ほんとうに美食しかない田舎町

さあ、次はロワールへ行こう、目指すはブロワ。パリのオステルリッツ駅から1時間半の電車の旅だ。ブロワ一帯はシャンボール城などがある世界的な観光地であるが、私は食べるだけのための旅なので、どんなレストランなのか、どんな料理なのか、そしてどんな人がいるのか、ただそれだけだ。
モンティヴォー
何気ない風景がフランスの田舎を物語る

ひとつ心配なのが、パリのアラン・デュカスでいい気になってがっつりと食べてしまい、過去最高の満腹具合だったことだ。こりゃディナーを9時にしてもらうか、と考えながら電車の中でしばしの眠りにつく。
外観
質素で素朴な外観

ブロワからはオーヴェルジュのあるモンティヴォー村までタクシー向かう。ロワール河沿いをひたすら走ろ20分ほどで到着だ。町の幹線通り沿いにある、ラ・メゾン・ダコテは意外なほど普通だ。普通だというのは余りにもなにもないフランスの田舎町の景観に溶け込んでおり、車で通っても自転車で通っても、ましてや歩いていたとしてもその「美食」に気がつかないのではないかと思うのだ。
ダイニング
赤を基調としたダイニング

宿のドアを開けると左手にバーカウンター、右手にホテルの小さなレセプションがある。通された部屋は2階のテラスに面した小さな部屋。奥にシャワールームとトイレ、洗面台があるこれまたごく普通の宿泊設備。部屋でまず最初にすることはとにかく充電。携帯、PC、カメラなど等。実はここで携帯の充電器がショートしてしまい、携帯は使うときにオンにするようにしないといけないことになってしまう。

いつものように散歩に出掛ける。いや、びっくりするほど何もない村だ。TABACとブーランジェリー、薬屋、肉屋くらいか。それでも30分くらいは歩いただろうか、宿に戻ってくるとシェフのリュドヴィック・ローランティーがちょうど買い物から戻ってきていた。ちなみに日々の素材はシェフが自ら市場に出向き選ぶという。マダムは小柄な方で、2人は昨年11月に初めて日本に、それも大阪にやってきた。大阪でのフードフランスのイベントはそこそこ盛況で、あとから聞くと、とにかく日本はいろんな面でエキサイティングだったと熱く話し始める。仕事の合間を縫って京都、奈良を見て日本の伝統文化に深い関心を寄せている、非常にまじめな料理人だ。2008年に自ら買い取ったこのオーヴェルジュでミシュランの一つ星を獲得している。

厨房には一人の若い日本人女性がいた。マユミという方は大阪から1年間のワーキングホ
リデイを使って今年の2月にこのロワールのオーヴェルジュにやってきた。「何もないところがいいんですよ」と屈託なく笑うマユミは厨房でデザート担当として立派な戦力になっているという。この9月には1年も終わり日本に戻ることになるらしいのだが、シェフといマダムはかなり真剣に彼女を引き止めているようだ。食事の前に厨房を見せていただいたが、5人の若いスタッフは和気藹々としながら仕事を進めている。写真を撮ろうとすると「駄目よ、お昼にサンドイッチにマスタード塗りすぎて、辛くて鼻血が出ちゃったの!」と可愛らしい女性キュイジニエが鼻を押さえて笑いながら話す。
キッチン
和気藹々とした厨房スタッフ

厨房での短い時間は楽しい。しかし、いい香りを嗅いでも、どうも、一向に食欲が沸かない。食事の時間を9時に変更してもらうが果たしてどうでるか。