“Create a customer”という言葉

顧客の創造についてもう一言付け加えておきましょう。「顧客を創造する」の原文は”create a customer”です。これを見て私はなぜ”create customers”ではないのだろうかと思いました。一人の顧客を創造してもビジネスにはなりません。しかし、ドラッカーは一貫して”create customers”でなく”create a customer”を使っています。ドラッカーほどの人物ですから、一つひとつの単語は慎重に選んでいるはずです。

私はここにもドラッカーの「人間を中心にして見る」という態度が表れているのではないかと思いました。市場をマーケットとして分析していたのでは新しい商品やサービスの開発は難しいでしょう。

拙著『財務3表一体理解法』(朝日新書)はベストセラーになりましたが、これは市場のニーズを分析して生まれたものではありません。私の顧問先の企業で、バランスシートも読めず銀行交渉ができない社長さんに「どうしたら財務会計を理解してもらえるだろうか」と考えていて生まれた会計勉強法が「財務3表一体理解法」でした。一人の悩みや苦しみを救うことが出来れば、その手法は万人に応用できます。

多くの貧村を救った二宮尊徳は「一村を救いうる方法は全国を救いうる。その原理は同じである」と言いました。ドラッカーが「顧客創造」(create a customer)と言った真意もここにあるのではないかと思います。

ドラッカーは、企業が市場を創造するには、まず「市場に居る一人ひとりの人間を見よ」と言っているのだと思います。ドラッカーは市場を市場(market)として見ていたのではなく、市場を形成する一人ひとりの人間(a customer)の集まりとして見ていたのでしょう。


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