失敗ばかりが人生さ

私の失敗談からはじめよう。
7、8年前になるから40歳前後、そして真夏の夜の出来事で、いまでもその夜のことははっきりと覚えている。

土曜日、私は原稿用紙30枚という雑誌記事を書きつづけた。締め切りギリギリで、デザイナーは日曜日もレイアウトするから、とにかく原稿をくれといった状態だった。
書き上げたのは土曜の夜11半頃。すぐにデザイン事務所に原稿を送り、私は出かけた。自宅近くでタクシーをつかまえ、銀座に向かったのだった。とにかくバーへ、である。

原稿がクライマックスを迎えた頃から無性にドライ・マティーニが飲みたくなっていた。あの香味の記憶が鼻腔細胞によみがえってきてしょうがなかった。筆を終末に迎わせながら、ひとりのベテラン・バーテンダーの顔がデスクのまわりにちらちらと浮かんでいた。とにかく彼のドライ・マティーニが飲みたい、である。

ただ、うっかりしていたことがひとつあった。服装だ。自宅で原稿を書いていた姿のままで出かけた。Tシャツに短パン。頭にはキャップ、野球帽ってやつ。足はペラペラのビーチサンダル、という姿である。
ヤッベェー、と気づいたのは銀座でタクシーを降りてからのことだった。ショーウィンドーに映る自分の姿を見て、やっちまった、と思ったのだが、ドライ・マティーニのほうが勝り、とにかくバーへ向かった。

バーは客が2、3人で、私は入り口に近いカウンター席の端に座わり、待望のドライ・マティーニを飲んだ。つづけざまに2杯飲んでひと心地つき、ちょっと上等なウイスキーを2杯、ゆっくりと味わった。自分自身へのご苦労さんの酒である。服装のことはすっかり忘れていた。とにかく自分の小宇宙に浸りきっていた。

勘定を終え、店を出るとき、ベテラン・バーテンダーが見送りながらさらりと私に言った。
「ダルマちゃん。今夜は土曜でお客さんも少なかったし、閉店間際だったからゆるしちゃったけど、その格好、次からはなしね」
痛ッタッタッというより、ドライ・マティーニ確信犯のダルマちゃんは小さくなって七転八倒、身もだえするしかなかった。
失敗だけが私の人生だが、40男のすることではないよな。


靴は気をつけなさい

そんな私がバーでの服装について書く。トンチンカンチンではあるが、最近になって、“男は読むな!いい女に贈る記事”に寄せられる感想の中に「バーのドレスコードを教えて」というのが増えてきたからだ。

ひと口にバーといってもさまざまにあり、それこそ短パン、Tシャツでふらりと行けるカジュアルなバーから、オーセンティックを謳うバーまである。これらをひっくるめて、どう語るか非常に難しいものがあるが、とりあえず挑戦してみる。(次頁へつづく)