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共謀罪とは?未遂犯との違いと制定する上での問題点

「共謀罪」という罪を創設することで国会は大きく揺れています。はたして共謀罪とは何なのか?話をしただけで罪になるというのは本当?できるだけできるだけ、わかりやすく「一問一答」で解説します。

執筆者:辻 雅之

共謀罪について

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何もしなくても話し合いだけで「罪になる?」といわれ、反対の声の大きい共謀罪だが?


今話題の「共謀罪」。でもよくわからない方も多いと思います。共謀罪についての基本的知識と論点がわかるように、一問一答形式でまとめてみました。

■共謀罪

共謀罪とはそもそも何ですか?

組織犯罪を防ぐため、その犯罪が実行される前に、組織の中で話し合った段階で罪に問えるようにしようというのが共謀罪というものです。共謀罪を設置するため、政府案による「組織犯罪規制法」の改正案(政府案)では、このような条文が新たに盛り込まれています。

政府提出改正案:
第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。
1.死刑又は無期若しくは長期十年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪 五年以下の懲役又は禁錮
2.長期四年以上十年以下の懲役又は禁錮の刑が定められている罪 二年以下の懲役又は禁錮(下線は筆者による)

これにより、犯罪を目的とした組織のなかで、犯罪の共謀をしていることが発覚すれば、その段階で逮捕できることになり、実行を効果的に防ぐことができるというものです。

未遂犯とは違うのですか?

違います。未遂犯というのは「犯罪行為の実行が成功しなかった(むずかしくいうと「既遂できなかった」)犯罪のことを指します。つまり、犯罪行為が実行されていることが、未遂の要件となります。たとえば窃盗罪は未遂も罰すると規定されています(刑法243条)。つまり、スリが財布を盗むために電車の中で寝ている人の財布が入っているポケットに手を触れたそのとき、犯罪行為の実行が行われているわけですから、警察官はそのスリを窃盗未遂で逮捕することができます。

しかし、共謀罪は犯罪行為の実行がなくても罰するというものです。重大な犯罪行為を未然に防ぐため、それについて話し合っている段階で、処罰するようにしようというものです。実行がある、なし、これが未遂犯と共謀罪のもっとも異なる点といえるでしょう。

いままで、実行がなくても処罰できる規定はなかったのですか?

あります。たとえば内乱予備陰謀罪(刑法78条)、外患(外国と図って日本に武力攻撃をさせること)予備陰謀罪(88条)は、陰謀の段階で罪に問えます。また、実行に至らなくても、予備・準備の段階で罪に問えるものはすでに刑法に盛り込まれています。放火(113条)、通過偽造(153条)、支払用カード電磁的記録不正作出(163条の4)、殺人(201条)身代金目的誘拐(228条の3)、強盗(237条)などに予備または準備罪が設けられています。

ちなみに予備・準備は広い意味での「実行」とみなすこともあります。しかしここではわかりやすく、実行前の段階と考えておきます。このように、実行がなくても処罰できる規定は今までもありました。ただ、共謀罪は「準備・予備もしていない段階でも処罰される」、つまり犯罪をしようと話をするだけでも処罰されるということになるということ(または、そう解釈されかねないところ)が、従来の予備・準備罪との大きな違いです。

このようなことから、共謀罪の創設により「組織犯罪・国際テロを未然に防ぐ大きな効果が期待できる」と考える人たちがいます。その一方、「このような刑罰が市民生活を畏縮させないだろうか」という懸念を持つ人たちも、いるわけです。

なぜ、共謀罪規定を作ろうとしているのですか?

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国際テロや組織犯罪に対応するため、各国が「刑法の足並みをそろえる」……このための「義務」が「共謀罪の創設」と説明されている


2000年に国連で採択され、2003年に国会で承認した国際組織犯罪防止条約で定められた義務を果たすためです。国際組織犯罪防止条約第5条には、「組織的な犯罪集団が関与する重大な犯罪の実行を組織し、指示し、ほう助し、教唆し若しくは援助し又はこれについて相談すること」を犯罪とするよう各国に義務づけています。

これが、共謀罪規定設置の目的です。増加する一方の国際組織犯罪、そしてその利益が国際テロリストに渡り大きなテロが起こることを防止しようというのがこの条約の狙いです。ただ、死刑廃止条約(1989年)のようにある刑罰を廃止しよう、という条約はありますが、この条約は世界的に「刑法システム」を統一しよう、というけっこう大掛かりなものです。そのため、この条約自体がそもそも国家の主権を侵すものだという批判はあります。

これに対して、国際組織犯罪やテロ対策のためには、各国が「刑法システム」について足並みをそろえるべきだという考え方もあります。国によって刑法の体系がけっこうまちまちなので、なおさら、ともいわれています。

「国際組織犯罪防止」が目的なら、共謀罪の範囲は広すぎるのでは?

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国際組織犯罪防止条約で創設が「義務づけられた」共謀罪は、国内犯罪もその対象となるというのが政府の説明だ


今回の論点の1つです。政府案では、共謀罪規定は懲役4年以上のすべての犯罪に適用されることになるので、範囲が広すぎるという考え方があります。つまり、通常の国内犯罪でも、共謀罪が成り立つのは、本来の国際組織犯罪防止条約の意義からかけ離れているのではないか、ということです。これに対し、政府はむしろ条約上、共謀罪適用を国際組織犯罪に限定できないことを、次のように説明しています。

「国際組織犯罪防止条約第34条では、共謀罪規定を『国際的な性質又は組織的な犯罪集団の関与とは関係なく定める』よう規定しています。そのため、共謀罪は広く適用されるようにしなければならないのです」

国際テロなどといった重大犯罪を防ぐには、まずは国内での組織犯罪、テロを防ぐところから進めなければならない……これが、国際組織犯罪防止条約34条の意義であろうと考えられます。政府も、それにそって共謀罪を創設しようと考えているようです。ただ、国際犯罪の増加と国内犯罪との間にはっきりした因果関係があるわけではない、と主張して、この規定に疑問を唱える人も多くいます。

「話し合うだけで犯罪」というのが怖いのですが……(1)

たしかに「共謀」の規定はあいまいです。反対派がいうように、「話し合うだけで犯罪」になりかねません。たとえば、品のいい話ではないですが、酒の席で酔っぱらって、「部長ハラたつな-、ぶっ殺してやろうか」「おう、そうするか」という軽口が、「殺人の組織的共謀」とみなされる可能性はないとはいえない、という指摘があります。

また、たとえば高層マンション建設に何らかの理由で反対している住民たちが集まってなんとか工事を阻止するようなことをしよう、と話し合っただけで「業務妨害の組織的共謀」が成立し、住民たちが逮捕されるという危険性も指摘されています。

これに対し、政府はこう説明しています。「『共謀』とは具体的・現実的に犯罪行為をしようとする合意のことですから、たわいもない冗談が犯罪になることはありません。また、違法性や危険性の高い組織的犯罪の実行防止が目的ですから、労働組合や住民運動を規制することはありません」

「話し合うだけで犯罪」というのが怖いのですが……(2)

このようなことにもとづき、自民党は政府案に対する修正案を提出しています。

自民党修正案:(下線部が修正点)
第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為(国際的な組織犯罪の防止に関する国際連合条約第三条2(a)から(d)までのいずれかの場合に係るものに限る)で、組織的犯罪集団の活動(組織的犯罪集団(団体のうち、死刑若しくは無期若しくは長期五年を超える懲役若しくは禁錮の刑が定められている罪又は別表第一第二号から第五号までに掲げる罪を実行することを主たる目的又は活動とする団体をいう。次項において同じ)の意思決定に基づく行為であって、その効果又はこれによる利益が当該組織的犯罪集団に帰属するものをいう。第七条の二において同じ)として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

一方、民主党はこのような修正案を提出しています。

民主党修正案:(下線部が修正点)
第6条の2 次の各号に掲げる罪に当たる行為で、団体の活動(その共同の目的がこれらの罪又は別表第一に掲げる罪を実行することにある団体に係るものに限る)として、当該行為を実行するための組織により行われるものの遂行を共謀した者は、その共謀をした者のいずれかによりその共謀に係る犯罪の実行に資する行為が行われた場合において、当該各号に定める刑に処する。ただし、実行に着手する前に自首した者は、その刑を減軽し、又は免除する。

ややむずかしいですが、自民党の案は政府の考えに沿いながら、処罰対象を明らかな犯罪集団のみ(条文的に)に限定することで、労働組合や住民運動・市民運動は対象外になるように配慮したものだといえます。

民主党の案はさらに対象を絞ったうえで、共謀の実行のためのなんらかの「行為」が実際に行われていることを共謀罪成立の要件にしています。自民党修正案は、確かに犯罪団体以外が対象外になった点がポイントです。しかし、「話し合っただけで犯罪」という点を依然許している点では、反対派の納得が得られるものとはいえないでしょう。

民主党修正案では、なんらかの準備・予備的行為がないと処罰されないという点がポイントになっています。「話し合っただけで犯罪」は許していないわけです。しかし、それで迅速に国際犯罪を防げるかどうかについての疑問が残るでしょう。

共謀を監視するために、警察による盗聴などが増えませんか?

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共謀罪ができても電話は安心してかけれらるのか、それとも警察によって監視されていくのか……?


これも指摘されているところです。特に、2000年から施行されている通信傍受法によって、いわゆる「警察による盗聴(通信傍受)」が厳格な要件のもとですが正当化されているので、その不安は一部で高まっています。政府は、通信傍受法について「犯人を特定し、犯行状況等を明らかにすることが著しく困難な場合に、最後の手段として、裁判官の令状を得てこれを行うことが」できるものと説明しています(「」内は法務省ホームページより引用)。

また、共謀罪については「『組織的な犯罪の共謀罪』には、厳格な要件が付され」るため広く盗聴が増えることはないこと、共謀罪の目的は「国民の生命、身体、財産を組織犯罪から保護すること」としています(「」内は法務省ホームページより引用)。しかし、これは政府の「解釈」にすぎないわけですから、それが本当にしっかり守られるのか、という不安が生じることは否定できないでしょう。

これで国際犯罪・テロはなくなるのですか?

国内での組織テロや、麻薬などの密売などには効果があるでしょう。しかし、国際テロは往々にして「失敗国家」とよばれる(内戦などで)破たんした状態の国家を拠点にして行われることがあります。そういう国で条約の効果を期待するのは難しいわけですから、国際テロの防止につながるかどうか、疑問な部分もあります。

有識者の意見を聞きたいのですが?

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共謀罪についてはまだ審議中、国会やいろんな場所での論議に耳を傾けよう


2006年5月9日、民間人参考人を交えた衆議院法務委員会が開かれ、共謀罪規定について議論しています。ここでの会議録で発言された3人の有識者の意見をまとめてみます。

※なお、各参考人各位の発言はその内容をガイドの責任で要約しています。正確な発言を知りたい方は国立国会図書館による国会会議録検索システムをご利用下さい。

藤本哲也氏(中央大学法学部教授)の意見概要

  • 政府案と自民党修正案には賛成、民主党修正案には反対。
  • 国際法上の枠組みに沿って法整備されなければならない。それは国家の国際法的責務だからだ。民主党修正案はその点で問題がある。民主党修正案になると共謀罪というより予備罪的であり、共謀それ自体を処罰せよと義務づけている条約に反している。
  • 110カ国以上が締結した条約だ。これをグローバルスタンダードと考えて、それにあわせた国内法整備をするべきだ。国際的威信もかかっている。G8諸国でまだ議論の段階にあるのは日本だけだ。
  • しかし人権に配慮した法運用が必要で、それについて留意事項をつけた両党の修正案は評価できる。
  • マスコミなどからの心配も理解できるが、1907年にできた古い刑法で現在の組織犯罪に対応することが困難であることを理解すべきだ。
  • 政府案が悪いといっているわけではないが、自民党修正案の方が処罰条件をわかりやすくしているので、こちらの方が一歩進んでいると考えている。

高橋均氏(連合副事務局長)の意見概要

  • 民主党修正案に賛成。
  • 労働組合活動への影響が不安だ。現状、労働組合活動に対する使用者(経営者)の理解はまだまだ不足している。組合を作るというだけで逆上する人もいる。団体交渉をしても、しまいには営業妨害だとかいわれてしまう。
  • 警察の判断が恣意的になるおそれがある。実際、ストライキ中の行動が威力業務妨害として逮捕されているケースもあるわけだ。そのため、労働組合活動における行為は共謀罪にあたらないということをはっきりさせてほしい。
  • 法の拡大解釈によって、合議がなくてもなんとなくその雰囲気で共謀が成立するというような危険もある。労働組合の委員長経験者として、その危険性を認識する。
  • 自首をすると刑が軽減されるということだが、これは密告のような響きがある。このようなことは日本の道徳観に反し、日本の品格を損ねる。
  • これからは、割合が増えているパートといった非正規雇用者の組合活動が望まれている。そんななか、この法律がこのことにマイナスの面を持つ可能性を懸念する。

櫻井よしこ氏(ジャーナリスト)の意見概要

  • 民主党案に大きく共感するが、自民党にもしっかりとした歯止めをかけるようにしてほしいと要望する。
  • 今の国際犯罪を処罰するには、共謀罪というものが必要だということを感じる面はある。
  • しかし、今回の法律案は、国連条約の範囲を超えているのではないか。拡大解釈されて、心の問題にまで踏み込まれるのではないか。そのような危険性を慎重に考えるべきだ。言論・表現の自由への危険性もある。人権擁護法案もそうだが、心の問題を法律で規制することの厳しさを考えるべきだ。
  • 住民基本台帳ネットワークにしても、ここまでの利用というはずだったのが、今は利用が国のすべての事務にまで拡大してしまっている。共謀罪の運用もそうならないとは限らない。
  • 名誉毀損問題などで、いきなり政治家の皆さんが損害賠償額を上昇させてきた。こうなると個人や弱小の出版者ではどうにもならない。言論の自由について由々しき問題がすでに生まれている。
  • そういった意味で、共謀罪を認めるとしても、共謀罪の適用についての歯止めを法律でしっかりかけることが必要だ。

参考書籍・サイト

  • 『刑法1 総論 第2版』 町野朔・中森喜彦編 2003 有斐閣
  • 『刑法概説1 総論』 平場安治・井上正治・瀧川春雄編 1967 有斐閣
  • 『安全保障と国際犯罪』 山口厚・中谷和弘編 2005 東京大学出版会
  • 『共謀罪と治安管理社会』 足立昌勝監修 2005 社会評論社
  • 衆議院 http://www.shugiin.go.jp/index.nsf/html/index.htm
  • 国会会議録検索システム http://kokkai.ndl.go.jp/
  • 法務省 http://www.moj.go.jp/
  • 外務省 http://www.mofa.go.jp/mofaj/

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