サントリーのブレンダーたち
上/サントリーのチーフブレンダー、輿水精一氏と話す時間も愉しい。下/人間の官能能力について語ってくれた竹内義人氏。

ウイスキーは詩人がつくる

ウイスキーのブレンダーは時に自然科学者となる。ゴールデンブラウンの中に潜むフレーバーの層を淡々とした言葉で剥ぎ取ってみせる。
彼らは時に詩人となる。モルト原酒を嗅ぎながらロマンチックな世界へと誘う。森の小道や小川のほとりを散歩し、草花を手にしたりもする。そうかと思えば幼児期に戻り、母の手づくりのおやつの味を語ったりもする。郷愁に浸り懐かしい香りの記憶と戯れる。

ブレンダーと過ごす時間は、たくさんの哲学的道理や道理では計れないことを知り、学ぶことばかりだ。文章を成業とするこちらが使い慣れて麻痺してしまった言葉の持つ深遠さを再認識させられたりもする。

昨年11月に発信した記事『セクシーに愉しむバラの花束』など、バランタイン社のマスターブレンダー、ロバート・ヒックス氏の言葉がヒントになっている。
3年ほど前、短期間に何度もヒックス氏に会う必要があった。その間、彼がよく口にする『フレーバー・パッケージ』という言葉が頭から離れなくなった。私はこれをどう日本語に解釈するか悩んだ。

自分なりに『香りの花束』と訳したのだが、「飲み手が購入し、封を切った時に、いつでも同じ香り、味わいを愉しめることが重要」と語ってくれたことがきっかけとなった。つまり“枯れない香りの花束”を世に贈りつづけているのだと私は理解したのだ。
そこから発想したのが、シングルモルトは赤いバラの花束。だった訳である。

すべての職人が守り育てる

竹内義人氏を覚えていらっしゃるだろうか。一昨年夏、『幼稚なボクちゃんが教えてくれた』の記事の中で紹介した、「山崎蒸溜所“仕込水”割 オン・ザ・ロック ウイスキー」を開発したブレンダーだ。

私が山崎蒸溜所のホームページに連載している『職人の肖像 第5回』に登場していただいている。竹内氏との会話は、ロマンチックとか哲学的なものとはかなり違う。あくまで実務的な事柄を彼から探っていった。
研ぎ澄まされた官能能力とはどういうものか、新製品開発の手順、試作段階の試行錯誤などを聞いた。(次頁へつづく)