DSやPSPと比較をするiPod touchに違和感

DSやPSPとiPod touchを比べるの図
同じゲームでありながら、DSやPSPでゲームを遊ぶのに、iPod touchはピンとこないという人がいるのは何故なのでしょうか?
2009年9月9日にアップルがサンフランシスコにて行ったイベントで、iPodファミリーの刷新発表がありました。その中には、もちろんiPod touchに関するものもあり、そして、ゲーム分野についてもプレゼンテーションがありました。ゲームに関しては、ユービーアイソフト(以下Ubi)やエレクトロニック・アーツ(以下EA)などの海外大手メーカーによる新作ソフトの紹介の他、任天堂のニンテンドーDS(以下DS)やソニー・コンピュータエンタテインメントPSPと比較したiPod touchの優位性が強くアピールされました。

これを受けて、メディアの中にはDSやPSPと激突する可能性を報じるものもあったようですが、このアピールにガイドはかなり違和感を感じました。もう少し強く言うと、いまいちピンとこないアピールでした。おそらくは、ゲームが大好きなゲームユーザーには、同じようにピンとこない人が結構いるのではないかと思います。単純に、携帯ゲーム機が欲しいというユーザーの中に、iPod touchとDSやPSPを比べて、どっちを買おうかと迷う人が果たしてどれほどいるでしょうか?

あらかじめ誤解のないように申し上げておくと、ゲームハードとしてDSやPSPに劣るから違和感がある、というお話ではありません。iPod touchはゲームハードとスペックがいくら近くても、あるいはそれ以上であったとしても、やろうとしているビジネス、そこから生み出されるエンターテイメントとその価値は、全く違うものであるからこそ、同じ土俵で比べるのは、違和感が生まれるんです。

ゲームソフトの数とゲームソフトの価格の違い

ゲームタイトル数を比較する図
グラフにすると大変な差があります。しかし、ゲームビジネスの構造的な差と、そこから生まれるコンテンツの質の違いを無視してグラフを示すことにどれ程意味があるでしょうか?
イベントで強烈にアピールされたのは、iPod touchで遊べるゲームソフトの数です。PSPは607タイトル、DSは3,680タイトルですが、iPod touchは、21,178タイトルもあるということでグラフが提示されました。また、ゲームソフトの値段も圧倒的に安く、iPodtouchには10ドル以下、つまり100円程度でもゲームが買えることをアピールしています。

確かに、iPod touchのゲームがオンラインでダウンロード購入できるApp Storeには、DSやPSPに比べて遥かにたくさんのタイトルが、しかも低価格で売られています。しかし、iPod touchとDSやPSPではゲームビジネスにおける構造の差から、出てくるコンテンツの質に違いがあります。理由はいくつもありますが、1つ、流通の例を挙げてお話してみましょう。

App Storeによるオンラインダウンロード販売のみのiPod touchは長い年月をかけて大きな開発費で大作ソフトには向いていません。パッケージソフトであれば、メーカーの利益は実売が出る前、お店による発注で確定します。ですから、メーカーがお店に売る力、営業力によって読める数字というのがあるんです。ただでさえ当たりはずれの激しいコンテンツ産業ですから、大手が大規模な開発に先行投資をする場合、こういった営業的背景は重要です。しかし、iPod touchでは、そういった営業的パワーは通用しません。最初からお客さんとガチンコ勝負になります。流通コストは削減できますが、数字を読むのは難しくハイリスクハイリターンになります。

もちろん流通を通さないメリットもあります。パッケージソフトの場合、営業力のない小さなメーカーはお店の棚に自分の居場所を確保することがまず困難です。お店の棚に並ばなければ、当然売れません。しかし、iPod touchならどんな弱小メーカーのゲームもオンラインを通じて世界中からアクセスできます。そうすると、小規模ながらに切り口の良いソフトが思わぬヒットを生むことがあるんですね。また、ダウンロード専用なら在庫リスクを心配する必要もありませんから、小さくて小回りの効くメーカーがローリスクハイリターンを狙える構造です。

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大手ゲームメーカーがたくさんの開発費をかけて徹底的に作りこんだ強力なキラータイトルが市場を牽引していく構造を持つのが今までのゲーム業界です。開発に数年かけたというようなリッチなコンテンツが登場する反面、リリースできるメーカーはある程度の規模を持っている会社に限られてきますし、実績のない新規タイトルをヒットさせるのが困難で、売れたタイトルの続編が多くなります。

対して、場合によっては個人にさえチャンスがあって、低価格で非常にたくさんのゲームがあるのがiPod touchです。ローリスクでゲームが出せるので、実験的、挑戦的ゲームも生まれやすく、多様性を確保しやすい構造ですが、開発規模の小ささからチープなコンテンツが多いのも事実です。

その2つを単純に数字で比べて、多い少ない、高い安いという話をしてもあまりピンときません。違和感があるんですね。

さらに、アップルがアピールするゲームの購入体験についてのアピールや、ゲームコンテンツの紹介の仕方についても違和感があります。

ゲーム購入体験の違い

マリオカートWiiの図
ダウンロード販売なら家にいながらにして即座にコンテンツを手に出来ますが、物を買うワクワク感というものもあります。
アップルはイベントで、ゲームの買い方もオンラインダウンロード販売のみのiPod touchは優れていて、DSやPSPにおいて主流である、ユーザーがお店に足を運ぶ購入体験を否定的に話しました。

確かにApp Storeでの購入体験には素晴らしい魅力があります。オンライン上のお店に、日々新しいゲームが並び、それらを低価格で、あるいは無料ですぐに遊ぶことができます。便利であることはもちろんのこと、暇な時に何か面白いものはないかとリストを探すのは、Webで毎日面白い話題や動画を探すのにも似た楽しみがあります。お店でゲームを買うのとは別物の体験です。

では、お店まで出向いてゲームを買いに行くのは面倒なだけでしょうか? そんなことはないですね。やっぱりお店に行って新しいゲームの発売が近くなるとポスターが貼られたりしてワクワクしますし、待ちに待ったゲームを朝から並んで買うのだって楽しいです。ゲームが好きな人にとって、学校や仕事の帰り道にゲームのお店に寄って、パッケージを眺めたり、POPを読んだり、プロモーションビデオをみたりしながら、たくさんのゲームに囲まれた空間にいるというのは、大変心地よい息抜きです。

App Storeの購入体験は、やはり気軽に買える小規模なゲームが大量にリリースされるiPod touchの市場に適していますし、お店でのゲームソフト購入体験は、大々的な宣伝で注目を集め集客するキラータイトルがお祭りを演出しています。それぞれがそれぞれのコンテンツに上手くマッチした購入形態になっているので、オンラインダウンロード販売が便利で楽しいものであることを言うために、お店での購入体験を否定するというのはピンときません。

ゲームコンテンツの違い

アサシンクリードの図
iPod touch版のアサシンクリードは、奥行きのある横スクロール画面を進むアクションゲームで、タッチパネルを方向キーやボタンの代わりにして操作します。
ゲームコンテンツの紹介の仕方にも違和感があります。というのは、冒頭に申し上げたようなUbiやEAのような大手ゲームメーカーが登場し、これから発売の新作ゲームを紹介するというのは、DSやPSPなど既存のゲーム業界のあり方です。キラーコンテンツが市場を牽引し、お店を盛り上げ、高いゲームを買ってもらう形です。

イベントでは、UbiのアサシンクリードシリーズがiPod touchで横スクロールゲームになって登場すると発表されましたが、果たしてゲームユーザーはどれほど大きな反応を示すでしょうか? 日本に馴染みのある別の例で言えば、メタルギアソリッドシリーズのiPodバージョン、メタルギア ソリッド タッチにどれ程インパクトがあったでしょうか?

どうしても、メタルギアソリッドシリーズのブランドを使った亜流の小型タイトルに感じられてしまいます。これが、メタルギアソリッドシリーズ本編がiPod touchで独占発売されるというのであれば、業界中に、そしてユーザーにも激震が走るでしょう。しかし、申し上げた通り、iPod touchの市場は大手メーカーが莫大な開発費をかけてゲームをリリースするのには、あまりむいていません。

アップルがiPod touchで起こしたイノベーションは、大手ゲームメーカーを誘致することではありません。参入障壁を徹底的に低くすることで世界中のゲームクリエイターにゲームを提供してもらい、それをユーザーが自由自在に選んで遊べる仕組みです。ですから、やっぱりゲーム業界がやるような大手メーカーの大作タイトル先導型のコンテンツ紹介は、どこかピンときません。

どうしてiPod touchにピンとこないゲーマーがいるのか、色々とお話してきました。これはつまり、iPod touchは、DSやPSPと同じようにゲームコンテンツを遊べるハードではあるんですが、それらとは全く別の価値を提供しているということなんです。

iPod touchの新しいゲーム世界

iPod  touchと新しい世界の図
全く新しいゲームの世界を創造しつつあるiPod touch。だからこそ、今までのゲームと比べるようではなくて、その独自性を知らしめて欲しいと思います。(イラスト 橋本モチチ
いわゆる、ゲームが大好きなゲーマーの中に、iPod touchに対してピンとこない人がいるのは当然のことです。いくらアップルがDSやPSPと比較することで、ゲームハードとしてのiPod touchをアピールしても、実際には今までのゲームのあり方とは別次元の商品であるからです。その落差は、音楽がCDやMDからiPodになった時よりも、遥かに大きいものです。何しろゲームコンテンツがいかなるものであるかという部分からして全く概念が異なります。

iPod touchでヒットしたアプリケーションにピアノの鍵盤を表示してタッチすることで演奏できるものがあります。なかでも有名なFinger Pianoを例にとると、鍵盤の上部にタッチする場所が示され、順番にタッチすることでピアノ初心者でも曲が弾けるというソフトです。画面は基本的に鍵盤だけ。豪華なBGMも、楽しいキャラクターも、リズムをにあわせてボタンを押して高得点をとればご褒美が、なんて仕掛けもありません。シンプルすぎてDSやPSPのパッケージソフトなら商品化することすら困難かもしれませんね。

でも、そういう遊びはあっていいはずです。ゲームかどうかは分からなくても、タッチパネルをピアノにして遊ぶというアイデアは良く分かります。そしてこのデジタルなピアノをちょっと触ってみたいという人がたくさんいれば、コンテンツとして成立します。iPod touchやApp Storeが持つ世界というのは、ゲームエンターテイメントという概念なんて簡単に飛び越えて、そういうちょっとした遊びまでをのみこんで新しいコンテンツが生まれるんです。世界中の人が毎日毎日新しい遊びを考える、そういう場所なんです。

それをわざわざDSやPSPを引き合いに出して、ゲームの数が多いとか、価格が安いとか表面的な数字を抜き出して比べたところで、やっぱりピンときません。たった1つのゲームが他の全ての要素を凌駕してしまうことがあるのがゲーム業界です。同じ土俵で語るのであれば、ポケットモンスターシリーズに匹敵する人気コンテンツをどうやって生み出すか、というようなことを考える必要があるんです。

もちろんわざわざそんなことをしなくても、iPod touchはゲームハードとして、今までのゲーム業界と全く違う形で発展しつつあります。手のひらサイズのポケットコンピューターが全世界の作り手が生み出す遊びに繋がる、そういう革新性を持つものです。既存のゲーム業界と比較するようなことではなくて、全く新しい価値が生まれつつあることをもっと多くの人にアピールして、ゲームの世界を広げていって欲しいと願います。

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