労務管理

派遣社員も知っておきたい労働者派遣法

働くときに知っておきたい法律は「労働基準法」。そして、派遣社員で働くときに知っておくべき法律が「労働者派遣法」です。企業に直接雇用される場合と派遣社員で働く場合、何が違うの?派遣社員がトラブルに巻き込まれないための法律知識を解説します。

小西 道代

執筆者:小西 道代

労務管理ガイド

労働基準法には、「最低限」のルールが決められている

会社に採用されて働くときに知っておきたい法律が、労働基準法です。就業時間や休日、賃金など、会社と交わす雇用契約の重要なものについて、最低限の内容が定められています。労働基準法では、会社と労働者が「対等」とされているところ、実際には給与を支払う会社の力が強いと言わざるを得ません。そこで、労働者が不当に悪い条件で働かされることがないよう、労働基準法で「最低限」のルールが決められているのです。そのため、会社が労働基準法で決められたルールより低い労働条件で、労働者を働かせることは違法となります。
 

労働基準法の中に「労働者派遣法」がある

少し専門的な言葉ですが、「特別法」という言葉があります。会社と労働者について一般的な内容を決めている法律が労働基準法だとすると、労働者派遣法は会社と労働者に関することのうち、特に派遣で働くときのルールを定めている法律です。一般法の労働基準法に対して、労働者派遣法は特別法となり、労働者派遣法に書いていないことは労働基準法で確認します。
 

派遣で働くとき、派遣会社のホームページを確認しましょう

派遣会社は厚生労働省から派遣事業を行う許可を得ています。この許可がない会社は、派遣事業を行うことができません。許可を受けているかどうかは、派遣会社のホームページや会社案内で確認することができます。

「派13-〇〇〇〇〇〇」(東京都の場合)という許可番号が記載されているかを確認しましょう。以前は「般」や「特」という区分がありましたが、今は廃止されています。そのほか、厚生労働省のホームページでは労働者派遣事業の許可を受けている派遣会社と、特に優良な派遣会社(優良派遣事業者の認定を受けた派遣会社)を検索することができます。派遣会社を選ぶときの参考にしましょう。
 

派遣で働くことができない業務がある

派遣先の会社が派遣会社に依頼して派遣社員に働いてもらうという働き方は、法律上「一時的」「臨時的」な場合に限られます。一般的に、派遣社員が不安定な立場と言われるのは、このような限定があるからです。一時的に会社の業務量が増えたときや、社員が出産・育児で長期の休業に入る等で臨時的に代わりの人材が必要となったとき、派遣会社へ依頼が入ります。

しかし、次の業務で派遣社員が働くことはできません。

建設業、警備業、港湾運送業、医療関係の業務、弁護士などの「士」業

これらの業務で派遣社員が働くことを禁止されているのは、特に専門性の高い業務であったり、安全上の危険を伴うような業務だからです。派遣会社から、これらの業務で働くよう話があったときは、業務内容をしっかりと確認しましょう。建設現場で施工管理をしたり、CADで図面作成をする場合など、派遣社員が働くことができるものも一部あります。
 

派遣で働くときの労働条件は「雇用契約書」だけでは分からない

会社で働くとき、最初に確認することは「雇用契約書」に記載された労働条件です。雇用期間や勤務場所、業務の内容、始業・終業の時間など、労働基準法で決められた労働条件を「雇用契約書」で確認することができます。

派遣で働くときには、派遣会社と交わす「雇用契約書」に加えて「就業条件明示書」という書面が渡されます。「雇用契約書 兼 就業条件明示書」として1枚の書面にまとめられている場合もあります。また、派遣社員が希望したときは、書面ではなくメール等で送られてくることもあります。
 
派遣とは、雇用契約書を交わす派遣会社ではなく、派遣先の会社で派遣先の社員から仕事の指示を受けて働く形態であるため、派遣会社と派遣先の会社で約束した内容を派遣社員も把握しておかなければなりません。そこで、「就業条件明示書」には派遣先に関する情報も記載されているのです。
 

派遣先で「就業条件明示書」の内容と違う指示を受けたときは?

派遣会社と派遣先の会社は、労働者派遣契約を締結しています。労働者派遣契約で定めなければならないことは、労働者派遣法で細かく決められています。派遣社員は、雇用主である派遣会社の目が届かない派遣先の会社で働くため、自身がしっかりと業務内容や派遣特有のルールを理解しておかなければ、トラブルに巻き込まれてしまいます。
 
最初のうちは問題なくても、働いているうちに「就業条件明示書」に書いていない業務を頼まれたり、違う部署の応援に行くよう指示されることがあるかもしれません。そのような場合は、すぐに派遣会社へ相談しましょう。労働者派遣法に違反している可能性があります。
 

「抵触日」が来ると、違う派遣先や違う業務に変わらなければならない

派遣という働き方が、法律上「一時的」「臨時的」とされていることもあり、派遣で就業できる期間は「原則3年」(60歳以上の派遣社員など、例外もあり)とされています。3年を超えて派遣で働くと労働者派遣法違反であり、3年後の日付をもって法律に抵触(違反)するため、3年後の日付を「抵触日」と言います。
 
「抵触日」には、次の2つがあり、それぞれの年月日は「就業条件明示書」に記載されています。その日を超えて働くことはできないため、自身でもしっかりと把握しておきましょう。
  • 事業所単位の抵触日:派遣先の会社で初めて派遣社員を受け入れた日から3年
  • 個人単位の抵触日:派遣社員が派遣先のその業務を始めた日から3年
 2つの「抵触日」が、異なる日付であることもあり得ます。つまり、個人単位の抵触日までは余裕があっても、事業所単位の抵触日が先に来るのであれば、その日以降、その派遣先の会社で派遣社員として働くことはできないことになります(派遣先の会社で延長の手続きを取れば、派遣先の会社は引き続き派遣を受け入れることが可能)。
 

派遣法違反があったとき、派遣先に直接雇用されることができる

労働者派遣法はとにかく細かな決まりが多い法律です。労働基準法などが整備される前から、一部の業界では「労働者供給事業」という悪質な行為が行われていました。現在、「労働者供給事業」は法律で禁止されていて、労働者派遣法の厳しいルールを守った場合に限って、派遣会社に雇用される派遣社員は派遣先の会社で働くことができるのです。
 
派遣会社や派遣先の会社が労働者派遣法を確実に守るよう、罰則として定められたのが「労働契約申込みみなし制度」です。派遣先の会社が労働者派遣法に違反するような派遣を受け入れた場合、その時点で、派遣先の会社は派遣社員へ直接雇用の申込みをしたものとされます。派遣社員がその申込みを承諾すれば、直接雇用が成立します。
 
【対象となる違法派遣】
  • 派遣すること禁止されている業務に従事させた場合(建設業など)
  • 無許可の会社から労働者派遣を受け入れた場合(許可番号がない会社)
  • 抵触日を超えて労働者派遣を受け入れた場合(事業所単位/個人単位のどちらであっても)
  • いわゆる偽装請負の場合
 

派遣会社には、派遣社員を守る・育てる対策が義務づけられている

労働者派遣法は、派遣社員を守る法律です。派遣が「一時的」「臨時的」な働き方と位置づけられていることもあり、派遣社員に対して教育を行うことや不当に低い賃金で働くことがないよう、労働者派遣法では派遣会社に様々な義務を課しています。
  • 派遣社員の給与を決めるときは、派遣先の労働者の給与水準に配慮すること
  • 派遣社員がよりスキルを身につけキャリアアップできるよう教育を行うこと(8時間/年)
  • 社会保険と労働保険に適正に加入させること
  • 派遣先から派遣契約を終了されても、派遣社員を解雇してはならないこと
  • 抵触日を迎える派遣社員に対し、派遣先での直接雇用を打診する等の対応をすること
派遣という働き方は、派遣会社と派遣先の会社と派遣社員という3者が関係するため、行き違いなどのトラブルが起こりやすいといえます。派遣社員として働くからには、ある程度、労働者派遣法を知って、終業条件明示書の内容を事前に確認するなど、トラブルに巻き込まれない対策を自身でも講じる必要があります。

派遣であれば、いろいろな会社で働く機会があり、様々な業務に従事することができます。ぜひ、派遣で働くメリットを最大限に享受したいものです。
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