アートが好きな人、興味がある方ならとにかく楽しく、そうでない方もアートって楽しいかも! と感じさせてくれる美術展、『会田誠展:天才でごめんなさい』が森美術館で開催されています。

会田誠『あぜ道』 1991年undefined岩顔料、アクリル絵具、和紙、パネルundefined73×52cmundefined豊田市美術館蔵、愛知undefinedCourtesy: Mizuma Art Gallery

会田誠『あぜ道』 1991年 岩顔料、アクリル絵具、和紙、パネル 73×52cm 豊田市美術館蔵、愛知 Courtesy: Mizuma Art Gallery


その名のとおり、会田誠の最大級の回顧展(特定のアーティストのキャリア全体を取り上げる展覧会)であるこの展覧会、サブタイトルからして驚きですが、内容は確かに納得なのです。天才で芸術家というと、ダ・ヴィンチやピカソを連想しがちですが、彼の“天才”性は全く別のところに感じられるのです。

INDEX
(1) 会田誠ってどういう人?
(2) 西洋と日本、社会を冷静に見つめる目『戦争画RETURNS』
(3) かわいさも、下品も同居する世界


■会田誠ってどういう人?

会田誠は昭和40年(1965年)生まれ。東京藝術大学大学院美術研究科を修了し、作家活動を開始。卓越した画力と発想力をもって、ときにはシニカル、時にはエロティック、ときには下品、ときにはおバカな作風で注目を集めてきました。

たとえば、ツインテールの少女の分け目が、田んぼの真ん中に走るあぜ道と一体化した構図の『あぜ道』(1991年)という作品は、会田誠の初期の代表作の一つ。

ひと目見たときは、とてもユーモラスな絵!という印象を受け、その後、じっくり見てみると、少女の髪の毛のツヤ、稲の緑の美しさ、遠くに広がる山々など、まじめに伝統的な日本画の技法で描写されていることに気づき、その緻密さに驚かされます。

そして、この絵。美術を好きな方なら、なおさら楽しい点がもう一つ。それは、日本画家の東山魁夷の代表作で、重要文化財にも指定されている『道』(東京国立近代美術館に収蔵 )という作品を下敷きにしているということ。知っていると、思わずニヤリとしてしまう仕掛けが多いのです。




会田誠『灰色の山』 2009-11年undefinedアクリル絵具、キャンバスundefined300×700cmundefinedタグチ・アートコレクション蔵undefined制作協力:渡辺 篤undefinedCourtesy: Mizuma Art Gallery

会田誠『灰色の山』 2009-11年 アクリル絵具、キャンバス 300×700cm タグチ・アートコレクション蔵 制作協力:渡辺 篤 Courtesy: Mizuma Art Gallery


3メートルx7メートルもの大作である『灰色の山』もそのひとつ。この山を構成するのは、おびただしい数のサラリーマンの死体!現代の企業戦士の働きざまを皮肉った作品、という見方ができます。しかし、遠目から見ると、南宋の山水画(中国で発達した、山や川をモチーフにした絵のこと)に見えてくるから不思議です。


一枚の絵で、さまざまな角度から楽しめる作品が多いのが、会田誠の作品の面白さのひとつです。





■西洋と日本、社会を冷静に見つめる目『戦争画RETURNS』シリーズ

あっと驚くもの、楽しい発想、目線を、類まれなる技術で作品として、元ネタを知らない人も感動するまでにつくり上げる彼のワザは、連作『戦争画RETURNS』にも通じています。


戦争画とは、広義ではその名のとおり戦争を題材する絵画。そして狭義では、第二次世界大戦中、軍部が戦意高揚のために画家に描かせた絵画のことを指します。

藤田嗣治の『アッツ島玉砕』をはじめ、多くの戦争画は終戦後にGHQに接収され、その後、東京国立近代美術館に無期限貸与という形で収蔵されている状態です。

終戦から時間が経ち、戦争画については少しずつ研究や展示がされつつある状況ではありますが、近隣諸国への配慮や、描いた画家本人たちの立場や気持ち(実際に藤田嗣治はいろいろ悩んでしまったようで、戦後フランスへ帰化してしまった)など大人の事情がうずまき、その扱いは現在に至るまで若干タブー視されてきました。彼はその「戦争画」について、『紐育空爆之図』をはじめ、数々の連作でこの問題について取り組んでいます。

『紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)』  1996年undefined六曲一隻屏風/日本経済新聞、ホログラムペーパーにプリントアウトしたCGを白黒コピー、チャコールペン、水彩絵具、アクリル絵具、油性マーカー、修正液、鉛筆、襖、蝶番、その他undefined174x382cmundefined零戦CG制作:松橋睦生undefined高橋コレクション蔵、東京undefinedCourtesy: Mizuma Art Gallery

『紐育空爆之図(にゅうようくくうばくのず)(戦争画RETURNS)』 1996年 六曲一隻屏風/日本経済新聞、ホログラムペーパーにプリントアウトしたCGを白黒コピー、チャコールペン、水彩絵具、アクリル絵具、油性マーカー、修正液、鉛筆、襖、蝶番、その他 174x382cm 零戦CG制作:松橋睦生 高橋コレクション蔵、東京 Courtesy: Mizuma Art Gallery


『紐育空爆之図』は、狩野永徳が描いた『洛中洛外図屏風』(米沢市上杉博物館に収蔵)の舞台である京都と同じく、碁盤の目状の街であるマンハッタン上空に、ゼロ戦が∞状に飛び回る構図の作品。そのゼロ戦は、日本画家の加山又造の『千羽鶴』(東京国立近代美術館に収蔵)を意識したもので、ホログラム状に光かがやいています。ちなみに、制作当時暮らしていた家の襖の裏に描かれているのだそう。

1作品ごとに全く表現方法が異なる『戦争画RETURNS』シリーズを並べて展示。左の作品は、かつて第二次世界大戦で戦場となったアジア各地の旅行パンフレットを並べてキャンバスにしたもの。 「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery

1作品ごとに全く表現方法が異なる『戦争画RETURNS』シリーズを並べて展示。左の作品は、かつて第二次世界大戦で戦場となったアジア各地の旅行パンフレットを並べてキャンバスにしたもの。 「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery



日本の美を徹底的に意識しながら、アメリカやアジア、日本の関係を冷静に見つめ、問いかける作品は、その美しさ、かっこよさ、ダイナミックさで多くの人々を魅了させるとともに、驚かせ、考えさせ、感情をゆさぶるものが多いのです。


これだけの説明では、会田誠とは「シニカルな社会派作品」を描く作家、という印象を受けてしまうもの。けれども、彼の作品が持つ魅力はこれだけではないのです。




■かわいさも、下品も同居する世界

会田誠『滝の絵』 2007-10年undefinedアクリル絵具、キャンバスundefined439×272cmundefined国立国際美術館蔵、大阪undefinedCourtesy: Mizuma Art Gallery

会田誠『滝の絵』 2007-10年 アクリル絵具、キャンバス 439×272cm 国立国際美術館蔵、大阪 Courtesy: Mizuma Art Gallery


それは、なんにも考えてない(ように見える)ところ。
たとえば、ちょっとエロティックな作品群を見てみましょう。

『滝の絵』は美しい滝で無防備に戯れるスクール水着の少女たちを描いた4メートルもの大作です。無邪気にふるまう美少女たちは、じっと見ていると、良からぬことは何も考えていないのに罪悪感を感じてしまいそう。

ちなみに、会田氏によると、スクール水着に描かれたゼッケンには、すべて水や自然にちなんだ苗字が書かれているそう。「どんな名前が描かれているのか調べているんです!」という言い訳まで用意してくれている、見る人々への配慮も行き届いた作品です。


そのとなりには、『ジャンブル・オブ・100フラワーズ』という、未完成の新作。銃撃を受けるとなかからいちごやバニラビーンズなど、キラキラした“かわいい”ものが飛び出てくる、大量の非現実世界の全裸で走ってくる少女たち。活き活きとしているのに無機質で、かわいいのに不気味な、不思議な世界です。

ちなみに、こちらの作品はいまだ未完。会期中に加筆されていくそうなので、会期が始まったいまのうちに訪問し、そして会期末にも訪問して見比べてみるのもいいかもしれません。

『ジャンブル・オブ・100 フラワーズ』2012年- アクリル絵画、キャンパス 200x1750cm  「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery

『ジャンブル・オブ・100 フラワーズ』2012年- アクリル絵画、キャンパス 200x1750cm 「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery


これら、「美少女」が、さまざまな姿で多く登場するのも会田誠作品の特徴のひとつ。ときには切腹しながら、ときには手首を切りながら、ときにはオオサンショウウオと泳ぐ彼女たちは、顔立ち、スタイル、肌のなめらかさなど、本当に魅力的。なにも考えることなく眺めていられるのです。

加えて、展覧会の終盤で見られる通称「18禁の部屋」も注目。その名のとおり18歳以下のお子様は入場を遠慮いただいている場所。彼の真骨頂である、エロティックな絵がたっぷりと飾られています。

会田誠『考えない人』 2012 ロダンの『考える人』と『弥勒菩薩半跏思惟像』をイメージしたポーズを取る、会田氏の分身でもある「おにぎり仮面」undefined「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery

会田誠『考えない人』 2012 ロダンの『考える人』と『弥勒菩薩半跏思惟像』をイメージしたポーズを取る、会田氏の分身でもある「おにぎり仮面」 「会田誠展 天才でごめんなさい」展示風景 森美術館 2012/11/17-2013/02/31 Courtesy:Mizuma Art Gallery



また、『考えない人』や、『スペースウンコ』(実際に会場にて、そのスケールの大きさとリアリティ溢れる作品をお楽しみください)などをはじめとする、子どもは大喜びし、大人は正視しづらい、下品と言ってしまえば身も蓋もない作品も多数。

このように、さまざまな作風、引き出し、技法を持ち表現を続ける会田誠。その魅力を知るためには、このような回顧展で全容を掴むのが一番の近道です。

年末年始も無休で、しかも22時まで開催されている森美術館。1枚ごとに情報量が多く、じっくり時間をかけて見たくなる作品が多いので、お時間に余裕を持った訪問をオススメします!


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■森美術館「会田誠展:天才でごめんなさい」
会期:2012年11月17日(土) ~ 2013年3月31日(日)  ※会期中無休
会場:東京都港区六本木6-10-1 六本木ヒルズ森タワー 53F
TEL:03-5777-8600(ハローダイヤル)
WEB:森美術館「会田誠展:天才でごめんなさい」

開館期間:10:00~22:00(火 10:00~17:00)
※2013年1月1日(火・祝)は22:00まで
※入館は閉館時間30分前まで

入場料:一般1,500円、学生(高・大)1,000円、子ども(4歳~中学生)500円
※本店チケットで「MAMプロジェクト018 山城知佳子」展、展望台 東京シティビューにも入場可(スカイデッキを除く)




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