9月15日から開催された東京ゲームショウ2011を前に、14日のカンファレンスにてPlayStation Vita(以下PS Vita)の詳細が発表された。
今回わかった情報を元に、PS Vitaの「正体」はどのようなものなのか考えてみよう。

PS VitaはPSPの後継ハードではない?

本体写真

PSPのイメージを踏襲した、正統派後継機PS Vita

PS Vitaは、PlayStation Portable(以下PSP)の後継機種として12月17日に発売される、SCEI第二の携帯ゲーム機である。

特徴は進化した映像能力、豊富な入力方法、そして3G通信に対応したことだ。
これらはすべてライバル機であるDS、3DSのみでなく、スマートフォンまでもを凌駕するための戦略的なスペックである。

さて、PS VitaはPSPの後継ではあるが、コンセプトは明確に異なる。
その際たる点は、ディスクドライブを搭載しないということだ。

PSPでは専用メディアとなるUMDが採用され、ソフトの提供もUMDで行われてきた。
PlayStationStoreによるオンライン購入にも対応しており、2009年11月にはUMDドライブを排除したPSP goという本体も発売された(が、すでに発売は終了している)。

UMDは容量、セキュリティー上は優れていたが、携帯ゲーム機にとってディスクドライブの搭載は重荷と言える。消費電力の面でも大きさの面でも、制約の大きい携帯ゲーム機には向いていない。

そこで、PS Vitaは独自規格のカードメディアを採用した。
フラッシュメモリの低価格・大容量化によりディスクメディアに頼らなくてもすむようになったとも言えるだろう。
また、カード内にダウンロードコンテンツ、セーブデータを記録できる仕様になっているのもディスクには真似できない点だ。

PSPで可能だった「リモートプレイ」「torneとの連携」は対応するようだが、取り立てて強調する点ではない。ユーザーから見れば「できて当然」だからだ。
また、PSP版のソフトはダウンロード版に限り遊ぶことができる。この際、タイトルによっては右スティックが使用できる。
また、PS VitaとPSPのアドホックモードも対応する。

特筆すべきはもう一点。
PSPでは使用できたメモリースティックは今回採用されず、独自規格のメモリーカードが採用されている。
PS Vita内には記録できるスペースが実装されていないため、カード内に記録スペースが用意されていない場合、メモリカードを購入しなければならない。

その他音楽・映像ファイルなどもこの専用メモリが必須となる。
残念ながら、マルチメディアファイルの取り扱いに関しては使い勝手が悪くなるのは避けられないだろう。

どうもPS VitaはPSPの「ただの後継機」というわけでもなさそうだ。

さて、次ページ以降から映像能力、豊富な入力方法、3G通信対応の「正体」についても考えてみよう。



やっぱり綺麗な有機ELディスプレイ

ホーム画面

従来までのXMBとは違い、タッチパッド用に新設計されたUI。

PS Vitaの映像能力に関しては、その解像度のみならず、有機ELディスプレイも大きな役割を担っている。

ソニーは昔、世界初の有機ELテレビ「XEL-1」を発売しているが、その後国内市場から撤退している。当時ソニーが有機ELにかける意気込みはかなりのものがあったが、その思いがこういった形で結実しているのかも知れない。

有機ELディスプレイは応答速度、色再現性に優れる。屋外では視認性が落ちるが、液晶ディスプレイと同様の問題と言える。

色に関しては特に黒色の表現が素晴らしい。また、応答速度の良さはアクションゲームなどで効果を発揮するだろう。

携帯ゲーム機で初となる有機ELディスプレイの搭載は、3DSにおける裸眼3Dディスプレイの搭載に匹敵する英断となるかも知れない。

初代PSから「リッチな映像表現」に拘ってきた、その集大成のハードと言える。

そしておそらくこのディスプレイはゲームだけのものではなく、動画配信なども視野に入っていることだろう。

取りこぼしのない操作環境

前面タッチスクリーンのみならず、背面もマルチタッチに対応している。
さらにモーションセンサー、マイク、カメラの搭載。
現在スマートフォンに搭載されているすべての操作系に対応しており、さらにアナログスティックを左右に配置。
現在のゲームで、必要と思われるほぼすべての入力を網羅しているのがPS Vitaだ。

それでいて、ゲーム専用ハードとしてインプットには非常に気を使っている。スマートフォンのように操作性にジレンマを感じることはなさそうだ。

PSPはタッチスクリーンに対応しなかったことが他ハードとの最大の差別化になっていたが、PS Vitaは「取りこぼさないこと」が最大の目的になっているように思える。

「取りこぼさないこと」、それは3G通信の対応でも見て取れる。



3G通信に課せられた使命

『Near』

PS Vitaのサービス、『Near』。ネットワークと位置情報を使用したものだ。

PS Vitaは、携帯ゲーム機として初めて3G通信に対応する。
とは言っても全モデルで3G通信が可能になるわけではなく、3GモデルとWiFiモデルの併売という形を取る。
当然価格が異なり、3Gモデルは\29,980、Wifiモデルは\24,980となる。

3Gモデルは3G通信機能の他、GPSも搭載する。
GPSは位置情報を利用するゲーム「位置ゲー」には必須と言えるし、簡易ナビや撮影データに位置情報を付加したりと活用の幅は広い。

3GモデルのみにGPSが搭載されるというのは、実はソニー製ノートパソコンでは毎回のことである。
ソニーはWifi情報で現在位置を取得する「PlaceEngine」を積極的に採用しており、GPS無しでもある程度の位置情報サービスが利用できると予想される。

3G通信に課せられた使命は大きい。
まずは『モンスターハンターポータブル』のような協力・対戦プレイのできるゲームをどこでも遊べるようにすること。
WEBブラウザなど、スマートフォンで利用できるサービスを「取りこぼさないこと」。その為TwitterやSkype、Facebookにも対応予定とされる。

後はゲーム機で常時接続が可能になれば、というところだが。

不安が残るプリペイドプラン

3GモデルはNTTドコモの新しい時間制プラン「データ通信プリペイドプラン」に対応する。
プリペイドを採用したことで、本体を購入してすぐにネットワークに接続できるのが魅力と言える。

しかし時間制というのは少々厳しい。
イメージとしては電池のようなものを想像するとわかりやすいが、ネットに接続した分だけ残り時間が減っていく、というものだ。

ユーザー側から明示的に「接続するぞ」という時だけしか接続しないため、定期的にサーバーとアクセスして情報を取ってくるようなプッシュタイプのサービスが始めにくい。
帯域も128kbpsと狭く、時間分を使用しきると2週間以内に再チャージをしないと契約が切れる(再契約には\2,100が必要)など、サービス内容は若干厳しいものだ。
当初はSIMロックありということで、常時接続はNTTドコモの定額プランしか選択肢はない。

SCEIにとって、ゲーム機の複数ラインアップというのは避けたいところだ。

初期のPS3で混乱を招いたように、ユーザーの選択肢が多いということは必ずしも良いことではない。
今回は3Gモデルの選択肢をあえて絞り、分かりやすさを優先したということだろう。



PS Vitaは取りこぼさないハード

リモートプレイ

『リモートプレイ』『torne』との連携など、PSPの機能の多くは継承している。

映像、操作性、通信…。
PS Vitaは、それぞれについて現在の携帯端末にできることは全て可能にしようという意図が見て取れる。
持ち運べるAVセンターと言う意味では、PSPの純粋な後継機と言えるかも知れない。

だが、スマートフォンの台頭により手を広げる範囲がより大きくなった。
電子書籍も、動画配信も、音楽配信も…。
網羅するべきコンテンツが多くなり、PS Vitaに課せられた役割も大きくなってきている。

おまけに、据え置き機より手軽なハードとしてPSPの注目度も高まり、その後継ハードとしてメーカー側からの期待も高い。

PS Vitaは従来のSCEIハードのように、贅沢な専用チップを採用したハードではない。汎用チップで構成された、ある意味では凡庸なハードである。
それはどの要素も取りこぼさないという貪欲さから生まれた凡庸さと言える。

しかし、少しだけ注意したい点がある。

当初は市販のメモリカードが利用できると発表されていたが、実際に採用されたのは専用メモリカードだった。
4GBで\2,200、32GBで\9,500という定価は有名ブランドの高価なSDカードと比較して特別高いわけではないが、安価なものと比較すると相当に高い。

専用カードの採用理由はセキュリティーとのこと。確かにダウンロード販売も念頭に入れればセキュリティーは大事だろう。しかし従来のユーザーはダウンロードで購入してもメモリカード代をあまり考慮していなかった。
安価なメモリを選択するという余地があったからだ。

しかし4GBを使用するのに\2,200かかると思えば、その分ダウンロード版が安価にならなければ辻褄が合わなくなってくる。必ずその分のコストがメモリカードに乗るからである。

しかも、セキュリティー云々を言う割に、ソニーのウォークマンなどで採用されてきたATRACには対応しないことがわかっている。
なんともチグハグな話だ。

PS Vitaの正体は「何でもできる貪欲ハード」。
しかし同時に、PS Vitaでないといけないという大きな利点を見つけにくいハードでもある。
『モンスターハンター』最新作が3DSで発売されることが発表されたのも、逆説的ではあるがその問題を浮き彫りにしている。

そして、その万能さが専用カードで損なわれることが、大きな綻びになりはしないだろうか。
何でもできるが不便なハード…。
そうではなく、不便ではあるが○○のできるハード、というコアコンピタンスが今最もPS Vitaに求められている。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。