ホント?未開封でエンジェルを当てる男



その話を聞いたとき耳を疑いました。チョコボールの包装を開けずにエンゼルマーク入りの箱を見分ける男がいるというのです。しかも彼は一切不正は使っていません。何故そんなことが可能なのか?


彼の発想はこうです。当たりとそうでないチョコボールは同じラインで生産されるのだろうか? そうではなく別のラインで生産され発送梱包前のどこかの工程で一緒にされるはずです。ここで注目すべき点は、包装はもちろん同じ型式の装置を使っているでしょうがしかしまったく同じ機械ではないということ。同機種でも機械ごとに微妙な癖があるはずです。つまり包装にしても別のラインでされたものであれば微妙な差異があるはずです。


この天文学的に小さい差異を見分けるためには相当な投資(つまり沢山チョコボールを買った)があったそうですが、今では押入れにはおもちゃの缶詰が山と積まれ、休みの日にはフリーマーケットで売りさばいるというお話。


ただこの話は又聞きであったのでネタ的には非常に面白くはあるが現実的にはありえないと思っていました。カシノにおいて秘密の技法で荒稼ぎしているアドヴァンテッジプレイヤーの話を知るまでは!
数年前封切られた『レインマン』という映画を憶えていますか。自閉症の兄(ダスティン・ホフマン)と弟(トム・クルーズ)がアメリカを車で横断するロードムービーですが、劇中、兄が驚異的な記憶力でカシノ相手に大儲けするシーンがあります。これはディーラーの捨て札を全て記憶してしまうために、残りの場札を容易に推理してしまうためです。これも一種のアドヴァンテッジプレイヤー。


アドヴァンテッジプレイヤーとは要するにカシノの運営上の弱点を見付け、通常のお客よりも遥かに有利な立場(アドヴァンテッジ)でゲームを行うプレイヤー達のことをこう呼ぶのです。インチキや不正な手段を使っているわけではありませんが、カシノ側から見れば不倶戴天の敵です。

それはM・コニック著『ギャンブルに人生を賭けた男達』(文春文庫)という本の中で詳しく触れられています。

カード透視の秘密

ギャンブルに使う道具は当然カシノ側も万全の注意を払っています。カードに関して云えば使用回数や時間を決めそれを過ぎればたとえ新しく見えても廃棄され新しいデックが開封される。これだけ厳重に扱われていながらもアドバンテッジプレイヤーには十分付け込む隙があるのです。


カードの生産過程を想像してみましょう。カードは一枚一枚作られるのでしょうか? おそらく大きな紙に印刷し最後に裁断されるはずです。この裁断の仕方が微妙に違う。もちろん違うといっても普通の人間の肉眼では確認でるレベルではありません。しかしアドバンテッジプレイヤーの訓練された目からみれば裏側の模様と余白の部分の割合などがカードによりその差は歴然。数回のプレイ後、裏の特徴と表を一致させ彼らはとてつもなく有利な立場でゲームをしているのです。これはテクニックのほんの一端。


さらに本書では方法には詳しく触れていないものの(テクニックは企業秘密であり詳細な説明が世にでることまずありません)。サイコロの目を自在にだせるプレイヤーがいることなどが紹介されています。彼らによってよってもたらされるカシノの被害は収益の数パーセントにも及ぶということです。


タネを聞けば誰しも「なんだ」と思うことでしょう。でも忘れがちなのはアイデアだけではまだ道のりの半分にすぎず、その先はもっと険しくなるということです。


アドバンテッジプレイヤーとてたった1つのテクニックを実戦で使えるレベルするためには何百、何千時間の想像を絶する練習のすえマスターしています。この辺はビジネスに似ているかもしれません。ちょっとした思いつきがすばらしいヒット商品を生むことがあります。ヒットした後なら「あれなら自分でも思いついた」と言う人がいますが、しかしすぐれたアイデアであっても商品になるまでの過程は決して平坦でないことはテレビや雑誌などの特集でよく取り上げられるので皆さんもご存知の通りです。


どんなジャンルであれ、アイデアを具現化するためには途轍もない努力と情熱がなければ難しいようです。案内板は誰にでも見ることができるが山の頂上まで辿りつけるのは結局いつも一握りの人間だけということでしょうか。

【関連サイト】
『ギャンブルに人生を賭けた男達』M・コニック著(文春文庫) アマゾンドットコム
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