猫に噛まれても指を引かないでください
猫に噛まれても指を引かないでください
初めて猫を飼った人が最初に悩むことのひとつが、猫が噛んだりひっかいたりすることではないでしょうか。ここではなぜ猫が噛んだりひっかいたりするのか、噛まれたりひっかかれたときにはどんな対応をすればよいか。またその被害を少なくするためには、どのようにしつければよいかをご紹介します。


猫が噛む、ひっかくのは当たり前

もともとは狩猟動物で、非常に有能なネズミハンターの猫。人と深く結びつく生活の中で、現在のイエネコはネズミを捕食する環境が少なくなってきました。しかし、猫の狩猟本能は依然として残っていて、それを遊びの中で満足させようとします。猫は本能を刺激する動きや音や臭いを感じると、空腹でなくても獲物を狙う動作をします。このときの獲物は自分の食料ではなく、狩猟衝動から起こる遊びのターゲットです。ターゲットを狙う猫は身体を低くかがめ、お尻を少し持ち上げてシッポの先端を動かし、足踏みしながら襲いかかるチャンスを待ちます。「今だ!」と思ったタイミングで猫はターゲットに飛びかかり、前脚で抱え込み噛みつきます。後ろ脚を使って猫キックをしたり、前脚や口でマリのように高く放り投げたり、猫は様々な動きでターゲットをおもちゃにして遊びながら狩猟本能を満足させます。

お腹が空いていなくても、本能を刺激されると飛びかかっていくのが猫。そう考えると、猫が噛んだりひっかいたりするのは、ある意味当たり前の行動なのです。しかし、猫に慣れていない人は、猫が遊びの延長で軽く噛んでも「噛まれた!」と大騒ぎしがちです。猫の牙や爪を恐れるあまり、噛まれることに過敏に反応すると、猫は噛むと自分の思い通りになると思ってしまうことがあります。結果、猫主導型の生活を強いられることにもなりかねません。どの程度に噛んだのか、噛んだ状況と意味を冷静に判断し、それにあう対応をすることが大切です。


遊びの噛む、ひっかくとは?

子猫の目は5日~10日前後で開いていきますが、動くものを目で追うことができるようになるのは生後3~4週頃からです。足元がおぼつかない頃から、お母さん猫の揺れるシッポにじゃれつき、遊びながら動くものに素早く反応することを学んでいきます。兄弟猫がいれば、子猫たちは追っかけっこをし、飛びかかり、前脚で抱え込んで後ろ脚で猫キックして噛みつき合います。興奮しすぎて本気で噛み合い痛い思いをすると、一方は大きな声で悲鳴(抗議)をあげたり、またはもっと強く噛み返すという攻撃と防御のやりとりをする中で、仲間同士の限度=甘噛みという加減を体得していきます。

猫に噛まれたら指を上あごに押しつけます
猫に噛まれたら指を上あごに押しつけます
子猫同士の遊びは狩りの本能を満足させ、その能力を磨くと同時に、猫の社会性や性行動の勉強にもなっていて、猫の身体的や精神的の正常な成長に必要です。こうした理由から、可能であれば新しく迎え入れる子猫は最低生後2~3ヶ月まで、親兄弟との生活を経験してからの方が望ましいです。もし幼いうちにひとりぼっちになった猫は、そのような社会勉強の基礎ができていませんから、噛む加減を知りません。

飼い始めた子猫が本気で噛みついてくるようでしたら、あなたがその子猫の親や兄弟になったつもりで、子猫と遊びながら教育する(しつけをつける)必要があります。猫をしつける時の叱り方については、「愛猫のしつけの基本」にも書いた通り、決して体罰などを与えてはいけません。猫の性質によっては、軽い鼻ピンなどが効果的な場合もありますが、基本的に人間の手を使った体罰は避けるべきです。



子猫に噛まれたときの対応

甘噛みでも子猫の歯は針のように突き刺さり、非常に痛いものです。眠たくなってきた子猫は人間の子供同様、身体が熱くなってむずかり、やたらと噛みつきたがります。子猫がしつこく噛みつき始めたら、眠たくなってきたんだなと思って間違いがないでしょう。また乳歯が永久歯に生え替わり始める生後3~4ヶ月頃になると、歯がむず痒いのかよけいに噛みつきたがるようになります。

噛まれたときは絶対に指を引き抜いてはいけません。引き抜くと、歯が当たって指が切れてしまうことがあります。また決して本気で相手をしてはいけません。噛まれている指をそのまま喉の奥まで突っ込んだり、手をパーにして掌で猫の口を押さえ込んだり、歯が強く当たったときは大きな声で「痛い!」と猫の目を見て叫びます。噛まれるたびに「痛い!」と繰り返していると「痛い!」と言う声で加減してくれるようになったり、歯を離して舐める動作に転じてくれるようになります。子猫は飽くことなく噛みつきや猫キックを繰り返しますので根比べです。

しつこく、しつこく噛みついてくるときは、猫の身体と同じくらいの大きさのぬいぐるみを用意しておいて、それにすり変えるのも効果があります。猫はそのぬいぐるみを抱え込んで、猫キックして思いっきり噛みつくでしょう。

その他、猫のしっぽや前脚を猫の口元に持っていき、それを自分で噛ませてみるのも効果的です。猫の口に猫の前脚やしっぽを無理矢理入れて、上下の口を押さえて自分で噛ませてみるのです。噛んだら痛いんだよ、と自分の身体で覚えさせます。


猫がひっかくとき

猫は興味を引くものを確かめたり、自分の方に引き寄せるときに前足を使います。猫の前足でひっかかれてケガをするのは、ご飯を待たせたり、おもちゃ遊びをしている猫がおもちゃをつかんだつもりで人の手に当たってしまったとき、猫が遊びモードで人の足を獲物に見立てて飛びかかってきたときなどが多いようです。

猫にひっかかれて深い傷を負うのは、前足より後ろ脚のキックによるものが多いです。抱っこしていた猫が何かに驚いて飛び上がりダッシュで逃げるときとか、猫が「もうやめて」というサインを出しているにもかかわらずしつこく触り続けていて怒らせたときなど、ひっかくというよりも後ろ脚の瞬発力で打撲のように蹴られることでみみず腫れができてしまうことがあります。いずれも猫が悪意で同居人を傷つけようとしたわけではありません。猫と暮らしていたらよくあることなので、ひっかかれたときの被害を少なくするため定期的に猫の爪を切っておきましょう。

噛み猫・ひっかき猫にしない遊び方

猫と遊ぶときは、加減や遊びを終了にするタイミングが非常に大切です。遊びに熱中し始めると猫はどんどんエキサイトしていきますが、ある程度のところでさっと遊びを終了させます。

「手で猫を遊ばせてはいけない」と書かれた猫の育児書があります。確かに一理あるようですが、私はどんどん手で猫を遊ばせても問題がないと思います。ただ、その遊ばせ方には工夫が必要です。手で猫を挑発するような、じらすようなやり方で遊ばせてはいけません。人間の手は、いつも猫にとって安心できるもの、気持ちよくさせてくれるものと覚えてもらいましょう。

遊んでいるときは、あまり猫を興奮させすぎないように。猫がいくら喜んでいるようにみえて一生懸命猫じゃらしを追っかけたとしても、飼い主は猫の興奮度を冷静に観察して遊ばせましょう。

あまり猫をじらすのもよくありません。布団などの下で指を動かすと、猫はその動きに釣られて大喜びで飛びついたり噛みついたりして遊びます。しかし、これを覚えさせてしまうと、一緒に寝ているときにあなたが布団の下で足の指を伸ばしただけで、そこを噛みつかれるようになってしまいます。

猫が喜ぶからという理由だけで遊ばせていると、将来痛い目に遭うかもしれません。覚えて良い遊びだけを考えましょう。


猫はパニックになりやすい動物

それぞれの猫の性質の違いで、その時々の猫の反応は違いますが、ほとんどの猫はパニックを起こすと思って間違いないでしょう。

パニックの原因は様々。聞き慣れない音、見慣れないもの、嗅ぎ慣れないニオイ、突然かかったシャワーやドライヤーのモーター音、扉がばたんと閉まる音にさえビクッと反応する猫がいます。間違って猫のしっぽを踏んでしまったときや、猫が神経質になっているときに触ろうとするだけで、カァ~!っと怒り出すこともあります。猫は非常に用心深い動物ですので、自分が慣れ親しんでいるはずのものでも、少し形態が変わっているだけで、飛び上がり身体を膨らませ、攻撃態勢に入ろうとすることがあります。見慣れているはずの同居人が帽子をかぶったり、髪型を変えただけでも、しばらく遠巻きにして認識してくれない猫もいます。パニックを起こした猫は、目をまん丸に見開き全身をふくらましたり、興奮して走り回りますが、しばらくすると徐々に冷静に戻ります。

猫が怒ったり恐怖から攻撃モードになっていたり、パニックを起こしているときは、恐ろしい形相になり低い声で唸りながら耳を横に寝かせ、全身の毛を逆立ててしっぽをふくらませます。こんなときは、近寄らなければ噛まれたりひっかかれることはないので、猫が落ち着きを取り戻すまでひとりにしておきましょう。ただし、攻撃モードの猫から逃げるときに猫の目をじっと見つめたり、怖がるようなそぶりを見せると猫が飛びかかってくるかも知れません。それ以上猫を刺激しないように、できるだけ平静を装って、そっと後ずさりして猫をその部屋に閉じこめてしまうのが無難です。

猫が飼い主を襲うことも

非常に少ない例ですが、穏やかな家庭猫が突然凶暴になり飼い主を襲うことがあります。猫に攻撃されたことで飼い主自身は、身体の傷だけでなく精神的に大きな傷を受けてしまいます。自分では何気なしに立ち上がったり、猫の前を横切っただけなのに攻撃されると、猫に後ろ姿を見せるのも不安に感じるようになるでしょう。

それまで問題を起こしたことがない猫が豹変してしまう原因で一番に考えられるのは、猫の縄張りを侵すような何かが起こったときです。多頭飼育であれば、それまで仲良くしてきた他の猫が何かの拍子で自分の縄張りを侵す侵略者であるとインプットされ、攻撃目標が猫だけでなくその猫をかばう飼い主にも向けられる可能性があります。引っ越しをした、部屋の模様替えをした、新しい家具を購入したなど環境の変化による猫の不安やストレスも攻撃的な行動を起こす一因になります。

何かの拍子でパニックになってしまい、そのときの原因をたまたまそばにいた人間や、他の猫(動物)のせいにすることがあります。これは転嫁攻撃と呼ばれるものです。たとえば、窓の外を通りがかった外猫を見てとか、大きな物音がしたとか、ニオイで刺激を受けてとか、猫の鳴き声や似た音でパニックになることもあります。知り合いの猫は、猫の鳴き声の携帯電話の着信音に反応して、いきなり飼い主に飛びかかったそうです。

飼い主に対して攻撃を始めたときは、とりあえず飼い主と猫の安全のために猫を隔離しましょう。攻撃的になったときの状況を正確に把握することで原因を探り同じ状況を避ける、もしくは原因を取り除くなど対処を考えます。

あまりにも何度も何度も転嫁攻撃をする猫は、もしかしたら神経的に何かしらの病変を抱えている可能性もあります。行動学を専門に研究されている獣医師に相談されることをお勧めします。


猫に噛まれたりひっかかれたりしたら

猫にひっかかれると、バルトネラ・ヘンセネラ菌によって猫ひっかき病や、噛まれるとパスツレラ・マルトシダ菌によってパスツレラ症という人畜共通感染症(ズーノーシス)を起こすことがあります。猫に噛まれたりひっかかれたりしたら、すぐに流水できれいに洗い流し手当をしてください。もし心配と思われる症状が出たら、早急に診察を受けてください。

猫には、噛んではいけない、ひっかいてはいけないを教えておかなければなりませんが、猫が本気で牙や爪を出す必要のない生活環境を作ってあげるのも飼い主の役目だと思います。本来その猫が持っている根本的な性質を変えることは難しいですが、日々の生活をコントロールすることで、ある程度穏やかな性格の猫になってもらうことは可能です。