるのではないでしょうか。

『ラ・カージュ・オ・フォール』写真提供:東宝演劇部
不朽の名作『ジーザス・クライスト=スーパースター』『レ・ミゼラブル』のオリジナルキャストとして

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部
「37歳から40代、50代とずっとやってきた作品で、これほど長く付き合った作品はないし、劇団四季を退団してから本格的に舞台に戻って出演したのがこの『レ・ミゼラブル』で、それからいろいろな舞台をするようになった。そういう意味で、僕にとってターニングポイントになったなと思います」
――ジャン・バルジャンとジャベールの二役を交互に演じたのはいかがでしたでしょうか?

『レ・ミゼラブル』写真提供:東宝演劇部
――新演出版はご覧になっていますか?
「僕は観ていません。敢えてというわけでもないのですが、20数年間関わった作品なので、もうこれは自分の中にしまっておこうかなという気持ちです。初演からずっとやってきて、僕の中の『レ・ミゼラブル』は一応終わったといいますか。(微笑みながら)完結ですね」
――来春、『オペラ座の怪人』のその後を描いた新作『ラブ・ネバー・ダイ』に主演されますね。ロイド=ウェバー作品は『ジーザス・クライスト=スーパースター』以来でしょうか?
「そうです。41年前かな、初めて『ジーザス~』のLPレコードを聴いて、あまりの素晴らしさに総毛立ちました。それまでクラシック音楽を勉強していましたが、あの衝撃ってなかったですね。“こんな素晴らしい音楽があるのか、すごいな”と思ったのを思い出します」
――「すごいな」と思った音楽を実際に舞台で歌えてしまう人も少ないかと思いますが。
「うまく歌えていたかどうか、初演はまだ21歳ぐらいでしたからね。でもやっぱり僕の役者人生の始まりでしたし、今でも自分の代表作ってなんですかと聞かれたときには、『ジーザス~』とか『レ・ミゼラブル』とか、やっぱりそういうことになりますのでね。ふとしたときにメロディが浮かんだりしますよ、もちろん。いい作品でデビューできたな、本当にラッキーだったなと思いますね。そのロイド=ウェバーの新作という意味で、『ラブ・ネバー・ダイ』も楽しみにしています」
『ジキル&ハイド』 写真提供:東宝演劇部
「退団から36歳くらいまでは、映画やテレビの仕事が面白くて、ずっと映像をやっていましたね。それが『トーチソング・トリロジー』という、ファイアースタインが書いた面白い戯曲に出会ったのがきっかけで、舞台に戻ることになったんです。舞台って、お芝居の原点であって、そこからテレビドラマとか映画といった映像メディアに繋がってゆくような気がします。年月をかけて書き込まれた作品を1か月以上稽古して本番となる。関わっている時間が長いものですから、自分との密着度、体の中に染みてくるものが大きいので、飽きるということはない。そのへんが舞台の面白さなのかと思います」
――これまで、「これは冒険だ」と感じた舞台はありますでしょうか?
「今回なんか冒険ですよ。年を取ってきますと、反射神経なんかが鈍ってきたりもします。でも一つ一つ冒険に挑んでいくことが、ミュージカル俳優として自分のやるべき仕事なのかなと思いますね」
――今年で芸能生活40周年とのことですが、振り返ってどんな40年でしたでしょうか。デビュー以来、常に第一線で活躍していらっしゃる秘訣は?
「そうですね、早かったような気もしますし、よく40年続けられたなというのが正直な実感ですね。続けるコツというのは、それはその人の努力であったり運であったり……。やっぱり、巡り会わせでしょうね。演出家やスタッフという、人とのめぐり合わせ。そして作品とのめぐり合わせ。そういう意味で40年も続けて来られてラッキーだなと感じます」
――素質があってもなかなか運が巡ってこないという若い方もいらっしゃるかもしれませんが、アドバイスをいただけますか?
「僕の場合は、芝居をやっているなかで、それをご覧になった方、例えば演出家の方から声を掛けていただいたりということが多かったように思います。まずは人との出会いがあり、そこから面白いものが生まれれば、またそれが次につながっていく。その時、その時やっていることに一生懸命取り組めば、誰かが観ていてくれるかもしれない、ということですね」
――今後はどんな鹿賀丈史さんが拝見できそうでしょうか?
「そうですね、70歳になるとちょうど東京五輪が……あ、これは関係ない?(笑) いやいや、70歳になると今とはまた違った役者になっていると思いますし、楽しみが多いですね。何がやりたいというより、これから生きて行けば自分にはどんな芝居ができるのかな、という楽しみの方が大きいです」
――70歳でまた、ムーンフェイスを?!
「ははは。70になってもミュージカルができたら素敵ですよね」
飄々としてユーモラス。思わず“ムーンフェイス役は地かしら”と思わせる鹿賀さんですが、お話のそこかしこに、俳優というお仕事への毅然とした姿勢、そして信念が覗きます。むしろその素顔は、ヒロインへの愛を死の間際まで秘め続け、瀕死の状態でもなお「肘掛椅子に座って死ぬなんてごめんだ」と仁王立ちになった“心意気の人”、『シラノ』のほうが近いのかも。7年後の再登板に向け(?!)、まずは今回のムーンフェイス役に期待しましょう!

制作発表記者会見にて。(C) Marino Matsushima