3.家事合理化の限界
記事「誕生して42年、二世帯住宅の歴史」で、共働き世帯の80年代以降の増加について書きました。共働き世帯では勤務時間が占める割合が多いので家事時間が限られ、食器洗浄機や全自動洗濯乾燥機のような家電製品による合理化が、積極的に取り入れられてきたように思います。家事時間の変化をNHKの国民生活時間調査で見てみると、主婦の炊事・掃除・洗濯の家事時間は減ってきているのがわかります。1995年と2015年を比べると、20分減っています。一方、働いている女性は1995年と2015年を比べると5分減っていますが、2005年以降は徐々に増えています。しかし、今後の家事時間は、キッチン設備や家電機器の機能性の向上や使いやすい動線の向上により大きく増加することはないでしょう。後述しますが、これからは時間の長さではなくその時間をいかに過ごすかに、価値がおかれていくと考えます。
【図5】平日における主婦と女の勤め人の家事の平均時間(平日/炊事・掃除・洗濯)
*行為者平均時間…該当の行動を少しでも(15分以上)した人がその行動に費やした時間量の平均
(出典:NHK放送文化研究所「データブック 国民生活時間調査」より作成)
【図5】平日における主婦と女の勤め人の家事の平均時間(平日/子どもの世話)
*行為者平均時間…該当の行動を少しでも(15分以上)した人がその行動に費やした時間量の平均
(出典:NHK放送文化研究所「データブック 国民生活時間調査」より作成)
4.家事時間を家族で楽しむ
【図6】ペニンシュラキッチンを家族で囲む時間は、貴重な家族コミュニケーションの時間である。 |
1ページ目で紹介した対面キッチンは、主婦がキッチンで家事をしながら、LDの家族と時間を共有できる設計提案でした。しかし、キッチンで炊事をしているのは主婦一人であり、他の家族は対面カウンターに置かれたお皿を受け取り、そこに片づける、というモノを移動させるだけの役割でした。
これに対し、ペニンシュラキッチンは、ダイニング側に腰壁がないため、複数の家族が色々な方向からキッチンを囲んで同時に作業することができます。つまりキッチンでの作業時間は料理をしながらの家族コミュニケーション時間になり得るのです【図6】。実際にプランとアンケート結果を照合して分析すると、オープンキッチンの方が食事の準備や片づけを手伝う子が多く、約8割に達しています【図7】。なお、夫の手伝いについてはこのような差はみられませんでした。
【図7】手元が見えるキッチンの方が、子が手伝う比率が高い。 出典:「家族の生活時間~そのバランスとリズム~」旭化成ホームズ(株)共働き家族研究所 |
20世紀は工場生産技術だった合理化手法が家庭に入り込み、大幅な家事時間の合理化を達成した時代でした。これは主婦の拘束時間を大幅に減らすことに成功し、共働きや外出が当たり前にできるようになりました。しかし、21世紀に入ってこの合理化の時代は終わり、時間を減らすのではなくいかに楽しめるか、という量より質の時代になってきたのだと思います。