「神に祝福された声」「キング・オブ・ハイC(三点ハの王者)」「ルチアーノ・パヴァロッティ」は、そんな風に評される20世紀後半を代表するオペラ歌手の1人です。プラシド・ドミンゴやホセ・カレーラスと共に「三大テノール」としても知られ、テレビにもよく出演していましたから、その大きな身体と豊かで明朗な歌声を観た方はきっと多いでしょう。

賛否両論

彼ほど賛否両論の多いオペラ歌手はいないと思います。アリアで「ハイC」と呼ばれる難しい高音をを9回苦もなく歌ってのけ、聴衆を熱狂させて「キング・オブ・ハイC」という異名をとったかと思えば、軽やかな美しさだけではなく強い響きもそなえた声質と歌唱力でレパートリーを増やし、オペラをより劇的なものにする。

そうかと思えば、完璧さを求めるあまりに、公演をしばしばキャンセルし、「キャンセルの王様」とまで揶揄されるようになってしまう。8年の間に41回の公演のうち26回もキャンセルし、ついには激怒したオペラの支配人から、終身出入り禁止を言い渡されたこともあったそうです。

他にも楽譜が読めないであるとか、テレビにばかり出演して大衆に迎合しているだとか、晩年は称賛より批判の方が多かった気がします。フェラーリを買ったはいいがあまりにも巨漢のため、乗れないんじゃないの? なんてエピソードまで伝えられていますから、有名税かもしれませんね。

オペラをより身近なものにした功労者

そんなことはどうでも良いではないですか。

大きな身体とひげに覆われた彫りの深い顔。それでもつねに笑っている姿しか想像ができなくて、歌う姿をみなければ、王様ではなくパパと呼びたくなるような彼のおかげで、オペラは狭い劇場をとびだし、より身近で、エキサイティングなものになったのですから。オペラや音楽自体に興味がなくとも、映画やドラマ、CMなどで使われる彼の迫力のある歌声を耳にすれば、思わず手をとめ聴きいってしまうのですから。

一度、彼の歌声を聴いてみてください。歌ってたのしい、生きていることはすばらしい。そんな風に単純に思える力が、全盛期の彼の歌声にはあります。そうまるで、彼の生まれ故郷モデナの、青き晴朗な空をみあげたときのような。



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