PSVitaの実力がためされる年末商戦

PS3とPSPとPSVitaの図

兄弟マシンとも言われるPS3やPSPとの関係に苦しめられるとはどういうことでしょうか?

2011年末、ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下SCE)から鳴り物入りで発売された新型携帯ゲームハードPlayStationVita(以下PSVita)。もうすぐ2回目の年末商戦を迎えようとしています。発売から1年経っての年末商戦となると、新商品としての話題性で売れていいく発売当初とは状況が変わり、ゲームコンテンツの質が吟味されて、このハードで遊びたいゲームがあるというユーザーを捕まえなければなかなか伸ばすことができません。

その実力が試される大事な商戦期、ですが、PSVitaの現状はと言うとかなり苦しい状況にあるようです。苦戦の理由はいくつか考えられますが、そのうちの1つは、同じくSCEから発売されているゲームハード、PS3やPSPとの関係というのが考えられます。ライバルハードのニンテンドー3DS(以下3DS)ならいざしらず、なぜ仲間であるはずのPS3やPSPとの関係で苦戦するのか、と思う方もいらっしゃるかもしれません。PSVitaの現状、そして大事な年末商戦と2013年以降の展望も少し絡めて、お話してみたいと思います。

100万台到達したPSVita

PSVita

100万台到達はとても嬉しいことですが、ここまでの道のりはかなり苦しいものでした

PSVitaの現状はと言いますと、ちょうど普及台数が100万台に到達しました。100万台に到達したことそのものは大変に喜ばしいのですが、他のハードの100万台到達の数字と比べてみますと、かなり苦しい状況なのが浮き彫りになります。100万台到達までどのくらいかかったかを各携帯ハードの数字を出してみますと、圧倒的普及台数を誇ったニンテンドーDSはたったの1ヶ月。発売直後苦戦が度々報じられた3DSは約3ヶ月。PSVitaの前世代機にあたるPSPはというと、こちらも約3ヶ月。じゃあPSVitaはというと発売から約10ヶ月程かかっています。

ちなみに、3DSが1万円の値下げに踏み切ったのが約130万台位の頃で、発売から半年経たずというタイミングの2011年8月でした。なぜこのタイミングだったかというと、それまでの3DSの状況を覆して年末商戦を戦い、ひいては2012年以降の展開をよくしていくためには早めの値下げをしておいて、年末にはスーパーマリオ3Dランドなどのキラータイトルをぶつけることで勢いをつける、という狙いがあったからです。その狙いは見事に的中して、2012年の3DSは非常に好調に推移しています。

PSVitaはというと、2012年9月に行われた日本最大のゲームイベント、東京ゲームショウでも発表がなかったことから、おそらく近日中に本体価格が値下げされる可能性は低く、このまま年末商戦に突入することが予想されます。ということはこれからのタイトルラインナップのインパクトだけで勝負するということになるのですが、そこでPS3やPSPとの関係が問題になります。


PS3と被る洋ゲー施策

コールオブデューティーの図

携帯ゲームハードで洋ゲーを遊ぶというスタイルは、今まであまりなかったものでした

年末におけるPSVitaの施策というと、1つには洋ゲー、つまり海外のゲームが挙げられます。洋ゲーの分野はここ数年でかなり浸透してはきましたが、正直に言ってそれでもまだまだニッチなジャンルであり、一部のコアゲーマーしか遊びません。そういう意味で、洋ゲーを注目タイトルに置かざるを得ない状況自体がその苦しさをにじませています。とはいえ、携帯ゲームハードでの洋ゲーというジャンルは今までほとんど手付かずの市場で、ここが開拓できるとすれば新しい分野を手にできるという可能性を秘めているところでもあります。ライバル機の3DSでも、ほぼ未開拓の市場です。

ただし、ここでライバルになるのは実は3DSではありません。PS3です。PSVita注目の洋ゲーは「アサシン クリードIII レディリバティ」、そして「コール オブ デューティ ブラックオプス ディクラシファイド」の2作です。どちらも洋ゲーの中では知名度バツグンですが、問題なのはそれらの発売と同時に、PS3などの据え置きハードでも「アサシン クリードIII」と、「コール オブ デューティ ブラックオプスII(日本語吹き替え版)」という同シリーズの別作品が発売されることです。

ユーザーの時間もお金も有限ですから、同じシリーズのゲームが同時に発売されてしまっては、どうしても分散することが予想されます。コール オブ デューティー シリーズに関して言えば、据え置きハードの方は字幕版が約1ヶ月前に先行して発売されるのでまだ影響は少ないかもしれませんが、それでもやはり発売が近過ぎるでしょう。結果、洋ゲー市場を形成しつつあるPS3が最も手強いライバルとして、PSVitaの前に立ちふさがることになります。

PSPと被る中高生層向け施策

PSVitaとPSPの図

PSPからPSVitaにうまくバトンを渡したいところなんですが、それがなかなかうまくいきません

一方で、日本メーカーのゲームはどうでしょうか。2012年内の比較的大きな弾としては、2012年10月18日に発売されたダンボール戦機Wがあります。こちらは低年齢層に訴求できるタイトルで、発売日近辺だけでなくクリスマス時期の需要も見込めます。また、年末商戦の話からは少し離れますが、2013年にはゴッドイーター2の発売も発表されています。上記の洋ゲー施策と違って、こちらはPSPの既存ユーザーをどう取り込んでいくか、ということに関わって行く際に注目のタイトルとなります。しかしここにも問題がありまして、このどちらもPSPとのマルチタイトルなのです。つまり、PSPとPSVitaの両方で同じゲームが発売されているのです。

上記のような中高生、あるいはそれ以下の層に訴求するタイトルとなると、本体の普及台数はもちろん、本体価格もポイントになります。まず現状ではPSPを持っているというお子さんの方が圧倒的に多いでしょう。じゃあ、さらにPSVitaを購入してもらおうと考えると、本体価格についてはPSPは2012年9月に値下げをしていまして、1万3800円、PSVitaのWi-Fiモデルが2万4980円ですから、その差1万円以上ということになります。この場合、ゲームが欲しい本人だけでなく、家計を預かるお母さんをどう説得するかが問題で、同じゲームができるのに1万円以上の価格差があるというのは如何ともし難いものがあるわけです。

ソフトを出すメーカーからすると、PSPとマルチ展開することで普及が進んでいないPSVitaへタイトルを提供するリスクを回避しようという動きがあるわけですが、結果、PSPがPSVitaの普及を妨げるという状況が起きてしまいます。

PSPやPS3に板挟みのPSVita。しかし、この状況は悪いことばかりでもないんです。


PS3とPSPを味方につけられる日を

ソウル・サクリファイスの図

ソウル・サクリファイスは、様々な魔法を使って戦うアクションゲーム(イラスト 橋本モチチ)

ちなみに、2012年内発売の他のPSVitaの有力タイトルをざっと挙げてみても、「ストリートファイター X 鉄拳」や「トトリのアトリエ Plus アーランドの錬金術士2」は既にPS3でも発売されているタイトルのPSVita版、「AKB1/149 恋愛総選挙」はPSPとのマルチ、「実況パワフルプロ野球2012決定版」はPS3とPSPとのマルチとなっており、PSVitaだけの、というコンテンツがあまり見当たりません。

ただ、このPS3やPSPとコンテンツが被ってしまうという状況、悪いことばかりではないんです。PSVitaが現状かなり苦戦していて、強力な独自タイトルも少ないという中で、PS3やPSPとコンテンツが被ってしまうと、新しくPSVitaを買ってソフトを遊んでもらうという場面を作り出すのが難しく、どうしても既に持っているPS3やPSPで遊べばいい、という形になってしまいます。

しかし、たった1タイトルでも、PSVitaだけの強力なキラータイトル、PSVitaのハードを買わせる力のあるタイトルがあったとすれば話は別です。PSVitaを持ってさえいれば、据え置きハードで洋ゲーを遊んでいるユーザーも、PSVitaでも遊んでみようと考える可能性はぐっと高くなるでしょうし、PSPとマルチのタイトルだって画面の綺麗なPSVita版が選ばれるでしょう。

では、どのタイトルが最初にPSVitaを引っ張っていくのか、それだけが問題です。もちろん、PSVitaの独自コンテンツがないわけではありません。SCEが元カプコンでロックマンシリーズなどを手がけた稲船敬二氏と共に制作しているソウル・サクリファイスなど、ポテンシャルが未知数な新規タイトルには、ハードを引っ張るパワーを持つ作品に仕上がることを期待したいところです。

今、PSVitaのタイトルの多くは、結局似たようなソフトがPS3でも遊べる、PSPでも遊べるというように見えてしまっています。しかし、PSVitaがPSVitaらしさを打ち出すことができれば、あのタイトルもこのタイトルもPSVitaで遊べる、という逆の見え方を演出することもできるはずです。その時初めて、PSPやPS3は敵ではなく、強い味方になってくれるのではないでしょうか。

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