マンション物件選びのポイント/マンションの間取り

南向き信仰のワナ

日本では南向き住戸にこだわる人が多いですが、本当に南向きが一番良いのでしょうか?意外な落とし穴やもっと良い選択肢があるかもしれません。南向きのメリット・デメリットについてお伝えします。(改定2018年12月/初出:2007年3月)

井上 恵子

執筆者:井上 恵子

住まいの性能・安全ガイド

住まいは本当に南向きが良いの? 

住まい選びでは住戸の向きにこだわる人が多く、特に南向きに大きな開口のある住居が好まれる傾向があります。したがって、マンションでは、同じ広さ、間取りでも、バルコニーが南に向いている住戸が一番人気があり、価格も高く設定されていることが多いようです。
南向きなら太陽の恵みをたくさん享受できます

南向きなら太陽の恵みをたくさん享受できます

でも、何が何でも南向きの物件を…と考える前に、ちょっと他の条件を再確認してみましょう。意外な落とし穴や、より良い選択肢を見つけることができるかもしれません。
 

日本にある南向き信仰ってなに?

古くから日本の住宅は木の柱や梁など大小の軸材を直行して構成する木造在来工法で建てられてきました。この工法では窓などの開口部を大きくとることができました。
日本で昔からある木造在来工法。開口部を比較的大きくとることができます。

日本で昔からある木造在来工法。開口部を比較的大きくとることができます。

対照的なのがヨーロッパに多くみられる石造りの家。壁式構造となり、窓の大きさは制限されます。窓が小さく光が少ない家でも、昔からそのような住まいに慣れ親しんでいれば、それを不自由には感じないものです。

私たち日本人は大きな開口部のある家に慣れ親しんできたこと、また清潔好きで洗濯や布団干しをよく行うこと、そのようなことが南向き信仰の大きな要因になっているといって良いでしょう。
 

南向き住戸は値段が高い

そのような嗜好から、日本のマンションでは同じ間取りでも住戸の向きによって価格に差が出ます。いくらの差が出るかは物件ごとに異なりますが南向きに比べ、それ以外の住戸にお得感があることは間違いありません。「何が何でも南向きを」と考える前に今一度、本当に南向きが一番良いのか考えてみませんか? 
 

 南向きのメリットは明るく、暖かく過ごせること

南向き住戸のメリットは、「明るく、暖かく過ごせること」に尽きます。朝や夕方に陽は直接入りませんが昼間は長時間明るく、部屋の中は暖かく、南側に物干しスペースがあれば早く乾きます。

【図1】季節ごとの正午の日射角度の例(北緯35°地点)。図は庇の出が90cm程度の例。夏至で78.5°春分秋分で55°冬至で78.5°の角度となります。夏至では日射は直接窓にさし込まず、冬至では部屋の奥まで陽がさすことがわかります。

【図1】季節ごとの正午の日射角度の例(北緯35°地点)。図は庇の出が90cm程度の例。夏至で78.5°春分秋分で55°冬至で78.5°の角度となります。夏至では日射は直接窓にさし込まず、冬至では部屋の奥まで陽がさすことがわかります。

南向きの窓は「暑い」というイメージがありますが、夏は太陽高度が高いためほぼ真上からの日射となり部屋の奥まで陽が入ってきません。(【図1】参照)。庇やシェードなどを適切に設ければ窓面への強い日射を防ぐことができるのです。反対に冬は太陽高度が低いため昼間は部屋の奥深くまで光がさし込み、明るく暖かくすごせます。

それでは次に、南向き住戸の注意点を考えてみましょう。
 

南向き住戸の注意点

■朝は陽が入らない
人間の体内時計は朝日を浴びることで整えられるといわれますが、朝日を浴びるのは東向きの窓です。朝早く起き、昼間は家に居ない生活スタイルの人には南向きより東向き住戸のほうが向いているかもしれません。

■目の前に建物があったら
南向きにこだわっても、南側に大きな建物があるため陽がささなかったり、近接して視線が交差するためカーテンを閉めっぱなしにしなくてはならないなど、周囲の条件によっては意外な盲点があります。戸建て住宅でもマンションでも、購入の際には近隣の建物の様子をチェックするとともに、将来そこに大きな建物が建つ可能性がないかを必ず確認してください。

■夏暑い
夏の暑さに弱い人にとって、南向きは厳しい環境になるかもしれません。前のページで述べたように、南に面して大きな窓がある場合、上部に庇があれば太陽光をカットしてくれますが、庇の出が全くない、もしくは少ない住戸だと夏の暑さは厳しくなるでしょう。

また窓ガラスの外側で適切な日よけを設け、日射をさえぎる工夫が必要です。植栽による対策も効果があります。建物の南側に落葉樹が植えてあれば、夏の日差しを防ぐことができますよ。
南側に落葉樹が植わっていると、夏は茂った葉が日射を防ぎ、冬は葉が落ちて暖かい日ざしを受けることができる

南側に落葉樹が植わっていると、夏は茂った葉が日射を防ぎ、冬は葉が落ちて暖かい日ざしを受けることができる
 

都市部では南面からの採光が難しいケースも

主に戸建て住宅のケースになりますが、住宅が集中する地域に建てられる都市型住宅では、住戸間の距離やプライバシーの観点から南向きに窓を設けることが厳しい場合もあります。

もし南向きでなくとも、高窓やトップライトから採光を得る方法もあります。小さな天窓があれば、壁に設ける窓の3分の1の大きさで、壁にある窓と同じくらいの明るさを得られます。
 
天窓の例。壁につく窓より、同じ面積で3倍の明るさが得られる。

天窓の例。壁につく窓より、同じ面積で3倍の明るさが得られる。


「何が何でも南向き」ではなく、家の向きを検討するときにぜひ参考にしてほしいことを挙げます。
 

眺望のよさも視野に入れる

私たちは窓から見える景色や眺望にやすらぎや満足感を感じるものです。例えば公園に面していたり、夜景がきれいな方向に大きな窓があれば、住戸がそちら向きになっているほうが、メリットが大きいかもしれません。
 
夜景がきれいに見える方向に窓がある住戸も人気があります。

夜景がきれいに見える方向に窓がある住戸も人気があります。

 

明るさは南向き以外でも

窓が真北ではなく多少東や西に方位がずれた配置になっていれば、朝または夕に陽が入り、思った以上に明るいものです。建物がきっかり真北に向いていることはあまりないので、方位がどの程度ずれているかもチェックしてみてください。
 

北向きでは柔らかい安定した光

メインの開口部が北向きの場合、柔らかく安定した明るさの部屋となります。日中は家を空けている人、部屋で仕事をする人にも向くでしょう。
 
北向きの窓のある部屋は仕事や読書に向く

北向きの窓のある部屋は仕事や読書に向く

 

マンション購入時は何を重視するかよく考えて

マンションの場合、南向き住戸の価格は高く、北向きの住戸の価格は安く設定されることが多いです。もし南向きにこだわらなければ駅からより近く、より広い住戸を希望の価格帯で購入できる可能性が高くなります。

このように、何が何でも南向きであることにこだわるよりも、周りの状況で家の向きを決めたほうが、総合的にみて「理想の住まい」になる可能性があります。日中をどこで過ごすことが多いのか、午前中を重視するのか午後を重視するのか、方位よりも優先したいことは何か、さまざまな条件を考えつつ最良の物件を購入するようにしてくださいね。

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