労務管理/就業規則の基礎知識

在宅勤務制度導入時の労務管理はどうすればいい?

情報通信技術の進歩により、ビジネス社会では勤務場所にとらわれない多様な働き方がより一層進んでいます。多様であるがために労務管理には留意が必要。国から公開されたガイドラインを基に適切な導入を図りましょう。

小岩 和男

執筆者:小岩 和男

労務管理ガイド

在宅勤務などテレワークの導入で職場環境が大きく変化

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情報通信機器をフル稼働して、在宅勤務制度導入を検討してみよう!


企業活動は、今やIT(Information Technology:高度通信情報ネットワーク)なくして語ることができない状況です。このIT化は、パソコンや情報端末機器を情報ツールとして活用することにより、企業の職場環境や就業形態等を大きく変化させました。皆さんの企業でも、パソコンに代表される情報通信機器をフル稼働して仕事をされていることでしょう。これは働く時間と場所を自由に選択して働くことを可能にすることを意味します。

近年増えている在宅勤務就労では、こうした機器を上手に活用していきたいものですね。今回の記事では、国から公開されたガイドラインを踏まえた労務管理のポイントを取り上げます。これから導入を考えている企業はもちろんのこと、すでに導入済の場合には自社制度のチェックとしてお読みください。
 

在宅勤務に代表される「テレワーク」ってなに?

「テレワーク」という言葉、ピンときますか?情報通信ネットワークを活用して、時間と場所に制約をされることなく、いつでもどこでも仕事ができる働き方、のことです。「tele=離れた、work=働く」を合わせた造語です。今回の記事「在宅勤務」も「テレワーク」という働き方の一種です。テレワークは、3つに区分されます。

1.在宅勤務
自宅において、会社とは、情報通信機器(パソコンなど)を活用しインターネット、電話、FAXなどで連絡をとる働き方。

2.サテライトオフィス勤務
通常勤務する事業所ではなく、郊外の小規模オフィスでの職住近接での働き方。一社専用サテライトだけではなく、数社共同のサテライト、レンタルオフィスなどの施設を利用する働き方。

3.モバイルワーク
インターネット社会がもたらす新たな働き方。おもにノートパソコン、小型情報端末、携帯電話などを活用して臨機応変に選択した場所をオフィスとして活用する働き方。こうした機器があれば、いつでどこでも仕事ができるわけですね。

以上は、企業に雇用されて働く形態です。それ以外に、事業主と雇用関係にない請負契約等に基づく働き方として、非雇用の就業形態である「在宅就業」(自営業)があります。よくSOHO(small office,home office)と呼ばれていますね。
 

在宅勤務のメリットはここにある!

今回は、前記3つの区分の代表格「在宅勤務」を導入することによるメリットを考えてみましょう。これは皆さんの企業で導入する際のポイントでもあります。自社で導入の可否を検討してみてください。大きな効果が得られるようであれば活用に向け準備を進めたいですね。

■仕事の生産性・効率性の向上
研究、開発職務・スタッフ職務などでは、職務内容によって、計画的・集中的な作業実施による業務能率の向上が期待される場合があります。

■オフィスコストの削減
事業所スペース、ペーパーコスト、通勤手当・旅費交通費などのコスト、事業所省力化による電力消費量の削減効果などが期待できます。

■優秀な人材の確保
育児・介護等の事情で有能な従業員が離職することを防ぐことができます。有能な従業員を継続雇用させる方法として導入を検討できますね。

■企業活動の継続性の確保
非常災害時や感染症の流行など、予期せぬ出来事を想定しておく時代です。事業所が一極集中されている場合には、事業活動場所が分散していることで企業活動停滞のリスクを避けることができます。
 

ガイドラインを踏まえ適切な労務管理を

適切な労務管理は、国から公開(平成30年2月22日)された『情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン』を踏まえることです。今や業務場所は、在宅勤務・サテライトオフィス勤務・モバイル勤務など多様化の時代。労務管理の適正化を図るためこのガイドラインの内容をしっかりチェックしておきましょう。
 
【労働基準関係法令の適用】
テレワークを行う場合でも、労働基準関係法令はもちろん適用されます。

1.労働条件をしっかり明示しよう
実際にテレワークを行わせる場合、就業の場所としてテレワークを行う場所を明示しなければなりません。

2.労働時間の管理方法のポイント
①労働時間の適正な把握
テレワーク就労者であってももちろん、労働時間について適正把握が必要です。在宅勤務であっても、通常の事業所内勤務者と同様に労働時間を適正管理できるのであれば、特段問題はありません。今は、パソコンなどの情報通信機器を活用して業務を行うことが多くなっています。労働時間についても、常時通信されている状況下では通常の管理は可能です。

業務に従事した時間・内容を作業日報等で記録、企業側で労働時間の状況の適切な把握に努めることがよいでしょう。その内容によって、当該業務に必要な所定労働時間や業務内容等について改善を行うことができます。始業・終業時に上司にメール・電話などで連絡をとるなどのルールを明確にしておくことです。

②いわゆる中抜け時間
就労者が労働から離れ、自由利用が保障されている場合、休憩時間や時間単位の年次有給休暇として取扱うことが可能です。

③通勤時間や出張旅行中の移動時間中のテレワーク
この場合でも、使用者の明示又は黙示の指揮命令下で行われるものは労働時間に該当しますので要注意です。

④勤務時間の一部をテレワークする際の移動時間等
移動することを就労者に命ずることなく、単に就労者自らの都合により就業場所間を移動し、自由利用が保障されている場合は労働時間に該当しません。

⑤フレックスタイム制
テレワークもフレックスタイム制を活用することは可能。但しあくまで始業・終業の時刻を労働者に委ねる制度のため、労働時間の把握は必要です。
 
3.「事業場外みなし労働時間制」が適用できる場合もある
具体的な指揮監督が及ばず、労働時間を算定することが困難なときは、事業場外みなし労働時間制が適用できます。具体的には、
  1. 情報通信機器が、使用者の指示により常時通信可能な状態におくこととされていないこと
  2. 随時使用者の具体的な指示に基づいて業務を行っていないこと
が必要です。なお実態に合ったみなし時間となっているか確認し、実態に合わせて労使協定を見直すこと等が適当です。
 
4.裁量労働制
裁量労働制の要件を満たせば、制度の対象となる就労者についても、テレワークの活用は可能です。労働者の健康確保の観点から、勤務状況を把握し、適正な労働時間管理を行う責務が生じます。また、労働者の裁量が失われていないか等を労使で確認し、結果に応じて、業務量等を見直すことが適当となります。
 
5.休憩時間
労使協定により休憩時間の一斉付与の原則を適用除外とすることは可能です。
 
6.時間外・休日労働の労働時間管理
テレワークであっても法定労働時間を超える場合には、割増賃金の支払い等が必要となりますので念のため。そのため労働時間の状況の適切な把握に努め、必要に応じて労働時間や業務内容等について見直していきましょう。
 

労働安全衛生法上留意すること

1.健康診断・安全衛生教育の実施
在宅勤務者であっても通常の従業員と同様に、その健康保持を確保する必要があります。具体的には健康診断(労働安全衛生法第66条第1項)、在宅勤務を行う従業員を雇用したときは、安全衛生教育を行う必要があります(労働安全衛生法第59条第1項)。

2.従業員の健康保持に留意
また、通信機器を活用した働き方になりますから、在宅勤務を行う従業員の健康保持に特に留意していきましょう。従業員自身の健康を確保する観点から、『VDT作業における労働衛生管理のためのガイドライン』(平成14年4月5日基発第0405001号)が公表されています。この内容を周知し、必要な助言を行っていくことです。

【関連記事】
初めてでもわかる就業規則の基本

【関連資料】
情報通信技術を利用した事業場外勤務の適切な導入及び実施のためのガイドライン(厚生労働省)
テレワーク相談センター(厚生労働省委託事業)
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