50後半にしてなお、海に向かうその姿勢。心の奥には何があるのだろうか?
3月初旬、午前8時30分。神奈川県藤沢市鵠沼海岸、快晴。暖冬といえども、さすがにまだ海からの風は冷たく、何もない浜辺に立てば、寒さがこたえる。波は膝くらい。ピーク時間は過ぎたが、海にはちらほらとまだサーファーが残り、波を楽しんでいるようだ。

ある人と待ち合わせている。今回は、若者だけが楽しめると思われがちなサーフィンで、齢56にしてなおサーフィンが楽しくなっているという人に会う。よく考えれば、普段波に乗っているときにも、ちらほら50オーバーと思われる人は見るのだが、きちんと話をしてみたことがないような気がする。1966年の7月、第1回全日本サーフィン大会が行われているので、50代後半の人は、第1次サーフィンブームを体験しているのだ。その当時、実際体験していなくても年齢を重ねたうえではじめた人もいるだろうし、ずっと続けている人もいるだろう。

どちらにせよ、体力的に50を越えてからきついと思われるサーフィンをなぜあえてするのか。たぶん自分もいくつになろうともサーフィンを続けるだろうが、そんな単純なことを聞きたくて……、とぼんやり考えていると、海からひとりのサーファーがファンボード(ショートボードでもロングボードでもない、いわばその中間に位置するボード)を抱え、こちらにやってきた。

親子のコミュニケーションがほしくて

船山清明さん、56歳。都内在住で、サーフィン暦は10年。笑顔がとても印象的でした!
船山清明さん、56歳。都内在住で、サーフィン暦は10年。言い方が悪いかもしれないが、一見すると、気のいいおじさん。「いやー、今日はまずますの波だね。ちょっと疲れたけど」と開口一番言う。

世間話もそこそこに、ずばり一番聞きたかった、なぜ50オーバーにしてサーフィンを続けている理由を聞いてみた。

「今はね、東京に住んでいて、サーフィンなんてする環境ではないんだけど、娘が結婚して海の近くに住みはじめたんですよ、10年前くらい。なおかつ娘がサーフィンをしていたので、俺もやってみようかな、という単純な理由ですね。きっかけは単純というか。あと、娘の旦那もサーフィンをしているので、親子の会話というか、コミュニケーション的な感じで始めた側面が大きいかな。

始めた当初は、結構色々と苦労したけど、運動にもなるし、海に来れば娘やかわいい孫の顔も見れるし、一石二鳥どころか一石三鳥ぐらいの勢いだよね」

破顔一笑、ほどよく日に焼けた顔から白い歯がこぼれる。40後半になってサーフィンを始めた計算になるが、やる気を挫くようなことはなかったのだろうか? 

「ないですね。はっきり言って、やればやるほど楽しくなった。週に1度はサーフィンしないと気がすまないですよ。体は楽になってきたし、逆にやらないと体がなまけちゃって、まるでダメ。やっぱりね、この年齢になると、運動することが億劫になってくるし、その機会すら少なくなってくるから。飯食べて動かなかったら太る一方だし、本当にいいですよ」

つきつめると、自然との会話をしているのかもしれない

なんなくと何本もの波に乗る船山さん。おもわず見惚れてしまいました……
とはいっても、朝早く起きるのは苦痛だろうし、体力的にきついこともあるだろう。

「最初はね、怪我をしてね……。実際病院に行ったりもした(笑)。波に乗っている人が多いときは、何度も何度もぶつかるし、ボードも何回壊れたか覚えてない。映画やテレビでサーフィンを見ると、何だか楽しそうにやってるなと思いがちだけど、なかなかそうはいかないね。あれは一部の人だけなんじゃないかな(笑)。でもね、なぜかやめられないんだよ……。何でかな、君(ガイド)わかるでしょ? サーフィンしてるのなら。自然との対峙というかな……。さっき親子のコミュニケーションって言ったけど、自然との会話もしているのかもね。こんなのほかのことじゃ、なかなかできないし。

まあ、ただ、年齢を重ねていても重ねていなくても、サーフィンを始める人に言いたいのは『あんまり無理しないで』ということかな。最初はスクールとか入って、先生に教えてもらいながら覚えていくのがいいんじゃないかな……。あと、友達にサーファーがいたらやりやすいよね。何だかんだ言って大事なのは、挫折しないで、諦めないでやることですね(笑)」

そう言うと、さっとまた海へと少年のように駆けていった船山さん。海に入り、50オーバーとは思えないくらいガンガン波に乗っている。はたして自分は50越えたら、あんなに波に乗っていることができるのだろうかと思っていると、再び海から船山さんがあがってきて、

「言い忘れてたんだけど『海のマナーには気をつけてください』って書いておいてくれる? 自分もイマイチわかってないところがあったりするんだけど、しっかり学べば、トラブルの防げるし、何よりトラブルは面倒だからね(笑)」

と波打ち際から大きな声でひと言。その姿は、まさに永遠少年だった。



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