3.妻帰宅直後の行動
このシーンに、子世帯妻が帰ってきたとき、家の中で家族はどのように動くでしょうか。想像してみましょう。小1の男の子は玄関まで走って迎えに出ます。小4の女の子はまず買ってきてもらったマヨネーズを受け取りにいくでしょう。玄関ホールからダイニングにつながる動線上にあるクローゼットは脱いだコート、バッグの置き場となり、ここで妻は上着を脱いでエプロンをつけ、まずキッチンに向かいます。ここで2階に着替えに行く、というストーリーもありますが、その分夕食が遅くなってしまうので、まず夕食準備優先、となってしまうのが共働き主婦の現実ではないかと思います。
そのためには、子世帯の収納は2階、という固定観念にとらわれず、1階に子世帯家族のロッカーのような収納を造ると便利なのではないでしょうか。
図3:想定するプラン
融合二世帯で玄関1つ、1階のLDは親子両世帯の食事の場となる。妻の帰宅時にすることを考えながらプラン上で動線を描いてみる。想定したことがうまくできない場合、プランを再検討する。
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4.家事のバトンタッチ
エプロン姿でキッチンに入った妻は、から揚げを揚げるのを母からバトンタッチで任され、これまでの夕食準備の段取りをわかっている母が孫たちに手伝わせながら準備を進めます。小1の男の子は食器を出して運び、小4の女の子が食卓にお皿を並べていきます。から揚げが揚げ終わると妻はそれを小4の女の子に渡し、お皿に盛り付けるよう頼みます。このように同じ家事協力であっても、作業の途中でバトンタッチができるのは娘夫婦同居に多いように思えます。元々家事のやり方が似ている母娘の関係であれば、作業途中で代わってもスムーズに家事が進んでいきます。反対に息子夫婦同居の嫁姑の関係の場合はおかずの品ごとに分担してつくり、最後に盛り合わせる、というような作業分担型が多いように感じます。こうすれば自分の料理の流儀で段取りを進めることができ、バラエティに富んだ品数が揃うからです。その中でお互いに相手のやり方を学ぶこともできると思います。
このように、リアルに協力のシーンを想像することで、家族の協力関係や、キッチンや食器棚の使いやすいレイアウトが見えてくることがあります。特に複数の人が使うキッチンでは、建ててからの見込み違いを防ぐためにも、このようなくらしシュミレーションが有効だと思います。
5.妻はいつ着替えるのか
から揚げが終わるまで、子世帯妻はエプロンをしただけで仕事の服のままでした。このままで食べ始める、というシーンもあると思いますが、食べ始める前に着替えるために2階に上がる、というのが多いでしょう。ここで持ち場を離れても、食事の準備は進んでいきますし、着替えることができれば気分もリセットされて食事を楽しむことができます。2階に上がる階段はダイニングを出てすぐのところにあり、洗濯機や洗面所も2階のクローゼットに行く途中にあります。また、2階の洗濯機置き場回りは室内干し場や衣類の収納が集中したランドリーセンターになっており、洗濯が終わったものはここに置かれていることにしてあります。着替えを取って、クローゼットで着替えたら、洗濯物は洗濯機に入れておく、というように動線上にあることで動きがスムーズになっています。
また、ここに居るときも吹き抜けを通じて1階のLDの様子がわかるようになっています。いよいよ食べ始める、という瞬間まで子世帯妻は2階に居続けることができるでしょう。
図4:2階のプラン
1階に通じる階段脇に吹き抜けがあり、2階に居ても1階の気配がわかる。中央のランドリーセンターには洗濯機のほか、洗面台と衣類の収納があり、室内干しコーナーとも近い。子世帯には専用のDKがあり、親世帯と時間のずれた食事にも対応できるようになっている。
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この忙しい時間帯のゴールは「いただきます」と食べ始める瞬間です。言葉で書けば帰宅して夕食をとる、というだけのシーンなのですが、その中で様々な家族の行動があり、間取りを造る上でのアイデアもたくさん隠れています。くらしをシミュレーションしてみると以上のようにそれらのアイデアが浮かび上がってくるのがお分かり頂けたのではないでしょうか。