森麻季さん ~愛と平和への祈りをこめて~リサイタルを開催

森麻季さん

明るく気さくな森麻季さん。リサイタルにかける思いとは?

美しい歌声と容姿で、TVなどでもお馴染み、人気・実力を併せ持つソプラノ歌手、森麻季(もり・まき)さん。

2013年9月11日(水)に「~愛と平和への祈りをこめて~」と題されたリサイタルを一昨年に続き行います。9月11日と言えば、アメリカ同時多発テロ事件の「911」であり、東日本大震災の「311」から半年後。

彼女がこの日にリサイタルを行うことには大きな意味がありました。森麻季さんが歌う意味を変えた事件とは? その事件で彼女の中で何が変わったのか?

リサイタルへの思いを伺いました(最後には学生時代の仰天エピソードも!)。

~愛と平和への祈りをこめて~
森麻季 ソプラノ・リサイタル

日時:2013年09月11日(水)19:00~
場所:東京オペラシティ コンサートホール(東京・初台)
ピアノ:山岸茂人(ピアノ)
共演者:堀内康雄(バリトン)第2部スペシャル・ゲスト

曲目(予定):
■第1部 ~日本の美しさを求めて…
花は咲く
落葉松
霧と話した
曼珠沙華
初恋
この道
赤とんぼ


■第2部 ~ヴェルディ生誕200年記念に寄せて
歌劇「椿姫」より
“ヴィオレッタとジェルモンの二重唱”
“あぁ、そは彼の人か~花から花へ”
“プロヴァンスの海と陸”


森麻季さんの911の体験

森麻季さんチラシ

~愛と平和への祈りをこめて~ 森麻季 ソプラノ・リサイタル

ガイド大塚(以下、大):今回のリサイタルは「911」に行われますが、どのような思いが込められているのでしょうか?

森麻季さん(以下、森):はい、アメリカ同時多発テロ事件が起きた2001年9月11日は、ちょうどワシントン・ナショナル・オペラで翌日から上演されるオペラの最後のリハーサルの日だったのです。劇場は、ワールドトレードセンターと同じくハイジャックされた飛行機が墜落したペンタゴンの隣の駅にあったこともあり、「早くこの街から離れて!」と、大変な厳戒態勢でした。その日はさすがに練習がなくなりました。

:なんと! それは怖かったですね。

:はい、戦争って、映画などでしか見たことがなかったので、びっくりしました。そして、ニュースで「またいつテロがあるか分からないので、人が集まるところには行かないように」とずっと言われていて、当然オペラの公演はなくなるような大惨事だったのですけれど、翌12日から始まる公演は中止にならず、上演されたのです。

:そうなのですね!

:それまでは「今日は上手に歌えるかしら」とか「今まで練習してきたものが最大限に活かせるかしら」などと考えて舞台に臨んでいたのですけれど、この日ばかりはさすがにそういうことは一切なくってですね、「もし一人でもお客様が来てくださったら、束の間であっても、悲惨なテロを忘れて、楽しんでいってもらいたい」という気持ちが強くなって、皆が力を結集させて上演しました。

とっても思い出に残る公演になり、私は1幕だけの出演だったのですけれど、その時点で早くもスタンディングオベーションになって、お客様が「ありがとう!」とか「芸術が平和を呼ぶように!」などおっしゃって、舞台に詰め寄ってくださったりしました。

:それは厳しい状況の中でも、上演して良かったですね。

:はい、そういう経験はそれまでになく、「音楽はこう人の気持ちを動かしたり、一つの気持ちにさせるのか」と、音楽の力を目の当たりにした瞬間でした。

それまでは「音楽は社会に貢献できない……」という気がしていたのですけれど、自分が活動していくことによって、音楽だって人の気持ちを動かすというか、音楽の力を借りてみんなで祈りを捧げたりすることができるんだな、と思う一番最初のきっかけになりました。

:なるほど。

:そして、何か目的があって、みんなで気持ちを一つにできるようなコンサートを実現したい、と思っていたところ、2009年8月5日の夜に、広島国際会議場という平和記念公園の隣にあるホールで、各国の首相なども迎えて、亡くなった方や戦争に対して、祈りを捧げるコンサートが行われ、参加させていただくことになりました。

広島の市民の方が合唱をしてくださって、これもとても心に感じるところがあるコンサートで「こういうことを私はやりたかったのだな」と思いました。

そしてテロから10年目の2011年9月11日に1回目の『~愛と平和への祈りをこめて~』リサイタルをさせていただくことになり、準備を始めていたところ、3月11日に東日本大震災があって……。自分の国にも大変なことが起こってしまい、その2つに思いを込めてリサイタルを行いました。

:そうだったのですね。

:去年は8月6日と9日に広島と長崎でモーツァルト作曲のレクイエムを歌わせていただいて、それもとても心に深く刻まれるコンサートでした。不思議とつながっているように思います。

音楽の力を借りて、会場の皆様と共に、災害であったり、戦争であったり、亡くなった方を思い出して、祈る機会を大切に、ずっと続けていけたらなぁ、と思い、今回が2回目のリサイタルになるわけです。

森麻季さんが思う、日本歌曲の美しさの秘密とは?

森麻季さん

正に才色兼備の森麻季さん

:今回歌う曲目について教えてください。

:直接的に、亡くなった方を思う詩の歌とかではないのですけれど、想起でき、それでも私たちは今平和でいられるというありがたさ・感謝に思いを寄せて、というリサイタルで、2部構成になっています。

前半では日本の歌曲を歌います。911は自分にとって大きな出来事でしたけれど、今では、私の中でも日本中としても、東日本大震災はとても大きいので、美しい日本の情景や、日本のふるさとの美しさ・すばらしさだったりを歌う曲を予定しています。みんなの心がほっとできるような日本をテーマに歌いたいです。

大変なことはたくさんありますが、こうして今あることに感謝したいし、それぞれ皆さんの日本への思いがあると思うので、思い巡りながら歌えたらと思っています。

2部では生誕200年のヴェルディの作品『椿姫』を取り上げさせていただきます。今回バリトンの堀内康雄さんが参加してくださいます。彼は本当に素晴らしい演奏家です。

食べ物で言うと、1部は和食の美しい彩りのもの、2部はガッとしたメイン料理と。そんな感じでしょうか。

:面白いプログラムですね! まず、前半ですが、こんなにたくさん日本の歌を歌われたことは今までにあるのでしょうか?

:一つのコンサートの中でこれだけたくさん取り上げたことはないですね。いつもいろいろな作品を取り混ぜながら歌うことが多いので。2部も初めての試みですが。

:日本の歌曲を歌うときって他の国の歌曲を歌うのと違うのですか?

:日本の歌曲の美しさは、繊細さが際立っていますね。例えば花でも、外国の花のイメージは、赤で大きくてバーッと咲いている。ところが日本の場合は、フォーカスがもっと小さくて、花びらのうっすらとした質感だとか、そこに朝露が乗っているとか。そういうのを表現するような感じだと私の中で思っています。和菓子もそうですよね? 本当に美しい。形も色もきれいですね。そういうきめ細やかな美しさが日本歌曲の中にもありますね。

迫力で、というのではなくて、とても繊細に本当に細かいところまで美しいディテールがある。歌うときには、そういった日本の美しさを出せるようにと思って歌います。そういう意味では『椿姫』とは対照的な感じですけれど(笑)。

:笑。日本歌曲の美しさはどこから来るのでしょう?

:音の作りがまずとってもシンプルなんですね。そして日本語自体が優しい言葉なのですよ。優しい発音というか。激しい言葉ではないと思うんですよね。よく外国の方が「日本語の歌は発音自体が歌うようできれいなんだね」と言ってくださいます。子音も優しいですね。

:なるほど! 言葉自体と音楽の持つ雰囲気が大きいのですね。

:そうですね。また題材も自然の情景が多いですよね。ふるさとの美しさだったり、山が夕焼けに染まっていくとか、赤とんぼが止まっているとかね。

私たち日本人は、そうした歌を聞くと、その情景が自然と浮かんでくる。「あぁ、ふるさとってなんかしみじみするなぁ」と思うだけでよくて、だからなんだっ、ていう追求はしませんよね? ですから、外国の方からすれば「何が言いたいの?」という少しじれったい感じかもしれないのですけれど、情景をやんわり歌うことで日本人のわびさびみたいなものを出すのが日本歌曲なのかなぁ、と思います。

:確かに日本歌曲に激情みたいなのはあまりないですね。

:ですよね。だからいろいろな感情をあてられるというか。例えば『浜辺の歌』でも、愛しい人と浜辺を歩いたなという思い出を歌っているのかな、と捉えられるし、思っている人も一緒に見ている月だな、とか、あの人は星にいるな、とか、そういう風にいろいろと捉えられるんです。

すごく大きな含みを持って歌えるのが日本歌曲なのかなと思います。なので年を重ねるごとに、いろいろな味を足していけます。若い時はそこまで掘り下げられないですけれど、人生経験が増えていくと、いろいろなことがあったな、と、歌もだんだん深まっていくように思います。もちろん、他の歌曲でも深められるのですが、特に表現しやすいと言いますか。

プチオペラのような、『椿姫』を堪能する2部

:日本歌曲の美しさの秘密がよく分かりました。公演が楽しみですね! 2部は『椿姫』一本ですか?

:はい、『椿姫』をたっぷりと(笑)。堀内さん(ジェルモン)と歌うシーンがちょうど良い長さなので、そのシーンを中心にして、それぞれに一曲ずつアリアを歌うという構成です。

:『椿姫』について思うところを教えてください。

:『椿姫』は、ソプラノの一番の大曲だと思っています。技巧的にもすごく難しい上、一人舞台が多いです。長丁場でずっと歌ってる、ほぼ一人で歌っている。

そして、そこにはヴィオレッタの一番良いときから、彼女が亡くなっていくときまでの人生が綴られていますが、解釈はいろいろですね。「椿姫は純粋な人だ」といえば一人の人を思って死ぬまでという意味で純粋ですし、でも、高級娼婦という職業はどうなの?と良くない女性のように解釈されることもあります。

1幕のアリアで「自分がずっと思っていた人と本当に結婚するってこういうことなのね!」と若い乙女がみんな夢見る、一人の人に添い遂げるという歌詞があり、彼女は21、22歳くらいの設定ですので、私としては、ヴィオレッタは本当に純粋な人で、病にも倒れてしまうくらい純粋な愛だった、と思っていつも演じています。

:なるほど。良さそうだな~、楽しみですね。

:ありがとうございます(笑)。衣装を着けて舞台でやるわけではないですから限界がありますけれど、演奏会形式で、かえって歌だけで大変ドラマティックに聴かせるすごい場面で、加えて、堀内さんをお迎えできて、とにかくとても楽しみです。彼は最高なジェルモンだと思います。

:ヴェルディについてはどう思っていますか?

:彼の作品は、どれも非常に高い技術が必要です。ごまかしが効きません。オーケストレーションは厚いですし、様式感もすごくあって、熟練の技がいるオペラだと思っています。たくさんのオペラを経験して、やっとヴェルディが歌える、という。最終的な目的地と言ったら大げさですけれど、それが歌えるようになったら、立派なオペラ歌手だな、というような。そのぐらいの重みのある作曲家ですね。題材もシェークスピア作だったり。荘厳で、音楽も本当に素敵。オペラの中のオペラという気がして、歌うときには、いつも気が引き締まります。下手すると本当に歌えなくなっちゃうんですよね。

:歌えなくなるってどういうことですか?

:緊張感をもって、いろいろな技術をうまくピタっと合わせないと、振り回されてしまうというか。音楽が盛り上がるところで、自分もそれ以上に歌いすぎてしまったら、最後まで声がもたないとか。音をきちっと歌うことだけでも本当に大変なんです。

:森さんでもそんなふうに思われるのですね。

:もちろんです。すごく難しいと思いますよ。何気なく聴こえるものが意外と難しいことは多いです。聴いていて「楽々と歌っているなぁ」と思える歌手はかなりすごいと思います。普通は「大変そうだな」という感じに聴こえてしまいます。

森麻季さんの音楽を豊かにさせた、もう一つの出来事

:歌を歌う上で変化してきたことってございますか?

:一番の大きな転機がその911で、自分のためではなくて、人のために歌いたいと思うようになりました。

もう一つは、自分の子どもができたことですね。それまでは一人で自分の人生を送っていましたが、周りの人のことを考えたり子どものことを考えるようになりました。

自分ではそんなに意識していないですし、もちろん年齢的なこともあると思うのですが、母親になった気持ちの変化が歌に影響しているのか、声が少しずつ豊かになったり、ふっくらしたり、そういう変化があるようですね。人から言われるので「じゃあ良い影響があったのかな?」ってすごく思います。前はもっときっと細くって、高い音はすごく出ていて、でも中間音に弱さがあったのが、少しずつ全体として、よりまろやかになってきたというか。

:良いですねぇ。お子さんは子守歌からしてレベルの高いものが聴けて幸せですね~。

:生まれる前より、胎教が一番良かったですね(笑)。妊娠中もずっとオーケストラとの共演やオペラをやっていましたから。直前までリサイタルで歌っていましたし。子どもは生まれてからの方が音楽に接していないですね。

:育児中の方が仕事できませんもんね。

:小さいとあまり連れて行けませんしね。音楽を好きになってくれるといいのですが。

:お子さんは音楽をされているのですか?

:はい、ピアノを習っていて、ちょっと弾けるだけでも立派なのに、私はつい欲張って「もうちょっとレガートに弾いたら~?」とか余計なことを言ってイラっとされていますけれど(笑)。

:笑。森さんは今後どういう活動をしていきたいですか?

:クラシック音楽は、本当に人の心を穏やかにしたり、調和させることができると思うのです。もちろんポップスだって他のジャンルだって素敵な音楽はたくさんあるのですけれど、人がどうしようもなく疲れてしまったときや、どうしたらいいんだろうというくらい絶望してしまったときに、心に届くのはクラシックかなと。心に寄り添えるというか、うるさくならないというか。自分もそうだったのですけれど、絶望的な大変なことがあったときにそれまで楽しく聴いていた音楽がうるさく感じて。でも、静かに流れてくるクラシック音楽だけが聴けた経験があるんです。

現代社会はストレスが多く、みんな抱えている大変なことがいろいろあるじゃないですか。自殺をする人が多かったり、いじめがあったりとかそういう話を聞くと「ああ、クラシック音楽を届けられたらもしかして気持ちが和らいだりするかな」と思ったりします。もちろんそれが解決になることではないのですが、一人でも多くの方に聴いてもらって、その方たちがちょっとでもリラックスできたとか、心が休まったとか、この歌を聴いてちょっと元気をもらえたとか、そんなきっかけになれたら嬉しいと思うのです。

:そうですね。

:同じことをやるのでも、元気でやれるのと、心身ともに疲れてしまってやるというのでは全然違うじゃないですか。なので、私の歌が、少しでも何か元気になれる要素になったらとても嬉しいです。コンサートを聴いてくださった方がブログなどに「森さんの歌を聴いて、元気になりました」と書いてくださることがあるのですが、それは本当に嬉しいですね。

:今回のリサイタルでも多くの人の心に届くと思いますよ。僕も楽しみにしています。最後に、趣味というか、音楽以外でやっていることを教えてください。

:体を動かすことが好きです。健康を維持していかないと歌えないので、もっと体を鍛えなければ、と思っています。

;フィットネスとかですか?

:も好きですし、スキーも好きです。芸大の学生だった時にスキー部に入っていて、よくスキーに行っていました。ほとんど人が行かないような山によく行きました。その仲間は建築とか美術専攻の人が多くて、事あるごとに「歌え」って言われまして、いろいろなところで歌わされました(笑)。ある時、その雪山で歌ったら、下からリフトのおじさんに怒られました。「やめろ~、なだれが起きるっ!」って(笑)。そして、本当になだれが起きちゃったんですよ、ちょびっと! 人が行かないところは簡単に崩れちゃうらしくて(笑)。



と、最後は大惨事にならなくてよかった、かつ、学生の頃から圧倒的歌唱だったことを物語るびっくりエピソードまで話していただきましたが(笑)、2013年9月11日のリサイタルは、クラシックを普段聴かない方の心にも強く届きそうな公演となりそうですね。聴くと本当に美しい歌に感動する森さんが心を込める公演、今からとても楽しみです。
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