新宿ゴールデン街「ソワレ」にてランチ

新宿ゴールデン街。狭い区域にびっちりと飲み屋が林立する。一時衰退したが、再び活況を呈してきている
今回の散歩は女性読者2名が参加してくれた。いつもはN君と男くさい散歩なのだが、今回は華やか。

女性読者の1人はこれまでも参加してくださったことがある中瀬さん。すっかりリピーターの感あり。そしてもうひとり、初参加の大田さんだ。あえてお年はうかがわなかったが、たぶん僕と同世代。あ、もちろん僕よりは年下なのだろうけれど、世代的にはプロデューサーのNくんや中瀬さんよりも上であろう。

今回の散歩コースは、偶然にも女性にオススメしたいコースである。スタートは新宿ゴールデン街。場所はJR新宿駅東口から靖国通り方向へ歩く。靖国通りにある区役所の通りが区役所通り。その隣に「四季の道」という遊歩道があり、ここを歩くと右側に広がっているのがゴールデン街である。

僕が東京にきた1980年代のゴールデン街といえば、興味はあるけれど怖いというイメージがあった。ゴールデン街について書かれたコラムや本をいくつも読んだ記憶がある。そこでは、作家や映画監督など当時としては「文化人」と呼ばれた人たちが酒を飲み、議論を戦わせ、ケンカしているというイメージがあった。もともと僕は酒があまり飲めない。そのため進んでいこうとは思わなかったのだ。

90年代に入り、ゴールデン街はバブル期の地上げなどで空き店舗が多くなり、衰退していった。ところが、21世紀になって、これまでとは違った若い世代の店、若い世代の客が増えて、その様子は様変わりし、このところまた活気が出てきた飲み屋街である。

ゴールデン街といえば、たいていの人は闇の中に浮かぶ看板のライトが並んでいる姿を想像するだろう。たしかに昼間はあまり人がいない。そのかわりに猫が悠然と歩いていたりする。

外から見ると2階建ての長屋に振り分けられた各店舗の小さいことがよくわかる。その建物は古く、どこかなつかしい。最近は飲み屋街の中に「ゴールデン街劇場」という小さな劇場ができたりして、そういうものを見るにつけ、変わってきたんだということを実感させられる。この日もなにか演劇でもあるのだろう、搬入作業をしたり、受付の準備をしている人たちを見かけた。

(上)ソワレ店内。役者さんが書いたと思われる書がたくさん掛けられている (下)ソワレのランチ。メニューは日替わり。女性にはうれしい品数の多さ
昼間のゴールデン街の様変わりのもうひとつは、ランチを出す店がいくつかあることだ。僕のオススメは、「ソワレ」というお店。夜はここも飲み屋になるのだけれど、僕は昼にしかきたことがない。ハニィさんという以前は舞台女優さんだった若い女性が料理を作って出している。ヘルシーランチということで、メニューは日替わり。お総菜5品程、五穀米、お味噌汁、プチデザートかジュースがついて800円。1日限定20食。最近は人気で、満席で入れないこともある。僕は前日行き、席を予約しておいた。12時ちょうどにお店に入る。

この日のメニューは豚の生姜焼き、イカと里芋煮物 、ミートボール、きゃべつと干しエビの和え物、焼き茄子、きのこのソテー、オレンジジュース。家庭料理でとてもおいしい。女性陣は満足げ、Nくんは少し物足りなさそう。

花園神社。その名前の通り、ここは花の園。このときは梅の花が咲いていた
食後、隣にある花園神社へ。ゴールデン街からだと、裏側から入ることになる。朱塗りのお社(やしろ)が鮮やかだ。きょうの散歩の無事を祈る。

その名前の通り、ここは花の園。このときは梅の花が咲いていた。

新宿御苑散策路は無料で楽しめる

新宿御苑散策路。開園時間は9時から4時半まで
花園神社を明治通り方向に出て、右に曲がる。そのまま道なりにまっすぐ行くと、その突き当たり、左側に新宿御苑が見えてくる。

もともと新宿一帯は信州高遠藩主である内藤氏の屋敷だった。その一部が皇室の所有するところとなり、戦前までは皇室の公園、戦後は「国民公園新宿御苑」として一般にも開放されるようになった。「フランス式整形庭園」「イギリス風景式庭園」などがあり、都会の真ん中とは思えない自然があふれる公園だが、ここに入場するには入場料(大人200円)がかかる。半日くらいゆっくりする覚悟ならばいいが、散歩の途中にちょっと立ち寄るというのは、少しもったいない。

そこでオススメしたいのが「新宿御苑散策路」である。新宿御苑の正門の左脇の道をまっすぐ進むと散策路がある。

ふわりと梅のかおりが漂う。新宿とは思えない匂いに、こころなごむ
僕が四谷に住んでいたとき新宿に行くにはよくこの道を通った。ここも植物が多数植えられていて、車も通らない人間だけのなごむ道である。ただし、新宿御苑の開園時間と同じで、9時から4時半までしか通れないので注意したい。

この日も梅が見ごろで、歩いているだけでも実に楽しい。そして、静かだ。この散策路はどんな季節でも楽しめる。とくに僕が好きなのは夏。樹木が生い茂り、蝉の声が聞こえ、風が通り抜けていく。途中にベンチもあるので、座って弁当を食べたりしたこともある。

ここをまっすぐ行くと大木戸門。江戸時代の初期には、交通の要衝ということで、ここに石垣があり、木戸が設けられていた。今でもその雰囲気は残っていて、何度も曲がって新宿側から四谷側に抜けられるようになっている。ただし、この門は新宿御苑の開園時間あわせて開かれるため、4時半以降は新宿通りを行こう。

新宿通りと外苑西通りが交差する四谷四丁目。サンミュージックが角に位置する
大木戸を通り過ぎるとそこは四谷四丁目の交叉点。ここにはサンミュージュックがある。当時、人気のあったアイドルが飛び降り自殺をした現場である。同行の大田さんはそのことを知っていたが、若い中瀬さんは知らない。

もう昔の話なのだ。

権田原坂を下って鮫ヶ橋へ

幹線道路をさけて裏道へ。なぜか四谷に空き地。バブルのなごりか
四谷四丁目の交叉点をさらにまっすぐ行く。細い道を右に曲がる。

散歩はできるだけ幹線道路ではなく、路地や裏道を歩きたい。少しでも車の騒音や排気ガスから逃れたいのだ。ここは外苑東通りと外苑西通りとの間の道。八百屋さんがあったり、クリーニング屋さんがあったりする。

この道をまっすぐ行くと、昔の慶応大学病院の古い建物がある。今でも使われているようだけれど、実に味わい深い建築物だ。

そして、さらにまっすぐ行くと、JRの線路に突き当たる。線路脇の道を左へ。しばらく歩くと外苑東通りに突き当たる。そこにJR信濃町駅がある。僕たちは四谷を目指している。本当なら、この駅の北側にある道行くのが近いのだが、今日は権田原坂を見るので、外苑東通りを青山方向に歩く。

しばらく行くと「権田原」という交叉点がある。そこを左に行くと「権田原坂」である。右が赤坂御用地、左側が明治記念館。御用地側の門には警察官が何人かいつも警護している。

権田原坂。右が赤坂御用地、左側が明治記念館。車の往来は激しいが、人通りは少なくひっそりとしている
この坂はかつて、ビートたけしが交通事故を起こした坂である。僕はかつて、この近くに住んでいたのだが、僕が引っ越してくる1年前だったと記憶しているから、1994年のことだったと思う。大物タレントの生死をさまようような事件で、当時はすいぶん話題になった。

坂の真ん中あたりに坂の案内板がある。てっきり権田原坂と思っていたが、名前は「安鎮坂(あんちんざか)」になっている。説明書きのところに「別名、権田原坂」とある。かつて何度もタクシーで渋谷や青山から帰宅する際、運転手さんは必ず「じゃ、権田原坂を抜けていきますか」と言われたものだ。なので、権田原坂のほうが一般的だと思うのだが、どうだろう。

坂を下った、谷底一帯が昔は「鮫河橋」あるいは「鮫ヶ橋」といわれたところである。ちょうど四谷側、信濃町側から見て、鍋底のようになった地域だ。

江戸時代のはじめのころ、ここは名所のひとつだったらしい。小さな川が流れ、橋がかかった景勝の地だったのだ。しかし、江戸の終わりころから、このあたりが無法地帯化してくる。犯罪者もここに逃げ込めば、役人さえ手を出せない場所として、時代小説などにも登場する。

四谷は坂が点在する街でもある。歩けば坂に行きつく。その名の由来を知って歩くと、散歩の楽しさが増す
かつての景勝地としての面影はもちろんだが、無法地帯の面影も今はない。

ただひとつ小さな「四谷鮫河橋地名発祥の碑」と古い祠の「せきどめ稲荷」がある。その隣には今風にきれいに整備された「南元町公園」がある。昔はこのベンチに座ってぼんやりしたものだ。

この公園を抜けて坂道をのぼると右側に迎賓が現れ、四谷見附に出る。

しかし、今回は若葉通りをまっすぐ行き、鉄砲坂を見る。短いなだらかな坂である。江戸時代、このあたりに鉄砲隊があったことからこの名前がついたらしい。このあたり一帯の地名は「若葉」である。鯛焼き屋さんの「わかば」ももう近くである。

四谷「わかば」の鯛焼き

(上)四谷「わかば」。15時にはこの行列! (中)ひとつひとつ丁寧に手作り。大量生産できない理由もわかる (下)しっぽまであんこがみっちり。ふわっとした歯ざわりは鯛焼きの王道
前回の散歩で麻布十番の「浪花屋総本店」の鯛焼きを食べた。それで、東京には「鯛焼き御三家」というのがわかり、今回はそのひとつである「わかば」にやってきたのだ。時刻はちょうど15時。たぶん行列がいちばん長くなる時間。この日もすでに20人くらいの人が並んでいる。

かつて僕は若葉に住んでいるときは、行列が長くないのを見はからってよくこの鯛焼きを買った。たいていは2個買い、1個を歩きながら食べる。ちょうど家についたころに1個目を食べ終わり、それからお茶を入れて、もう1個食べた。

ここは行列に並ぶのも実は楽しい。というのも鯛焼きを焼く行程をそのまま見ることができるからだ。普通、よく見かける鯛焼きというのは、鉄板にいくつも鯛焼きの型があり、そこに生地を流し込むのだが、ここはそうではない。1個1個それぞれの金型にはさみ、炭火の上でクルクル回転させながら、焼いていくのである。一尾一尾焼いていくので、大量生産できないのだ。N君が散歩途中で「どうして鯛焼きに行列ができるんでしょうかね」と言っていたが、この光景を見て、行列ができる意味を理解したよう。

さて、それを持って、外堀公園。鯛焼きを食べる。うまいなぁ。

あんこが独特。甘過ぎず、小豆の味がそのまま残っているようなあんこ。パリッとした皮。しかし、麻布十番の「浪花屋総本店」よりも生地の量は多い。皮にも存在感があり、鯛焼きとしての正統派はこちらだろう。僕自身は薄くてパリッとした浪花屋総本店さんのほうが好きだが、みなさんはどうだろう。

両方食べたNくんは「僕は『わかば』のほうが好きです」と言う。まあ、どちらが好きかといえばそうだけれど、どちらもおいしいということには変わりない。

さて、次は残りの御三家のひとつ、日本橋の柳家さんへ行くぞ!(次回:鯛焼き散歩三部作「完」)

【参考までに今回の散歩ルート】
新宿ゴールデン街を出発し、目指すは四谷。新宿御苑のそばを通過し、外苑西通りに近い裏道に入る。そこから一気に信濃町まで。権田原坂を下って鮫ヶ橋を通過し、鯛焼き「わかば」まで、普通に歩けば約1時間の散歩コース。都心にいながら、その静けさには街を感じさせない不思議な散歩だ

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