80年代に多重人格の内容を盛り込んだ名作

■作品名
ヤヌスの鏡

■作者名
宮脇明子

■巻数
全4巻

■あらすじ
主人公の小沢裕美(ヒロミ)は、祖母の厳格なしつけを受けて育ち、明るく真面目ながらも、非常におとなしい高校生。しかし、「ヒロミが異性と交際している」と誤解した祖母から、激しい叱責を受けたことをきっかけに、ヒロミの中に眠る別人格・ユミが覚醒してしまいます。

ユミの振る舞いは自由奔放で、深夜の繁華街で遊びまわり、地元の人々から恐れられる暴走族ともうまく付き合います。宝石店を襲撃したり、暴走族の内部分裂を起こさせて壊滅させるなど、ユミの策士ぶりは相当のもの。やがて「ヒロミとユミが同一人物である」ことに気付いた人々が反撃に出ようとしたり、逆にヒロミを守ろうとする人々が現れ、物語が膨らんでいく様子には、非常にドキドキ・ハラハラさせられます。

■おすすめの理由

ここまででも十分、おすすめの理由になるのですが、この漫画には、多重人格(医学的には「解離性同一性障害」)の患者さんと関連の深い状況・症状等が盛り込まれている点が、すばらしいと私は思います。

私は、ある事情を抱えた方のご相談に乗る活動をしており、精神医学・心理学の勉強中です。そのために『解離性障害』(著:柴山雅俊 ちくま新書刊 2007年)という本を読んでいたとき、何度も『ヤヌスの鏡』の場面を思い出しました。たとえば、次のような場面です。
  • ヒロミは祖母から虐待に近いしつけを受けている
  • 幼少時のヒロミには、ユミという想像上の友人がいた
  • ヒロミの頭の中に誰かの声が響く
  • ヒロミが「誰かに見られている」と感じる
  •  
日本で多重人格について、広く知られるようになったのは、『24人のビリー・ミリガン』(著:ダニエル・キイス 早川書房刊 1999年)などが出版された後だと思いますが、『ヤヌスの鏡』の作者である宮脇明子さんが、1980年代に多重人格に関する情報を集めて、漫画に盛り込まれた点を、すばらしいと思います。



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