それはサイドカーだ。香味は美しい貴婦人の微笑み。コニャックの厚みの中に甘酸が微妙なバランスで溶け込んでいる。洗練されたそのコクは、品格と繊細さがある。貴婦人のプライドの香味だ。

そこでシガーを燻らす。貴婦人を相手にまあ一応マーロン・ブランドになったつもりになる。なんせ私は何人かの女性にチョウ・ユンファと言われたことがある。ある企業の広報部では私が電話すると保留にした後、「○○さん、ユンファから」で通じていたことがあったらしい。

ただユンファのような男の色香はないので、シガーを私がやると、チャイニーズ・マフィアのチンピラ・ヒット・マンの絵にしかならない役どころだろう。様にならないのはよくわかっている。
ただそれでも気取って見るのだ。そんな自分が可愛い。ほんとうに可愛い。
本多氏のサイドカーはそんな私を澄まし顔で見つめてくれ、時に微笑んでくれる。そばにもう女性なんかいらない。というのは嘘さ。

本多氏のウイスキーのすすめ方もいい。シガーを手にしてウイスキーでもとボトル棚を見つめていると、気持ちを察してすっと味わい深い一瓶を出してくれる。
もちろんシガーと相性のいい香味のウイスキーだ。
極めて穏やかな接客をする本多氏の気配りがまた味わいを深める。ちょっと誉めすぎではないか、と思われるかもしれないが、まあ行けばわかる。
でも行って欲しくない。でも行って欲しくもある。胸中複雑な店だ。

ただし、やはりひとりかふたりでとお願いしたい。決して3人以上では行かないでいただきたい。いつまでもそっと密やかな店でありつづけて欲しい。
私は55歳の誕生日を過ぎたら、毎週土曜日は『ル・パラン』に通うことに決めている。あと9年後の話しだが、それを心待ちにしている。それくらいの年齢になれば香港映画のチンピラには見えないんじゃないかと思う。
それまではたまにってことで我慢するつもりだ。

Bar le Parrain
東京都新宿区新宿3-6-13 石井ビル3F
Tel.03-3358-8432 18:00~3:00 日祝休
チャージ¥1,000、ウイスキー¥1,000~、カクテル¥1,000~、サイドカー¥1,500

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