恨みの、街だった。ステアリングホイールを握って、練馬・杉並・世田谷を縦断するときに、二つの鬼門が横たわっていた。環状八号線と西武新宿線・池袋線の平面交叉だ。トンネルが開通して自動車道路が地下をパスするいまとなって、世田谷と練馬はかくも近い所であったのかと、愕くばかりだ。
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その恨めしい平面交叉は、井荻駅の西側に、いまも実用的に動態保存されている。あたかもそれは、次第に成熟していく東京の青春時代のモニュメントのようだ。かつての幹線が生活道路と変わり、往年の喧噪が嘘のように、ここ一帯はひっそりと静かな住宅街に変貌した。



井荻を下車して北に約1分ほど歩くと、右側に都営の集合住宅がある。鉄筋アパートの黎明の物件、いわゆる下駄履き住宅の店舗部分に、夜のとばりが降りると、あたりをボウと照す電燈がともる、ちょいと目立つそば屋がある。



「蕎麦みわ」。手書きでしたためられたお薦めメニューや、木で手造りしたメニューが妙に懐かしい。宮沢賢治が過ごした分校のような、なにか人を恋しくさせるオーラが立ちこめているのだ。



なるほど、お薦めは山かけ(温かいとろろそば)か。寒い季節に嬉しいメニューである。



それでは、洗いざらいした暖簾をくぐって、店内へ入ってみようか。