名工・三村仁司氏、アディダスと専属契約

アディダス ジャパン代表取締役 パスカル・マルタン氏と専属契約を締結した三村仁司氏
アディダス ジャパン代表取締役 パスカル・マルタン氏と専属契約を締結した三村仁司氏
松飾りが取り片付けられたばかりの1月8日、メディア各社に衝撃のFAXが届きました。それは、昨年2009年アシックスを定年退職しシューズ作り工房「M.Lab(ミムラボ)」を主宰する靴作りの名工・三村仁司氏が、アディダスと専属アドバイザー契約を結んだという内容。

三村仁司氏は1948年生まれ。アシックスの前身オニツカに入社、2009年3月31日までの在職期間の内、35年間は高橋尚子さん、野口みずき選手らトップアスリート対象の特注シューズ制作に携わり、2004年には厚労省から「現代の名工」に選ばれた、まさに名工です。

1月13日に行われた記者発表会では、本人の口からここに至った経緯やこれからの目標などが語られました。会場には三村氏のシューズを履き1991年の世界陸上東京で、金メダルを獲得した谷口浩美東京電力長距離・駅伝チーム監督や、アディダス契約選手であり昨年のセリーグリーディングヒッターとなった東京ヤクルトスワローズの青木宣親選手も駆けつけ、今後の活躍に期待するエールを送りました。

では、三村仁司氏をご紹介しましょう。

三村仁司氏へのQ&A

抱負を披露する三村仁司氏
抱負を披露する三村仁司氏
司会(以下、Q) どうしてアディダス社と契約しようと判断されたのでしょうか?

三村仁司(以下、三村) アディダスは、世界のアスリートをサポートしてきたという実績がありますよね。それと選手達に意見を聞くと、選手が活躍できるような事例を持っていたということがありますね。いろいろまだあるんですけど、ラスト(足型)とかソールがアディダスにはあったということもですね。

あとは、一番熱心に誘っていただきました。

三村氏が担当する3つの役割

Q 今回の契約を受けてアディダス専属アドバイザーという肩書きになられたわけですけれど、具体的な役割としてどのようなものがあるのか順番にお聴きして参りたいと思います。まず最初は、トップアスリートのシューズの開発担当ということですね?

ヤクルトの青木宣親選手から花束を受ける。左は谷口浩美監督
ヤクルトの青木宣親選手から花束を受ける。左は谷口浩美監督
三村 私のところに足型を測定しに来ていただいていますけどね、その選手に合ったベストなシューズを作っていくということになると思います。当面野球とか陸上のシューズですね。

Q 二つめの役割には、アディダスジャパンには、足型の研究、分析、社内外への啓蒙活動、研修などを行うマイスターチームという部署があります。三村さんはそのマイスターチームを率いるヘッド オブ マイスターを務められるということですね?

三村 今までの経験を活かして皆さんにお伝えできたらいいなと思っているんですけど。アディダスのシューズを作るとか、これから新商品開発のアドバイスをするとかプロモーションをするとか、アディダスの物作りの精神とか技術とかをお伝えできればいいと思ってます。

Q 三つめの役割なんですが、一般向けの商品開発も行われていくということですよね?

三村  そうですね。一つの商品を作るのには1年以上の時間がかかるんですけども、アディダスと一緒になってやっていきたいと思っているんですけどね(配付資料によれば2011年秋冬モデルから登場とのこと)。

Q アディダスのグローバル本社とともにやっていくということですね?

三村 そうですね。

Q アディダス契約アドバイザーとしての、これからの三村さんの抱負をうかがわせていただけますでしょうか?

三村 世界陸上とかオリンピックとか8回行ってますけど、最低ロンドンくらいまではぜひ行ってみたいと思っています。そして、世界記録を狙えるくらいの物作りをしていきたいと思っていますけどね。

三村工房から生まれるアディダス製品が誕生へ

取材陣の大きな興味の一つが、なぜアシックスではなくアディダスと契約を結んだのかという点。しかし、契約についてはノーコメントで語られませんでした。正式な活動は4月1日から。それまでは三村ブランドの「ミムラボ」での靴作りとのことですが、今後は一般向け商品開発チームとの作業が始まるとのことです。

また、今回は三村氏の工房「ミムラボ」とも契約しており、4月1日以降にミムラボで制作されるすべての競技用シューズは、アディダス製品として開発されるとのことです。

戦う現場、状況を綿密に調べてシューズ作り

三村氏を挟んで谷口監督(左)と青木選手
三村氏を挟んで谷口監督(左)と青木選手
ここで、谷口浩美東京電力長距離・駅伝チーム監督と東京ヤクルトスワローズの青木宣親選手が登場、トークセッションが始まりました。

谷口浩美 本日は、アディダスと三村さんのご契約おめでとうございます。私は陸上でずいぶんとお世話になりまして、これからは三村さんが作られるアディダスという3本ラインで、世界で戦える選手が出てくることを期待しておりますんで、ぜひ頑張ってください。

青木宣親 三村さんとアディダスのアドバイザリー契約おめでとうございます。これからもいろんな人にいいシューズを作ってもらいたいと思いますので、これからも頑張ってください。

森下(アディダス社員) 世界のトップレベルのアスリートがシューズにどういうことを求めているのとか、持っているこだわりとかだとかはなかなか理解できないところがあります。そのへんをまず谷口監督からお聞かせ願えればと思います。

「三村さんからは戦うための情報をいただいた」と谷口監督
「三村さんからは戦うための情報をいただいた」と谷口監督
谷口 私は1991年9月1日に世界選手権があったんですけども、三村さんがすごいなっと思うところは、その現地での道路状況、気象状況湿度、気温、そういうところを現地に行かれて調査されて、それを元に靴を作っていただいていること。

世界陸上東京は、湿度の高い気象条件だったんですけども、その中で、籾殻を入れた吸着性の高いスポンジをソールに、上の部分は速乾性のあるものを作っていただいたりとか、そういうことをいろいろやっていただいて……。

自分では分からなかったんですけども、人間の足っていうのは走るたびに大きくなる、マラソン練習をしていく中で、私の足も25.5の足が約26.5に1cmくらい伸びたんですが、それは走っている中で鍛えられて大きくなるんだと話していただいたり、後半になると足のどういうところが痛くなるか、それをどう生かすかというようなアドバイスをいただいたりしたことが一番良かったことじゃないかなと。

やはり戦うためには情報を収集して、それをどう自分のカラダを使ってパフォーマンスとして出すかということですので、そういう情報をいただいたんで、世界陸上東京のマラソンでは勝てたんじゃないかなと思います。まあ、その次の年(バルセロナオリンピック)はアクシデントがありましたけども、それはシューズが悪いわけではありませんので……(笑)。

そういうことをふまえて、やはり技というか技術というのは、スポーツ選手でもこだわる人じゃないとわからないと思いますね。そういうこだわりに執着している人はやはりいいものを選んで、それが自分のカラダの一部となってパフォーマンスを出すということにつながると思います。私としてはそれは非常に貴重な情報で、三村氏との出会いがこういう結果を出させてくれたんだなというふうに思います。

シューズが変わってホームラン増!

「ホームランが増えるよと言われてその通りに」と青木選手
「ホームランが増えるよと言われてその通りに」と青木選手
青木 気温とか湿度で変えるというお話、すごいなと改めて思いました。ぼくが一番驚いたのは2005年に200本安打を打って、そのときにホームランは3本だったんです。そのオフに三村さんにスパイクを作ってもらったんですけど、そのとき、次の年はホームランが絶対増えるよと言われたんですよ。13本打って、その次の年に20発打ったんですよね。驚いてしまって。

野球選手は足に鈍感だという話をされたことがあって、それから足に対する意識が高まりまして、それからケガもなく次は7年目になりますけど、ケガなくやってこられて本当に感謝しています。

三村 青木選手は、基本的には弱いところを強くし、悪いところを直していくということなんですけど、悪いところはできるだけ靴で対応していくというようにしています。

陸上の場合、基本的には、個々によって違いますからね。多いのはソールが硬いので歩幅が伸びないんです。だからちょこちょこ走りになってね。世界で金メダル取ろうと思ったらもう少し柔らかくしたら取れると思いますけどね。

森下 三村さんの「ここがすごいな」というところは?

谷口 ここがすごいというよりも、こだわりだと思うんですね。三村さん自身もこだわりをもって気持ちを入れて作っていると思います。そのこだわりを引き受けながら、2時間ちょっと走るわけで、縫製の糸がちょっと出ているだけでマメができます。実はマメができるというのは靴が悪いんじゃなくて自分の体調のほうが悪いんですよね。しかし、走ってみるとできないことの方が多い。私は素足で履くんですよね。素足で履く分差を感じますね。

青木 名工三村といわれているくらいですから、いいシューズを作るということはわかっていると思いますけども、やっぱり一番思ったのは安心感ですね。三村さんが作ってくれていると思うだけで安心です。それが一番でしたね。人柄も含めて説得力があるというカリスマ性というか、そういったものがもろに出ている人かなと思いますね。

森下 なぜアディダスを選んでくださったのでしょうか?

三村 ほとんどのメーカーからうちにこないかとお話がありました。ありがたいことだと思ったんですけど、その中でもしつこいくらいにアディダスは誘ってくれまして、根負けしたような。本当に私に惚れてくれているのかなと思いましたね。

冬季オリンピックメンバーにもシューズ提供

「私の経験と感性を入れたシューズを」と三村氏
「私の経験と感性を入れたシューズを」と三村氏
森下 さっそく今月いよいよグローバルチームとの打合せが始まりますが、どのような競技から着手されますか?

三村 とりあえずソール関係とかラスト関係を持っている陸上競技、野球関係を今年は中心に。他の競技も冬季オリンピックに出る選手のトレーニングシューズも6人くらい携わっていますけどね。これから、できるだけ頑張って私の経験と感性を入れたシューズを開発していきたいと思いますのでよろしくお願いします。

三村さんのノウハウ活用でマラソン界を元気に

谷口 陸上でしたら、男子マラソン界は元気がありませんので、そのサポートをしていただければいいなと。それには三村さんのノウハウを生かせるような選手を育てることが第一かなと思いますんで、ご協力のほどをよろしくお願いします。

青木 世界のブランドであるアディダスと三村さんがタッグを組むことで非常に可能性を感じています。これから、もっともっといいシューズを作って欲しいなと思います。

森下 アディダスファミリーに加わった抱負を。

三村 アディダスグローバル本社と研究開発していくと、新商品発売は来年になります。1年くらいかかりますからそれをやっていきます。トップ選手に関しては、できるだけ記録が出た、良かったと思っていただけるような物作りをしていきたいと思います。

楽しみな一般向け三村シューズは来年

三村氏は、海外アスリート向けの商品開発も行うとのことであり、三村氏を慕う国内アスリートとの新たなる契約もあるかもしれません。一方で、チームがアディダス以外のメーカーと契約しているケースなどでは、所属選手がメーカーを変更して三村氏のシューズを履くことが困難になるケースも考えられます。

とはいうものの、名工・三村氏と世界のトップアスリートにシューズを提供するアディダスとのコラボレーションから生まれるシューズが、一般ランナーでも足にすることができることになることに大いなる興味があります。

どのようなシューズが生まれるのか、一般ランナーとしては、商品化される2011年が待ち遠しいばかりです。



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