読書の秋と言われるように、どういうわけか秋になると本を手に取る機会が増えるから不思議です。新しいジャンルに挑んでみたり、普段は敬遠しがちな長編小説などに挑戦したくなるのも、秋の持つ熟思黙想の季節と言うイメージの力かもしれません。

小説の世界にどっぷり浸かってその世界を夢想するのは楽しい事です。でも折角のこの機会ですから、休日の午後の一時、コーヒーなどを片手に、好きなジャズをゆっくり聞きながら、小説に負けじと、自分なりの想像の世界を膨らませてみませんか?

クリフォード・ジョーダン 「イン・ザ・ワールド」より「ワガドゥグー」


イン・ザ・ワールド

イン・ザ・ワールド

 
この変わった曲名「ワガドゥグー」は、CD上には「ouagoudougou」と言うスペルが表記されています。これはおそらくアフリカにある都市「ouagadougou」(ワガドゥグー)の事と思って良いでしょう。

この聞きなれない名前の都市は、アフリカのブルキナファソにある都市で、古くは強力な騎馬軍を持っていたモシ族の都として栄え、現在でも首都として活気のある街です。スペルが若干違うのは、もしかしたら「ワガドゥグー」にヒントを得たクリフの想像上の都市の事なのかもしれませんね。

でもいずれにしても、その街が雑多な渦巻くような活気を持つ街である事には変わりがないでしょう。それを証明するかのように、クリフのテナーサックスが出だしから熱く熱くワガドゥグーの物語を歌って行きます。

このCDは、1969年に吹きこまれた、テナーサックス奏者クリフォード・ジョーダンのおそらくは最高傑作ですが、長らく入手が困難だったいわゆる幻の名盤です。

以前レコードで再発された時にもあっという間に市場から消えてしまい、買いそびれて悔しい思いをしましたが、CDで再発され偶然CD店で手に取った時には思わず息を飲んだものでした。

1曲目に入っている「ヴィエナ」も大変な名演で、おそらくこちらの方が一般的には知られています。「ヴィエナ」(ウィーン)という題名通りウィーン派の絵画をイメージさせるイマジネイションに富んだ楽想です。

その「ヴィエナ」に勝るとも劣らない出来なのが「ワガドゥグー」です。ここにはアドリブをもって何かを伝えようとしているクリフの熱い思いが色濃く感じられ、そしてそれは、ウィーンの時代よりはるか以前、人類の起源の時代にまで遡るかのような、原初的な炎を感じさせるほどに熱いものです。

まるでそれは、おそらくは、この地で繰り返されたであろう、種の生き残りをかけた凄絶な生存競争のようです。四足歩行の旧人類が現人類へとドラスティックに変わった瞬間を表したものと思われるほどに、内面から湧き上がって来るものです。

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そして、まさにその人類の祖先誕生の瞬間を表現したのが、次の演奏です。

チャールズ・ミンガス 「直立猿人」より「直立猿人」


直立猿人

直立猿人

 
この「直立猿人」(ピテカン・トロプス・エレクトス)は、モダンジャズを代表する一人、ベーシストのチャールズ・ミンガスの1956年に発表された代表作です。題名の通りに、遥か昔、直立猿人がこの世に現れ、繁栄し、衰退を迎えついには歴史の舞台から消えて行く様をジャズで表わした問題作です。

チャールズの専売特許でもあるルバート(速くなったり、遅くなったり、テンポに変化をつける事)とインテンポ(テンポ通り)を繰り返す意図的なリズムの揺らぎや、JRモンテローズジャッキー・マクリーンの二人のサックス奏者の紡ぎだされるソロによって、見事に滅びゆく直立猿人の悲劇を表現しました。

こういった、歴史の舞台での一コマが、それぞれに現在に人類に至る道程においての何回もの光り輝く瞬間、更なる進化への輝く曲がり角となっているのです。

その輝く瞬間を表現したかのような演奏のご紹介は次のページで。
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