なんでラストストーリーはWiiで発売されるのか

ラストストーリーの図

敵の注目を自分に集めるギャザリングなど、新しい形のRPGを目指したラストストーリー。

ファイナルファンタジー(以下FF)シリーズの生みの親、坂口 博信氏が手がけるWii用新作RPG、ラストストーリーが2011年1月27日に発売されました。Wiiでは比較的少ないRPGの大作ということで大きな期待が寄せられていますが、一方、Twitterなど、インターネット上のユーザーさんの反応には、PlayStation3(以下PS3)での発売を期待する声というのがしばしば見られるようです。中には、何故こういったRPGの大作をWiiで出さなければいけないのか、というような意見も。

しかし、ラストストーリーがPS3で発売される可能性は、限りなくゼロに近いと思われます。ゲーム業界では、ラストストーリーがPS3で発売されるわけがない、そんなことは当たり前だと、ほとんどの人がそう思います。また業界の人間でなくても、ゲーム業界に詳しいコアユーザーさんであれば、同じように思うでしょう。

しかし、FFと結び付きの強い坂口氏がRPGの新作を出すとなれば、今、FFシリーズ本編はPS3で発売されているわけですから、ラストストーリーもPS3で出るかもと思う人がいるのは当然かもしれません。自分はPS3しかもっていないから、PS3で発売されたら買いたい、というのはお客さんとしては極めて普通の発想ですよね。

それに、何故ラストストーリーがPS3では発売されないのか、そこにまつわるゲーム業界の構造、ゲームを作る人と売る人の関係について、きちんと説明された機会というのは、あまり多くないかもしれません。というわけで今回は、ラストストーリーがPS3で発売されない理由と、ゲーム業界の構造について、お話してみたいと思います。

ラストストーリーは任天堂が作っていない任天堂のゲーム

NewスーパーマリオブラザーズWiiの図

NewスーパーマリオブラザーズWiiは、任天堂が作った、任天堂のゲーム。でも、そうじゃないタイトルもあるんです。

先に答えを言ってしまいますと、ラストストーリーがPS3で発売されない理由はシンプルで、任天堂のゲームだからです。マリオシリーズやゼルダの伝説シリーズ、nintendogsやどうぶつの森シリーズがPS3用のソフトとして発売されないのと同じなんですね。

任天堂は、WiiやニンテンドーDSを発売しているハードメーカーですから、基本的に他所のゲームハードにソフトを供給することはありません。

ただ、少しややこしいのが、例えばNewスーパーマリオブラザーズや、Wiiスポーツは、任天堂が作った任天堂のゲームなんですが、ラストストーリーは、任天堂が作っていません。開発したのは、坂口氏率いるミストウォーカーと、AQインタラクティブという開発会社です。

えっ、任天堂のゲームなのに任天堂が作ってないの? と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。しかし、任天堂じゃないメーカーが作っている任天堂のソフトというのは、意外とたくさんあるんです。

スマブラもマリオパーティーも任天堂が作っていない

大乱闘スマッシュブラザーズXの図

任天堂のキャラクターが勢ぞろいするスマブラも、任天堂は作っていません。

例えば、任天堂のキャラクターがこれでもかと登場する任天堂のお祭り的ゲーム、大乱闘スマッシュブラザーズXは、スマッシュブラザーズシリーズの生みの親である桜井 政博氏の会社であるソラと、ゲームアーツというメーカーが開発しています。

また、任天堂の看板であるマリオを冠するパーティーゲーム、マリオパーティシリーズは、ハドソンなどが開発しています。他にも、2010年9月に発売されたメトロイドシリーズ最新作のメトロイド アザーエムはコーエーテクモゲームスが開発を担当していますね。

こうしてみると、えっ、あれって任天堂が作ってないんだ、っていうゲームもあるんじゃないでしょうか。ここで全てをご紹介することはできませんが、まだまだ任天堂が作っていない任天堂のゲームはたくさんあります。

任天堂のゲームなのに任天堂が作っていない、というと、何かおかしいような気もするかもしれませんが、ゲームを発売する企業と、開発する企業が違うケースというのはよくあることで、何も任天堂だけがやっているわけではありません。有名なところでは、スクウェア・エニックスの看板タイトル、ドラゴンクエストシリーズは、今まで、チュンソフト、ハートビート、レベルファイブなど、様々なメーカーが開発を担当しています。

パブリッシャーとデベロッパー

レイトン教授の図

レベルファイブはもともとデベロッパーしかしていませんでしたが、レイトン教授シリーズで、パブリッシャーに参入しました。

ゲーム業界では、ゲームを売る役割の企業をパブリッシャー、ゲームを作る役割の企業をデベロッパーと言いますが、そもそも、パブリッシャーとデベロッパーでは、全く必要な機能が違うんですね。デベロッパーというと、大雑把にいえばゲーム開発者と呼ばれる技術者がいて、開発機材があって、ゲームの中身を作っていくわけですが、それだけではゲームは作れたとしても、ゲームを発売することはできません。

ゲームのパブリッシャーをやるには、例えばゲームをお店に売る手段、流通の確保、そしてお店にたくさん仕入れてもらう為の営業が必要ですよね。それから、ゲームを雑誌やテレビ、Webサイトなどのメディアに紹介する広報、何か不具合があった時のユーザーをサポートする窓口も、パブリッシャーには必要です。

それに、非常に重要なのは商品を作ることです。ゲームというのは中身の開発だけをしても、商品にはなりません。ゲームのデータをディスクなりカードなりのメディアに入れて、説明書があってパッケージがあって、それらを、アッセンブルなんて言い方をしますが1つに梱包して、それでもってやっと商品と呼ばれるものができあがりますから、その手配をしなければいけません。当然、モノを作れば在庫リスクも発生していきます。また、開発費も、基本的にはパブリッシャーが負担します。

というと、ゲーム業界には、デベロッパーはできるけど、パブリッシャーはできないという企業もたくさんあるんですね。技術力はあるけど、資金がなくてリスクが負えないという場合でも、どこかがパブリッシャーとして手を挙げてくれれば、ゲームの開発をすることができます。そして、ラストストーリーのパブリッシャーは任天堂であり、だから任天堂のハードで発売されると、こういうわけです。

ただし、冒頭、ラストストーリーがPS3で発売される可能性は、限りなくゼロに近いと申し上げました。そう、ゼロではないんです。最後に、パブリッシャーを変えることで色んなハードに展開したゲームの例もご紹介してみたいと思います。

可能性はゼロではないが、限りなくゼロに近い

カルドセプトの図

セガから発売しているカルドセプトには、ヘッジホッグというカードが、PlayStationシリーズではバンディクート、そして、DS版にはパイロマンサーという、赤い帽子で手にはファイアボールなんて、誰かを連想させるカードが登場したりします。

さて、最初の話題に戻りますと、ラストストーリーがPS3で発売される可能性は、限りなくゼロに近いのですが、ゼロではないかもしれません。実は、同じシリーズでも、パブリッシャーを変えながら、ハードを渡り歩いているタイトルというのもあるんですね。

大宮ソフトというところが開発しているカルドセプトシリーズは、セガやメディアファクトリー、バンダイナムコゲームスなど、同シリーズでもパブリッシャーを変えながら、セガサターンやPlayStationをはじめとし、Xbox 360やニンテンドーDSなど、様々なメーカーのハードで発売されています。

ポイントは、最初に発売されたカルドセプトが、当時ハードメーカーだったセガからセガサターンのタイトルとして発売されているということです。そしてその後、パブリッシャーをメディアファクトリーに変更して、PlayStationのタイトルとしてリリースされています。当時のセガサターンとPlayStationは、今のWiiとPS3と同じような、あるいはそれ以上に熾烈なライバル関係にありました。そういう意味では、ラストストーリーも、パブリッシャーを変えれば、という可能性が無いと言いきれるわけではありません。

ただし、ラストストーリーは、任天堂が自社開発のブランドでは弱いRPGの分野を強化していく施策の1つとして、坂口氏による新作RPGを発売した、そういう位置づけをもったタイトルであると考えられます。じゃあ、そのWiiのRPGを強化するタイトルを、他のプラットフォーム、他のパブリッシャーでも発売してしまったら、任天堂は何をやっているか良く分からなくなってしまいます。この流れを考えると、ある程度拘束力のある契約をデベロッパーと結んでいると考えるのが妥当でしょう。なので、PS3への移植は、限りなくゼロに近い、ということなんですね。

ゲームのパブリッシャーとデベロッパーのお話、いかがだったでしょうか。あのゲーム、自分の持ってるハードでも発売されないかな、という時や、今度のシリーズ新作は面白いかな、何ていう時は、パブリッシャーやデベロッパーをチェックして、何故そのデベロッパーが開発し、パブリッシャーが発売するのか、考えてみるものいいかもしれませんね。

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