映画「落語物語」で主演を演じ、今勢いに乗っている柳家わさびさんに、少しお酒を交えながらお話を伺いました。高座だけでは見えないわさびさんの素顔に迫ります。
柳家わさびさん

柳家わさびさん

Q.落語に出会うきっかけは?

「落研の川上先輩」

大学に入学してすぐに、新歓コンパで見た落研の川上先輩(現・春風亭一之輔師匠)が面白かったんですよ。そのときは、落語ではなく漫談をやっていました。確かパンツ一丁でプロレスラーみたいな感じで「うるせー」とか叫んでいて、素人なのにこんなに面白いんだと衝撃を受けました。山から出てきたみたいな子だった私が現実の大学生の凄さに触れた瞬間でしたね。当時お笑いが好きだったので落研(落語研究会)に入り、川上先輩に落語のCDを借りました。それが私にとってのはじめての落語でした。その後、自分で落語のビデオを借りたりして落語にはまっていきました。こわいもの知らずなので、高座に上がらせて頂く事もありました。それまで表舞台に出たことがほとんどなかった分、とても新鮮で楽しかったです。

Q.さん生師匠に弟子入りした経緯は?

「さん生師匠に惚れたんです」

大学の後半で師匠と出会いまして、師匠の話をそばで聞いていて凄い人だなと思ってすっかり憧れてしまいました。とても冷静な印象があって、この人だったら育ててくれるという絶対的な安心感がありました。その後、鈴本演芸場の楽屋に行き、師匠に「噺家になりたいんです」というと、師匠は「誰の?」と。「師匠の」と言い返すと「よせよ。絶対やめると思うよ。やりたい病になってるんだよ」と言われましたが、若さもあってなんとか認めてもらいました。男が男に惚れたってことですね。

Q.モチベーションのあげ方は?

「"やりたい仕事"があることです」

私の持論ですが、仕事って二つあると思うんです。
手帳を開きお話をするわさびさん

手帳を開きお話をするわさびさん

「お金を稼ぐ仕事」と「やりたい仕事」。「お金を稼ぐ仕事」は周囲にあわせて自分に多少嘘をついてやる仕事で、「やりたい仕事」は自分が気になっていることを素直にやる仕事。本当は一緒になれば一番いいと思いますが、そうもいかない場合もあるかと思います。私の場合は、月に一回、「月刊少年ワサビ」という落語会をやらせてもらっていて、そこで自分がやりたい三題噺(ガイド注:お客さんが出した3つのお題からつくった噺)ををやらせてもらっているので、モチベーションが高い状態を保てています。自分の責任でお客様の前で生の反応を見るわけじゃないですか、特に三題噺は。だから、やんなきゃっていう気持ちが自然と沸き起こってきます。たまにブログで厳しい批評があってヘコむことはありますが。とはいえ、先人の方々が築かれてきたからできる「お金を稼ぐ仕事」は勿論大切。お陰さまで食べていけるんですから。うけた恩恵を何かしらの形で返せたら幸いです。

Q.三題噺を考えるときのヒントはどこで探しますか?

「"発言小町”とヒヤリング」

ニコニコ動画と発言小町はかなり参考になりますね。
酔って少し赤ら顔のわさびさん

酔って少し赤ら顔のわさびさん


特に発言小町はいいです。発言小町には人の悩みがいっぱい書いてあるんです。落語って、だいたい人の悩みからはじまります。それに大衆演芸ですし、そういう所から考えていったほうが共感を持って頂きやすくなります。寿限無(ガイド注:落語の演目。赤ちゃんの名付けに悩む親の噺)も、名前をどうするか悩むところからはじまってますしね。ネットはネタづくりにかなり活用しています。でも、やっぱり、直接生でお話を聞くのにはかないませんね。サラリーマンの悩みは、やはりご本人に直接伺ったほうがいいわけです。空気感が得られるのは大きい。ネットでは空気感まではなかなか伝わりませんから。結局、落語をする上では、その登場人物の了見を理解することが大事で、そのためには直接話を聞くのが速いわけです。こと細かくリアリティを追求しながら、落語らしいファンタジーも大切にしています。リアルとファンタジーのバランスが大切ですね。

Q.辛いときに思い浮かべる言葉は?

「5年後どうなっているかわからない」

今が本当につらくても、5年後はまるで変わってると思うんですよ。今から5年前の自分だって、今とは違うと思うんですよ。1年、2年だとそんなに変わらないですけど。5年後は、日本とアメリカが合併しているかもしれないですし。苦手な人が海外で暮らしているかもしれないし、身近な人がトップに立っているかもしれない。結婚して子守が大変かもしれないし、出世しているかもしれないですし。

線が細く、少年のような眼差しは、一見すると自信が無さそうにも見えますが、その内側には芯の通った考え方があり、自分なりの新たな落語をつくりたいという強い意気込みを感じました。5年後のわさびさんが、とても楽しみです!
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