マンガ「ムチャチョ―ある少年の革命」

ムチャチョ―ある少年の革命

「ムチャチョ―ある少年の革命」
エマニュエル・ルパージュ著/大西愛子:訳/飛鳥新社/2835円

第16回文化庁メディア芸術祭・マンガ部門の優秀賞に輝いたのが、エマニュエル・ルパージュのバンド・デシネ『ムチャチョ―ある少年の革命』です。

バンド・デシネとはアーティスティックなタッチのフランス語圏の「マンガ」。大判で、一コマ一コマが美しい絵として描かれています。『ムチャチョ―ある少年の革命』も、最初のページを開いた瞬間から一気に作品世界に引き込まれていきます。

1976年、独裁政権下・革命前夜のニカラグア。神学校上がりの少年・ガブリエルは、教会の壁画を描くために小さな村にやってきます。貧しい村人たちは、時に国家警備隊(政府軍)の暴力にさらされながらも、生き生きと暮らしています。ガブリエルは、そんな村人たちの姿とキリストの受難とを重ね合わせながら見事に壁画を描き上げるのですが、教会が国家警備隊の襲撃を受け、ガブリエルは親元へと引き離されようとします。が、彼は車から飛び降り、山中へと入っていきます…

ガブリエルは村人たちの中でも異質な、浮いた存在でした。それはお坊ちゃん育ちの修道士だからというだけではなく、彼がゲイだからです(彼が壁画のために人々の姿をスケッチしていた、そのスケッチブックには、彼が想いを寄せる男の子の裸体も描かれていました)。ゲイであるがゆえに荒々しい村人たちにもあまり溶け込めず、また、カトリックの修道士であるがゆえに自らの欲望に罪悪感を覚えながら、独り悶々と絵を描く日々なのです。

後半、この国の矛盾や政府軍の横暴に怒りを覚えたガブリエルは、傷だらけの体でジャングルを這い回るなかで出会ったゲリラ軍の闘士たちと行動を共にします。ガブリエルは自身の信念を曲げずに行動し、かよわい少年(ムチャチョ=坊主)から立派な青年へと変貌していきます。そして、闘士の一人への愛が芽生えます。二人が愛しあうシーンは、この作品のなかでも最も美しく、幻想的です。

ラテンアメリカのゲイ作品と言えば、映画『蜘蛛女のキス』が有名ですが、政治なんかには全く興味のない(自分を着飾ることに余念のない、お気楽な)モリーナとこの「ムチャチョ」のガブリエルは一見、対照的に見えるかもしれません。が、ゴトウは、ガブリエルの繊細さ、正義感の強さ、真っ直ぐな生き様もまた、とてもリアルな(典型的な)ゲイの姿だと感じました。

マンガというよりは画集並みのお値段なのですが、見ていただければきっと納得がいくハズ。なぜ作者が主人公をゲイにしたのかがわかるインタビューも掲載されています。また、24日(日)まで国立新美術館で開催中の「第16回文化庁メディア芸術祭 受賞作品展」(入場無料)でも展示されています。
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