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日本のウイスキーづくり80周年、情熱の時代 ひとりの男の魂が宿った、傑作(2ページ目)

80年前。日本にはウイスキーの需要などなかった。ひとりの男が「需要はつくればいい」と立ち上がった。不評、資金難。辛酸をなめつつも男はブレンドを繰り返す。そこから時代を超えて愛されつづける傑作が誕生した。

協力:サントリー
達磨 信

執筆者:達磨 信

ウイスキー&バーガイド

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日英同盟がウイスキーに影響

数多くのスコッチを試飲し、ウイスキーの香味の豊かさを知り、樽熟成の神秘に魅せられた鳥井信治郎は、商社を通じてスコッチウイスキーのあらゆる情報を取り寄せて学んでいた。
「需要がなければ生み出せばいい」
この気概で、周囲の反対を押し切って蒸溜所建設へと向かった。
ただそのためには技術者がどうしても必要だった。商社に依頼してスコッチの技師をスカウトしようとしている。これは上手くいかなかった。
推測の域を脱しないが、日英同盟の解消が要因になっているのではなかろうか。私見を述べたい。

日英同盟は1902年(明治35年)に締結された。
実はそれまで、明治30年ぐらいまでは洋酒の輸入量ではブランデーが圧倒的に多かった。ところが締結後はウイスキーが断然優位に立つ。
こうした同盟は政治的な軍事同盟に留まらず、経済関係、人的交流にも影響をおよぼす。さまざまな事物をもたらし、ライフスタイルや嗜好に変化を与える。ウイスキー輸入拡大もまたそのひとつだった。

洋酒を扱い、『赤玉』を生み出した信治郎がスコッチに魅せられたとしても何ら不思議はない。
ところが日英同盟は1921年(大正10年)に解消された。信治郎がウイスキー事業へ向けて躍起になっていた時である。イギリスにとってウイスキーづくりを日本に伝えることはスパイ行為に等しいこととなっていた。信治郎は技師の招へいを断念せざるを得なかったのではないか。
そこで登場するのが竹鶴政孝である。

山崎蒸溜所初代工場長となる竹鶴は1918年(大正7年)から1921年(大正10年)までの約3年間、スコットランドへ留学してウイスキーづくりを学んだ。
それは摂津酒造が自社の青年醸造技師、竹鶴を留学させ、帰国後はウイスキーづくりをさせようと考えて派遣したものだった。信治郎と同様に夢を抱いた人たちが他にもいたということである。

帰国した竹鶴を待っていたのは不況であり、摂津酒造にはウイスキー事業を起こす余力はなくなっていた。彼の居場所はなかった。
辞して意気消沈のまま桃山中学の化学の教師をしていた竹鶴を訪ねたのが鳥井信治郎だった。わずかの期間だがウイスキーづくりを学んだ青年に賭けたのである。

これは途方もない賭けといわざるを得ない。
いま大学で醸造学を学んで洋酒メーカーに就職したとする。3年足らずウイスキーづくりの現場で働いたとして、すべてがわかるはずはない。ましてや長期の樽熟成の変化を熟知し、そして原酒を選びブレンドする能力が養われ感性を磨くには時間と経験がいる。20代の若者に最重責を負わせるメーカーはないだろう。

とはいっても、いまだからこう語ってしまえるのだ。あの時代を生きた信治郎はすべての決断、行動に全身全霊を傾注したに違いない。寿屋という企業の命運がウイスキー事業にかかっていたのだから。そして竹鶴もまた必死だったはずだ。

竹鶴の著書に『ウイスキーと私』という一冊がある。この中に蒸溜所建設中の彼の混乱ぶりが書かれている。留学中に記したノートだけが頼りだったという。
わからないことばかりだった。たとえば直火蒸溜で釜と焚き口の距離をどの程度にすればよいのか、といった前段階においてすでに頭を抱えている。そのため初年度の蒸溜(1924~1925年初夏)を終えてすぐに再びスコットランドへ派遣されている。疑問点を解決するためだった。おそらく当初はトライ&エラーの連続だったに違いない。
写真上/1929年、山崎蒸溜所全景・下/当時の蒸溜釜
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