ゲームを値切れるゲーム

3DSの図

だるめしスポーツ店は、ニンテンドー3DSのダウンロード専用タイトルです

ちょっと変わったゲームがニンテンドー3DSで遊べると話題になっています。任天堂から発売されたニンテンドー3DSダウンロードソフトの「だるめしスポーツ店」というタイトル。何が変わっているかというと、このゲームは、ゲームを値切ることができるゲームなのです。

ゲームを値切るゲームっていったいどういうことなのでしょうか? このだるめしスポーツ店の仕組みは非常にユニークなものです。そして、任天堂のダウンロードビジネスに対する姿勢、あるいは1つの答えのようなものがそこから垣間見ることができます。

だるめしスポーツ店という一風変わったゲームをご紹介しつつ、任天堂がオンラインでゲームを売る姿勢について、考えてみたいと思います。

だるめしスポーツ店でゲームを買う

だるめしスポーツ店の図

頭がピッチングマシーンの男が、手でボールをトスしてきます

だるめしスポーツ店は、ニンテンドーeショップにて無料でダウンロードすることができます。ただし、無料でダウンロードして遊べる部分はお試し程度です。

ダウンロードしたゲームを起動すると、タイトルにもなっているだるめしスポーツ店というお店が登場し、その店主「樽飯(だるめし)イヌジ」というキャラクターからゲームを買ってくれと言われます。このお店でゲームを購入することで野球を題材にした様々なミニゲームが遊べるという作りになっています。

イヌジから購入できるゲームは、野球のバッティングやキャッチングなどの気持ちよさに着眼した作りで、ただのトスバッティングがとにかく気持ち良くていつまでも打ち続けてしまう、そんなゲームになっています。球をジャストミートできた時の感触、スカッとする音、シンプルでありながら実に完成度が高く、その手触りの良さのせいでついつい長く遊んでしまいます。

ちなみにガイドのオススメは「審判の快感!~ジャッジ~」で、ピッチャーの投げた球を、ストライク! アウト! などと判定するゲームなんですが、これがまた思いのほか気持ちいいんですね。次々と投げられる球を瞬時に判定していくと、なんだか自分がカッコイイような気にすらなってきます。ゲームを進めていくとだんだんキワドイ球が多くなって、いつのまにか本物の審判気分で緊張感を持って球筋を追いかけています。

さて、そんな触り心地のいいゲームを売ってくれるだるめしスポーツ店ですが、非常にユニークな点は、これらのゲームを購入する時、価格交渉をすることができることです。

ゲームで値切れば、本当に安く買える

だるめしスポーツ店の図

イヌジをうまいこともちあげれば、わりと簡単に値切れます。このお店、大丈夫でしょうか

だるめしスポーツ店では野球を題材にしたミニゲームが買えるのですが、購入時、価格交渉をすることが可能です。

店主のイヌジをうまいことのせると、400円だったゲームを、300円で売ってもいいと言ったりしてきます。さらに交渉すればもっと値が下がるかもしれません。

さて、ひとつ注意していただきたいのは、この400円とか、300円というのは、ゲームの中の仮想通貨ではないということです。ドラゴンクエストシリーズのゴールドとか、ゼルダの伝説シリーズのルピーとか、そういう類のものではなく、日本円です。400円のゲームを買うということは、プリペイドカードなりクレジットカードなりを利用して実際に400円を課金してゲームを購入することになります。

つまり、イヌジと交渉し値切るということは、実際の購入価格を値切るということで、400円で売られたものをイヌジが300円でいいと言えば、実際に300円で買える、ということでもあります。ですから、だるめしスポーツ店は、ゲームが買えるゲームであり、ゲームが値切れるゲームでもあります。ゲームの購入体験をゲーム化した、という言い方をしてもいいかもしれません。

購入体験を遊ばせる、というのは中々斬新な切り口です。

たくさん遊べば安く買える

値引きの図

値引きって、なんだかそれだけで興奮する響きがあります

もう1つ、注目したい点があります。だるめしスポーツ店でゲームを値切るには、アイテムが必要です。値切り交渉を始めるにはイヌジの大好物であるゆでたまごをあげなければいけません。あるいは、イヌジの長い鼻毛を切ってあげるために鼻毛切りが必要になる、なんてこともあります。

これらのアイテムをどうやって手に入れるかというと、野球のミニゲームを遊ぶことで手に入ります。ミニゲームを遊ぶとハンコシステムというスタンプカードのようなものにハンコが押されていって、ハンコがたまるとアイテムが貰える仕組みです。イヌジと交渉するためのアイテムの他、50円引きクーポン、30%引きクーポンといった、出すだけで割り引いて貰えるクーポン券まで手に入ります。もちろん、実際の価格が安くなるのです。

ゲームを遊べば次のゲームが安く買えるよ、という構造になっていることは重要で、ここに任天堂の考え方が反映されているように感じます。

買い物をエンターテイメントする

ダウンロードする3DSの図

オンラインでゲームを販売するという課題に対して、だるめしスポーツ店は任天堂らしい1つの答えを示したようにも感じられます(イラスト 橋本モチチ)

任天堂がオンラインでゲームをダウンロード販売していくにあたって、折に触れて2つの大きな課題に言及することがありました。その1つは「ウィンドウショッピングが楽しい場所にする」ということです。

本来それは、ニンテンドーeショップの動作を快適にし、色んな角度からゲームがオススメされて、行く度に発見があるようにする、というようなことで解決されていく課題とされていますが、だるめしスポーツ店は、全く別の角度から買い物の楽しみを提供するゲームになっています。

もう1つの課題は、「ゲームの価値を守る」ということです。オンラインによるゲームのダウンロード販売は、ゲームの低価格化、無料化の流れを誘導する傾向があります。ただし、ポイントになるのはただゲームが安くなっていくということよりも、価格が下がることでユーザーがゲームにたいした価値を感じなくなることです。

例えば、大量の安いゲームがダウンロードされて少し触っては捨てられる、というような消費スタイルは、ゲームの価値の低下をまねくでしょう。遊び捨てるような消費スタイルにユーザーを誘導することは、長期的に見て業界に大きなリスクをもたらすかもしれません。

だるめしスポーツ店のゲームを値切ることができるというコンセプトは、一見ゲームの価値を守るのとは逆のように思えるかもしれませんが、中身をみると、お金を出してゲームを購入してもらう、じっくり遊んで満足してもらう、次のゲームが欲しくなる、という流れを意識的に作っていることが分かります。価格交渉やハンコシステムは、ゲーム体験に満足したユーザーにはさらにお得に次のゲームが買えるようにしようという仕組みです。

オンラインの仕組みが整って、ゲームメーカーはお店を通してパッケージ販売するだけでなく、ゲームを通じてユーザーに課金していくビジネスモデルについても追求していく時代になっています。それはゲームを作るだけではなく、ゲームを売る仕組みをどう考えるかということで、必ずしもゲームメーカーのもともとの守備範囲ではありませんでした。実際、任天堂にしても、オンライン販売の手法についてはかなり試行錯誤を繰り返しています。

そんな中で、だるめしスポーツ店は、実にユニークで、しかもゲームメーカーならではの方法で、ゲームの購入体験をエンターテイメントし、気持ちよくお金を払ってもらって、面白く遊んでもらう仕組みを提案しています。

イヌジの風貌がすごく汚らしかったり、頭がピッチングマシーンでスーツを着た男が手でボールを投げてきたり、ミニゲームのパッケージに頬を紅潮させて快感に酔いしれてる男性の顔がいつも登場していたりと、全体的にシュールでふざけ倒した印象のゲームなんですが、そこにはオンラインでゲームを販売していくために必要なことは何なのか、真剣に考えるヒントがあるように思います。

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