さらに大きくなる世界との飛距離差 

PRO V1

2000年に発売され圧倒的な支持を得たタイトリスト「PRO V1」ボール。ツアープロの平均飛距離を大きく伸ばす要因となった

2012年のマスターズは、レフティー(左打ち)のバッバ・ワトソン選手の初優勝となりました。

マスターズには、「レフティーは優勝できない」というジンクスが長くありましたが、2003年にマイク・ウェアが優勝してからは、10年でなんと5回がレフティー選手の優勝(そのうちフィル・ミケルソンが3回)。ジンクスは完全に過去のもののようです。

マスターズの舞台、オーガスタナショナルではドローヒッターが有利と言われています。それがレフティーだとより安定するフェードボールで狙うことが出来ます。中には16番のように左打ちだと難しいホールもありますが、難関の12番ホールをはじめとして、レフティ―の選手の方が有利にプレーできるホールは多いのです。

しかし、優勝したバッバ・ワトソンの強さの原動力は何と言ってもその飛距離でしょう。世界でも屈指のロングヒッターとして知られ、ドライバーショットはときに350ヤードを超えます。プレーオフでは、歴史に残る40ヤード近くも曲がる強烈なフックボールを放ちましたが、残り150ヤードで持ったクラブはウェッジです。

タイガー・ウッズが初優勝した97年、タイガーの飛距離は圧倒的なものでしたが、現在、タイガーは数多い飛ばし屋のひとりにすぎません。マスターズの出場選手のほとんどが300ヤードを軽々と超えるドライバーショットを安定して打ち、パー5はすべて2オン圏内です。ルーク・ドナルドのように飛距離は出なくとも精度とパッティングのうまさで頂点に立つ選手も存在しますが、それはむしろ例外。現在の世界のゴルフシーンでは飛距離は不可欠な要素になってきています。

石川遼プロがパーオン率やパット数などの他の要素と比べ、ドライバーの正確性が高くないのは、世界を見据えて飛距離アップに取り組んでいるさなかだからではないかと思えます。日本では飛ばし屋に入る遼プロも世界の舞台では、ごく平均的かそれ以下の飛距離。彼我の差は大きいと言わざるを得ません。



かつては、飛距離差が縮まったことも…

EZONE Type380

ヘッドの小型化が日本ツアーのトレンド。中には400ccを切るモデルも。(※写真はヨネックス「EZONE Type380」)

190cm前後の大男が群雄割拠する世界のゴルフ界。これだけの飛距離差が出てしまうのも仕方のないことかもしれません。しかし、以前はその飛距離差がぐっと縮まったことがありました。90年代の半ばから後半にかけてのことです。

当時、日本のツアーではジャンボ尾崎プロが圧倒的な強さを誇り、ジャンボ軍団と呼ばれる選手たちが毎週のように勝利を重ねていました。道具にも格別に造詣深い尾崎選手は、糸巻きバラタボール全盛の時代に、いち早く、より飛距離の出る2ピースボールの使用に踏み切りました。チタンドライバーの導入は他の選手よりも少し遅かったのですが、90年代の半ばから後半のこの時代、日本選手の多くがチタンドライバーと2ピースボールを使用し飛距離を伸ばしました。

そのころ世界ではまだステンレス製のメタルドライバーの時代。選手によっては、木材でつくられたパーシモンドライバーを使用していました。97年にタイガー・ウッズが優勝した時は、糸巻きバラタボールに、コブラのメタルドライバーです。世界の強豪選手と日本選手の飛距離差が小さくなったのもちょうどこの時期。2001年に伊澤利光選手がマスターズで4位になるなど、日本人選手の活躍も少なくなく、飛距離差を感じることも今ほどはありませんでした。

ところが、近年は事情が変わってきています。
世界のゴルフシーンでも400ccを超える大型のチタンドライバーを使用するプロが徐々に増え、完全に主流となりました。ボールにおいても、2000年に発売されたタイトリスト「PRO V1」をはじめ、ウレタンカバーを用いた飛距離性能の高いボールが登場し、糸巻きバラタボールを使用するプロは消滅。ツアーの平均飛距離は30ヤード近く伸び、現在も伸びています。

道具でのアドバンテージがなくなり、さらにフィットネスに取り組む選手が増えたことで、世界の選手の飛距離は驚異的に伸びてきているのです。2000年代半ばからは、日本選手と大きく飛距離に差が出るようになってきています。

一方、日本選手は、ヘッド体積の小さいものを好む傾向になっています。シャフトも短めで、どちらかというと飛距離アップよりも扱いやすさや正確性に重きを置いているようです。

ジャンボ尾崎選手のようなカリスマのいない今、日本では急激な道具の進化に対しての回帰現象が起こっているようにも見えます。ドライバーだけでなく、中尺・長尺パターなどにも言えることですが、現在は海外の選手の方が最新鋭のクラブを使いこなすことに積極的です。日本のゴルファーはむしろ保守的な傾向が強いように感じます。

こうした風潮を変えるのは、やはりカリスマ性をもったプロの存在。
かつて尾崎将司プロや丸山茂樹プロの使う道具を多くのゴルファーが真似したように、そんな役割を新しいスターに期待したいものです。

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