DSの成功から時代を読み解く

DSとタッチパネルの図
発表当初、従来のボタン操作になれているゲームユーザーからは、斬新すぎる仕様に不安の声もあがりました。
ニンテンドーDS(以下DS)が空前の大ヒットを飛ばし、ゲームは子供や一部の人たちだけの娯楽ではなくなり、幅広い層の人たちに受け入れられつつあります。この成功にタッチパネルという新しいインターフェースの存在が重要であったことに異論を持つ人はいないのではないでしょうか。

それまでは十字ボタンや方向キーと、複数のボタンを駆使してゲームをするのが当たり前でした。初めてDSが発表された時にはタッチパネルというデバイスが本当にゲームに適しているのか疑問視する人も当然いました。

それがここまで世の中に受け入れられた理由というのはなんなのでしょうか? 今回は、DSのタッチパネルというものが、たまたま当たったのではなく、実は時代の大きな流れが新しいインターフェースに傾いていて、DSはその先駆けとなる存在だったのではないのだろうか、という仮説を立てて、考察してみたいと思います。

iPodもタッチパネルへ

DSとiPhoneの図
インターフェースを変えることによってイノベーションを起こそうとする両社は、とても近い戦略をとっていると言えるかもしれません
2007年9月5日、アップルは人気の携帯音楽プレイヤーiPodの新型を発表しました。その中で特に注目すべきものは、タッチパネルを搭載したiPod touchです。アップルは携帯電話のiPhoneでもタッチパネルを採用しており、今回、その路線を携帯音楽プレイヤーでも継承する形になったわけです。

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iPodは携帯音楽プレイヤーですし、iPhoneは携帯電話ですから、ゲームハードであるDSのように、インターフェースが変わることによってコンテンツに劇的な変化がもたらされるわけではありません。ではなぜ、コストの高いタッチパネルをわざわざ搭載してきたのでしょうか?

たまたま、アップルと任天堂が同じインターフェースを選択した、とはちょっと考えにくいでしょう。そこには両者に共通する思惑があったものと思われます。

複雑になりすぎたゲームの操作

A.C.E3をプレイする図
10個ものボタンを駆使して操作するというのは、冷静に考えると実に難解ですよね
先日Another Century's Episode 3 THE FINALという、ロボットアニメを題材にしたゲームがPlaystation2でバンプレストから発売されました。ガイドはゲームと同じくロボアニメも大好きなので、早速買ってやってみました。説明書をふんふんと読んで、さくさくとプレイを始めたのですが、ふと思ったのです、このゲームはどのくらいゲームに慣れている人ならプレイできるのだろうかと。

このゲームはガンダムなどのロボットを操作して戦うゲームなのですが、ちょっと操作方法を書いてみます。左スティックで前後左右の移動、R1ボタンで上昇、R2ボタンで下降を調節し敵キャラに向かって飛んでいきます。射程距離に捉えたらL1ボタンで武器を選択、三角ボタンで敵をロックオンし、位置関係によって四角ボタンと丸ボタンで遠距離攻撃と近距離攻撃使い分けて攻撃です。なおかつ×ボタンでダッシュのオン、オフを切り替え、さらに右スティックカメラを動かし、十字ボタンの左右でレーダーの大小をチェンジして索敵、いざという時はL2ボタンで必殺技です。

うーん、こうやって書き出してみると目まいがするような複雑な操作ですね。ゲームになれていると麻痺してしまって気がつきませんが、よく考えると、誰でもできる操作ではありません。余程ゲームに慣れているごく一部の人だけです。それはすなわち、マーケットがニッチになる、ということでもあります。この複雑な操作から脱却するべくDSに採用されたのがタッチパネルであるわけです。

たくさんの人に売りたければ、誰でも使えなくてはいけない

A.C.E3をプレイする図
iPhoneはタッチパネルを採用することで、携帯電話に大きな変革をもたらそうとしています
どんなに素晴らしいコンテンツだとしても、それを扱うことのできないユーザーにとっては、まるで無価値なものです。実はそれは、前述したiPhoneやiPodについても同じことが言えます。

若い世代にとって、携帯音楽プレイヤーや携帯電話の操作はそれほど難しいものではないかもしれません。しかし、それをより多くの層にアプローチできる商品にしようと思ったとき、真っ先に考えるべきはこのインターフェースの問題であるはずなのです。

本来的にはゲームよりもより広い層に売る携帯電話のようなアイテムの方が、より早くタッチパネルを採用していた可能性もあったかもしれません。あの分厚い説明書を読みながら順番に色んなボタンを押して操作するというのは、かなり非現実的であり、ほとんどの人はその機能を使いこなせてはいないというのが現状ではないでしょうか。iPhoneのタッチパネルは、この問題を劇的に解決する可能性がある画期的なものです。

ゲーム業界に新しいマーケットを築き上げた任天堂と、携帯電話という異なる業界に電撃参入したアップルの両者がタッチパネルを採用し、複雑でなかなか使いこなせないインターフェースをより簡単にし、誰でも使えるものへと変貌させて成功していることは、実に興味深いことです。

最後に、この任天堂やアップルの成功が示唆する未来について、考えてみたいと思います。

凄いことがカンタンにできてこそ売れる時代

カーナビの図
比較的早い段階でタッチパネルを取り入れた商品にカーナビがあります。これもやはりインターフェースが非常に重要になる商品です
私の個人的な予想では、今後非常に多くの商品がタッチパネルを使うのではないかと考えています。例えば既にPCではタブレットPCという画面を直接タッチすることで操作できるPCがありますが、こういったものの中から、誰でも簡単に操作ができるPCとして大きくシェアを獲得できるようなものがいずれ登場するのではないかと思っています。

ですが、一番大事なことはタッチパネルを使うか否か、ということではありません。重要なのは、誰でも簡単に使いこなせる、ということであるはずですね。タッチパネルは携帯ゲームハードや携帯電話での成功例に過ぎないのですから。

ゲームのコントローラーというコアな層にしか使いこなせなかったものを、分かりやすいインターフェースにすることによって、広い層に売るというDSのアプローチは、業界を越えて広くビジネスのお手本となる事例です。

新しいサービス、便利な商品、凄い発明が日々登場しています。しかし、そうやって複雑になっていく毎日についていけない人達がたくさんいます。十分に豊かな世の中で、みんながみんな説明書とにらめっこしながら四苦八苦して使いこなしてはくれないのです。

売れるためには、新しいこと、便利なこと、凄いこと、それにひとつ加えてカンタンなこと、これが重要になる時代が来ているのではないでしょうか。DSの成功はそんな時代を先取りしたもののように思えます。

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