犬は人間が自分たちの生活に取り入れた動物です。もはや自由に生きられる犬というのは限られており、多くが人間とともに暮らしています。私たちと暮らしてもらう以上、一緒に生活する上で、お互いに困らない程度のルールを覚えてもらう必要があります。それが、「しつけ」です。


基本のしつけ・トレーニング

子犬

子犬にとって大事な「社会化」はしつけのベースになるもの:(c)GYRO PHOTOGRAPHY/a.collectionRF/amanaimages


しつけは、いわゆるトリック・芸の類いとは違います。犬と飼い主、お互いが少しでも楽に生活できるようにということの他、しつけには犬自身の安全を守るという意味もあります。むしろ、その意味合いのほうが強いでしょう。

では、基本のしつけ(ベーシック・トレーニング)にはどんなものがあるのでしょうか。

大きくは、2つに分けることができると思います。1つには、体のどこを触っても大丈夫なように慣らす、いろいろな音や物などに慣らすといった「社会化」の意味合いが強いものもしつけとして含め、トイレトレーニングや甘噛みの制御、「ノー・イケナイ」(甘噛みの制御に連動して)、噛んでもいいものを教えるなど、生活上、直接的に必要となるもの。

もう1つは、「スワレ」「フセ」「オイデ」など、一歩進んだ生活上のルール。ここでは仮に、前者を第1ステップ、後者を第2ステップとします。

第2ステップでは、主に、次のようなコマンドは覚えさせておきたいものです。
  • スワレ 
  • フセ 
  • マテ 
  • オイデ 
  • ツイテ
特に「スワレ」や「フセ」は、犬が次のアクションを起こすまでには少々間があることから、興奮したり、落ち着かない時など、気持ちを少しクールダウンさせる効果も期待できます。

また、交通量の多い道を横断する時や幼い子どもと接する時など、「スワレ」「マテ」をさせることで、犬自身の安全を守ったり、子どもに飛びつくといった無用のトラブルを避けたりするにも有効です。

「ツイテ」ができるなら、人込みの多い場所を歩くのも楽になるでしょうし、歩道のない道を歩くにもより安全です。

この他、「吠えても“ヤメ”の一言でやめられる」「勝手に食べ物を食べない」「人に飛びつかない」「台所には入らない」など、各ご家庭で必要なものを教えるといいでしょう。

この記事では、主に第2ステップについて記したいと思います。


しつけを始めるタイミング

犬にはしつけが必要とわかってはいても、いったいいつ頃から始めればいいの?と悩む人も多いのではないでしょうか。

特にトイレトレーニングに関しては生理的なことであることから、子犬を迎えたその日から始まるとお考えください。

その他第1ステップは子犬がやって来たその日から始められれば理想的ではありますが、新しい環境に慣れるまで1~2週間の時間は要しますし、子犬は環境が変わったことで体調を崩しやすくもあるので、まずは環境に慣らすことを優先したほうがいいでしょう。

なお、甘噛みの抑制については、生後4ヶ月半頃までに完了できていることが望ましいとされます。

<参考記事>
犬のトイレのしつけ方と、覚えておくべきポイント
我が家のトイレトレーニング事情

第2ステップの中でも「スワレ」「フセ」「マテ」などは、生後3~4ヶ月頃から始めることも可能ではありますが、先にも述べたように新しい環境に慣れないうちには体調的にも不安定になることがあるので、十分環境に慣れてから本格的に始めるほうがいいのではないでしょうか。

社会化適期のピークとされる生後12週齢を過ぎると、それまで好奇心たっぷりだった子犬は徐々に警戒心や攻撃性も芽生えてきます。また、生後6~9ヶ月頃には反抗的な態度をとるようになることもあると言われますし、2~3歳になるとその犬の行動や気質が安定(定着)する傾向にあるとも言われます。

よって、しつけはなるべく早いうちに始めるほうが身につきやすく、少なくとも2~3歳までには完了するのが理想的ということになります。しかし、それを過ぎればしつけができない、ものを覚えないということでは決してありません。

犬は学習する動物です。なかなか直らない癖もあるかもしれませんし、年齢がいった分、根気も必要になりますが、何歳になっても新しい物事を覚えることは可能です。


コマンドは1つに統一する

コマンドについては、「スワレ」の代わりに英語の「sit」でもいいですし、「オイデ」の代わりに「来い」や「come」など、言いやすく、かつ、犬も聞きとりやすい言葉を1つ決めて使うようにしてください。

たとえば、パパは「来い」、ママは「オイデ」、子どもは「come」といったふうにバラバラの言葉を使用していると、犬が混乱してしまうので、コマンドとなる言葉は1つに統一するようにします。


ものを教える時には1つずつ

新しい物事(コマンド)を教える時には、一度にあれこれ教えてしまうと犬も混乱します。なるべくスムーズに覚えてくれるよう、そして混乱しないよう、1つがマスターできたら次のものというふうに、少しずつ段階をおって教えるようにしましょう。


褒めるタイミングは行動の1~2秒後

上手にできたときや望ましい行動がとれたときには、十分に褒めるようにします。実は、この褒めるタイミングも1つのキーポイントで、望ましい行動をした後、1~2秒以内に褒めると犬の脳にもインプットされやすいので、可能な限り短時間のうちに褒めてあげてください。


褒め方にも一工夫

飼育本などには「大げさなくらい褒めましょう」などとよく書かれてありますが、褒め方にもいくつかパターンがあります。

たとえば、もともとテンションが上がりやすいタイプで、褒められたことが嬉しくて、気分がハイテンションになり過ぎ、興奮してしまうような子には、大げさに褒め過ぎるとどんどんテンションが上がってしまうことになります。

逆に落ち着きがなくなってしまい、トレーニングに支障をきたすかもしれません。そのような子の場合には、声のトーンを少し落とし、首や背中をゆっくり撫でながら、「いい子だねぇ」「グーッド」など落ち着いた口調で褒めてあげたほうがいいでしょう。

一方、気分がいまひとつ乗らないようなときや、元気を出させたいときには、声のトーンを高くし、自分も楽しそうに「いい子だねぇ」と褒めてあげながら、体を軽くポンポンと叩くようにすると、犬にも活気がわきやすくなります。


「褒める」と「叱る」を上手に使い分ける

近年は叱らずに褒めてしつけをするスタイルが主流になっていますが、健康を害したり、危険がある場合など、どうしても止めて欲しいというものもあり、時と場合によっては叱ることも必要なことがあるでしょう。

叱る時の注意点は、”怒って”はいけないということ。叱るのと怒るのとでは意味が違います。叱るというのは、「その行動は間違ってるよ」という合図を送ること。感情のままに怒ってしまってはいけません。それでは犬が萎縮してしまうのに加え、余計なトラウマをつくってしまうことにもなります。

叱る時には「イケナイ」「ノー」「ダメ」などのコマンドを的確に使い、犬がいけない行動をやめ、望ましい行動をとったなら、十分に褒めてあげます。


犬が集中できる時間は15分程度

何かを教えようと思った時、犬がトレーニングに集中できる時間は15分程度です。それ以上長くだらだらと続けてしまうと犬が疲れてしまい、覚えられるものも覚えられないということになってしまうため、1回のトレーニングはなるべく短い時間で切り上げ、その後は遊んだりして休憩を入れてあげてください。


アイコンタクトを教える

アイコンタクト

アイコンタクトはしつけの基本:(c)Tetsu/a.collectionRF/amanaimages


スワレやフセなどを教える前に、まず教えておきたいのがアイコンタクトです。簡単に言うなら、飼い主と犬とか目と目を合わせ、犬が飼い主に集中できている状態、と言ったらいいでしょうか。これができることで、トレーニングもスムーズにいきやすくなりますし、何より意志の疎通もはかりやすくなります。

  1. 最初は部屋の中など落ち着いた場所で、犬と向かい合います。この段階では、座って姿勢を低くしたほうが反応しやすいでしょう。その子が好きなおもちゃやおやつを手に持ち、名前を呼びながら、その手を自分の顎の下あたりに持っていきます。
     
  2. 犬と目が合ったなら、すかさずご褒美を与え、十分に褒めてあげましょう。
     
  3. 室内でできるようになったら、散歩の時など外でも練習してみます。最終的に、おもちゃやおやつがなくても名前を呼んだだけでアイコンタクトがとれるようにしていきます。



スワレを教える

スワレ

いろいろなシーンで活用できる「スワレ」。写真のように犬が飼い主に注目できているとベスト:(c)BBM


次にスワレを教えてみましょう。スワレの教え方にはいくつかありますが、ここではおもちゃやおやつを使って教えてみます。

  1. 小型犬であれば座って姿勢を低くし、大きな子であれば立ったままでもかまいません。その子が好きなおもちゃやおやつを手に持ち、「スワレ」と言いながら、その手を犬の鼻先にかざして、そのまま手を犬の背中の方へ少し移動させます。
     
  2. 犬の顔がそれにつられて上方に向き、自然と腰を落とします。スワレの形になったら、ご褒美を与え、思い切り褒めてあげましょう。
     
  3. 家でできるようになったら、外でも練習を。いろいろな誘惑物があっても、ちゃんとコマンドに反応できるように練習していきます。


フセを教える

フセ

フセは犬に無理強いをすると犬が嫌がるポーズ。自然にフセのポーズができるように誘導しよう:(c)PRESS AND ARTS/a.collectionRF/amanaimages

 
フセはスワレよりも、犬が落ち着いていられる体勢です。ドッグカフェなどに連れて行く時には、フセをして待っていられるようなら理想的でしょう。スワレに比べて教えるのに少々根気がいるかもしれませんが。

  1. スワレの姿勢をさせ、犬と向き合います。手におもちゃやおやつを持ち、「フセ」と言いながら、その手を犬の鼻先から床に向けて下げていきます(犬の前脚の間に)。
     
  2. 最初は完璧なフセの姿勢でなくでもかまいません。フセの形になったらご褒美をあげ、十分に褒めてあげましょう。
     
  3. フセのポーズをとりにくい場合は、おもちゃやおやつを持った手を、やや犬の胸の方へ下ろすとフセの姿勢がとりやすくなります。
     
  4. 上記の方法でうまくいかない場合は、床に座り、脚をくの字に曲げます。膝の右側、もしくは左側に犬を座らせ、「フセ」と言いながら、反対の手におもちゃやおやつを持って、曲げた膝の下をくぐるように誘導。膝の下でフセに近い形になると思いますので、その時にすかさずご褒美をあげ、褒めてあげます。
     
  5. フセは、無理に教えると犬が嫌がるものです。なるべく体を押さえつけたりしないよう、自分から進んでフセのポーズがとれるように誘導しましょう。スワレと同じく、家の中でできるようになったら、外でも練習をしてみます。



マテを教える

マテ

盗み食い防止にも「マテ」を活用。:(c)daj/amanaimages


マテができると、玄関や車のドアからの飛び出し防止など、安全面でも役に立ちます。

  1. 犬にリードを付けた状態で、スワレをさせます。手の平を犬に向かってかざし、犬と対面したまま、「マテ」と言いながら、少しずつ犬から離れていきます。
     
  2. 犬が動きそうになったら、「マテ」とコマンドをかけ直します。
     
  3. リードの長さいっぱいくらいに下がったなら、そのまましばらく犬の様子を見ます。その間も動かずに座ったままでいたらベスト。
     
  4. もし、犬が自分のほうへ歩いてきてしまった場合には、そこでもう一度座らせるのではなく、さっき座っていた場所へ戻して、もう一度スワレをさせます。歩いてきてしまったその場所で座らせると、犬は待っていずに、歩いて来てしまっていいんだと思ってしまいます。
     
  5. 犬が動かずにずっと座ったまま待っているようでしたら、犬のもとへ戻り、ご褒美をあげたりして、たくさん褒めてあげます。動かずに、そこで待っていたことがいいことなんだよと教えてあげましょう。
     
  6. 慣れてきたなら、フセをしてマテ、立ったままマテなど、いろいろ練習してみてください。


オイデを教える

オイデ

「オイデ」の一言で、愛犬が嬉しそうに戻って来てくれたら飼い主冥利に尽きるのでは?:(c)officek/a.collectionRF/amanaimages


マテができるようになったら、次にオイデを教えてみましょう。

  1. リードを付けた状態で、犬にスワレ&マテをさせます。
     
  2. 対面したまま、少しずつ離れていき、犬の様子を見ます。ちゃんと待っていられるようなら、しばらく間をおき、お気に入りのおもちゃやおやつを見せながら、「オイデ」と言って犬を呼び寄せます。この時、自分も少し後ろへ下がるように(犬を引き込むように)すると犬が来やすくなります。
     
  3. 犬が喜んで来たなら、そのまま飛びついたりさせず、スワレをさせて少しクールダウン。そして、十分に褒めてあげましょう。



ツイテを教える

ツイテ

「ツイテ」ができると人通りや交通量の多い場所では無用なトラブルを避けることができる他、犬の安全を守ることにもつながる。日本の交通事情から、「右にツイテ」「左にツイテ」もできると理想的:(c)Doable/a.collectionRF/amanaimages


ツイテを覚えると、人通りや交通量の多い場所など、より安全に歩くことができます。

  1. リードを付け、犬を自分の横に付くように誘導します。この時、犬を自分の後ろから左側(または右側)に付くように誘導するといいでしょう。
     
  2. お気に入りのおもちゃやおやつを犬の鼻先にかざして、「ツイテ」と言いながら自分の左腿(または右腿)のあたりをポンポンと叩いて合図を送り、一歩ずつ歩いてみます。
     
  3. 犬が止まってしまうようなら、無理にリードを引っ張ったりせず、おもちゃなどで少しずつ誘導してみましょう。
     
  4. 慣れてきたら、散歩中にも練習してみます。犬が何かに気をとられて離れそうになったら、すかさず「ツイテ」とコマンドを出し、おもちゃなどで誘導します。右回り、左回りなど、いろいろな歩き方をして練習してみましょう。

リードするのは飼い主

最後に一言。しつけをする際には、犬の言いなりになってはいけません。あくまでもリードするのは飼い主です。言うことをきかないからそのままにしている、可哀想だからしつけはいらないなどと、甘えさせてばかりいると、結局はわがままで手に負えないコになってしまう可能性大です。飼い主としての立場をしっかり意識しましょう。

また、飼い主の態度はそのまま犬に反映されます。厳しい態度でしつけられた犬は、目も緊張気味で、どこかおどおどしているように感じます。それに対して、おおらかな態度でしつけられた犬は、目も態度も生き生きしているように思います。時々は犬の様子を観察して、飼い主である自分自身の態度はどうなのか?と考えてみることも必要ではないでしょうか。

しつけは、「やらなければ」と力む必要もありませんし、義務感にかられてやるものでもありません。それではきっと疲れてしまうことでしょう。犬の遊びの間に3分間だけしつけの時間を入れてみるなど、ゲーム感覚で楽しくしつけができたら理想的ですね。

こうした基本的なしつけは、日常のあらゆるシーンで活用できます。来客があった時にも玄関で座らせて待たせる、散歩で他の犬と出会った時にも、座らせて他の犬が通り過ぎるのを待つなど、犬をより落ち着かせることもできるので、是非、気負わずに、犬と楽しむつもりでトレーニングにトライしてみてください。
※記事内容は執筆時点のものです。最新の内容をご確認ください。
※ペットは、種類や体格(体重、サイズ、成長)などにより個体差があります。記事内容は全ての個体へ一様に当てはまるわけではありません。