メンタルヘルス/(読み物) 文化依存症候群・地域特有の病気

アモック(東南アジア):無差別殺傷などの暴力衝動(2ページ目)

心の病気の中には、その人の属する社会、文化の影響が大きい、文化依存症候群というグループに属するものがありますが、東南アジアで見られたアモックはその代表的なものです。

中嶋 泰憲

執筆者:中嶋 泰憲

医師 / メンタルヘルスガイド

どうしてアモックは起きるのか?

アモックの特徴を以下に整理してみます。

・男性にほとんど限られる
・アモックを起こす前に、辛かったり、体面を失うような出来事がある
・アモックを起こす直前は、周囲から引きこもり、うつ状態になる事が多い
・アモックは自殺または、周りの人から取り押さえられて、終了する。本人が殺されることによって、アモックが終わることもしばしばである
・取り押さえられてアモックが終わった場合、虚脱状態になり、後で正常にもどった時、アモックが起きていた時の記憶が失われている事が多い

精神医学的にアモックを考察すると、辛かったり、体面を失うような出来事に対して、反応的に心が解離してしまい、激しい暴力衝動が生じてしまったといったような説明が成り立つと思いますが、アモックが起きてしまう背景には、社会、文化的な何があるのでしょう?

それには幾つかの説があります。「アモックが起きていた当時の部族社会では、悪霊の存在が信じられていて、その悪霊が乗り移って、アモックが起きる。」「子供に非常に寛大であるが、大人は厳格な規律を守るように求められる、当時の社会では、大人になった若者が、社会に窒息感を覚え、暴力への衝動が生まれる。」「アモックになった本人は命を失うことが多いので、自殺に関して寛容でない部族社会における、一種の自殺である。」

とにかく、アモックが起きていた当時の部族社会では、“男はアモックする程、切れてしまうことがある”といったような空気が流れていたのではないでしょうか。家族が亡くなった、社会的地位を失った、妻が不倫したといったような辛いことが起きた時、こうした社会の空気を吸って生きてきた人は、アモックを起こす事があるのでしょう。

しかし、社会が近代化されると、アモックは減少し、現在では、ほとんどなくなりました。かえって、いち早く近代化した欧米諸国、日本などで、アモックのように、無差別に人々を殺傷する事件が、増加しているように思われます。私たちの社会、文化の中にアモック的な暴力衝動を引き起こす何かが生じてきてはいないでしょうか? 深く考えるべき問題かも知れません。


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