ジョギング・マラソンを始める前に
前回は、ジョギング・マラソンによって得られる利点を紹介しました。しかし、ランニングが体に負荷をかける以上、日常生活を送る上では生じないような障害を起こしたり、事故に遭うということがありえます。そうした障害や事故はそれがどのような時に起きやすいのか、あらかじめわかっていれば注意をし、予防も図れます。今回はネガティブな情報ですが、頭においておいていただきたい話です。
ランニングで起きがちな障害は、大きく内科分野の障害と整形外科分野の障害にわけられます。一部、初級者には起きそうもない、走り過ぎた時に起きやすいアクシデントもありますが、目を通しておいてください。
脱水症状などのアクシデントには要注意!
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走り出す前に水を一杯、一気飲みではなく、噛むように飲む |
6月頃から蒸し暑い夏になりますが、高温に高湿度が加わると、発汗した汗も気化しにくく、体温が高くなって体調が不良になったり熱中症を引き起こします。また、湿度が低くカラッとした気持ちの良い気候の時には、思った以上に発汗量が増えているもので、脱水症状を起こしたり、脱水により血液の流動性が低化(血液ネバネバ状態)して、脳梗塞や心筋梗塞を引き起こすリスクを高めます。これらの障害を防ぐには、次の注意をしてください。
- 循環器系の障害をお持ちの方、健康診断で要注意の結果が出ている方は、必ず医師に相談すること。
- 走りだす前に、水を必ず最低1杯、走りだしてからも5kmごとに100~200cc程度の水分補給を心がけること。特に寝起きのランニングでは必須。寝ている間に、かなり水分を失っているからです。
- 徐々にスピードをあげること。最初は歩き、または走りながらおしゃべりできる程度。速くなっても、なんとかおしゃべりを続けられる程度の強度で。ハートレイトモニターで心拍数を管理できれば申し分ないですね。
- 風通しの良いメッシュで、日差しをさえぎる帽子を着用する。日除けのついたキャップも販売されています。
- 夏場は、日中の練習を避け、涼しい早朝や夕方~夜に練習する。夏だけ涼しいジムでトレッドミル・ルームランナーに頼るというのも手です。
- 暑さでふらつくようならすぐにランニングを中止し、涼しいところで水を頭から首筋にかけて体温を下げ、少しずつ水分をとる。
- 走る気分になれないときは、走らない。体重管理のためにサイクリング、ウォーキング、スイミングなどで体を動かせばけっこうです。走れそうだけどスピードを出す気になれないという時は、その気になるまでのんびりとジョグを続けてみます。
くれぐれも、「暑さに勝てば速くなれる」なんて思わないこと。涼しい所で、質量ともに優れた練習をしたほうが速くなれます。
>>整形外科分野のアクシデント>>
関節痛などのアクシデントにも要注意!
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ケアを怠れば寿命が短くなる骨。ウォーミングアップや関節周りの筋肉強化はおろそかにできない |
整形外科的なアクシデントの原因はたいてい本人にあります。しかし、なってみないとわからないことが多いのが、いつになっても患者がなくならない最大の理由だろうと思います。
障害を起こすタイプは大きく二つに分けられるでしょう。一つは、不注意(ストレッチングやウォーミングアップの不足も含め)で、もう一つはレベル以上のトレーニングや走り過ぎです。
- 変形性膝関節症
膝関節は、関節包が膝関節をくるんだ状態にあります。この関節包の中に滑液というグリースのような役割をする液が出て、骨と骨との摩擦を軽減することによって関節は滑らかに動かせるわけです。しかし、体が温まっていなかったり、気温が低いと滑液があまり出ません。その状態で関節に負担をかけると、ザラザラの骨と骨が擦れあって炎症を起こします。障害の程度、年齢によって治癒に要する時間はかなりばらつきます。ウォーミングアップを十分にやりましょう。
- 半月板損傷
膝関節には、クッション作用を果たす軟骨の半月板が骨の間に挟まっています。しかし、これに圧力をかけたままねじるように力を加えると亀裂が生じます。半月板は一部、または全摘手術(ほとんど内視鏡手術)をします。実はガイドも半月板損傷手術をしていますが、術後も以前のように走れるようになりました。しかし、無理は禁物。コンタクトスポーツや急に走る方向を変えるような動作で発生しやすい障害です。
- 座骨神経痛
座骨神経痛の原因の80%が、椎間板ヘルニアにあるといいます。痛い個所はお尻から太股の後側ですが、原因は違う場所。腹筋、背筋の力以上に強い運動を続けると、腰椎を正常に保ちきれなくなってはみ出した椎間円盤が神経を圧迫し、痛みを起こすというパターンが多いようです。疲労が溜まっているときは要注意。予防は、腹筋、背筋の強化、腰を伸ばすストレッチング、腰を冷やさないこと、となります。
- 腸脛靭帯炎(ちょうけいじんたいえん)
腸脛靭帯(膝の外側に位置する腸骨から脛骨まで長くつながっている靱帯)が膝のあたりで大腿骨の出っ張りとすれて炎症を起こすというもの。主たる原因は走り過ぎとされます。高橋尚子選手がこれで泣きました。市民ランナーレベルではめったにない故障。
- シンスプリント
一般に、脛骨過労性骨膜炎と呼ばれる症状を指します。脛骨(スネの骨)に沿った痛みが生じます。足のショック吸収能力が充分ではない状態で、堅い路面でのスピード練習、長時間の走行などを続けると発症しやすくなります。脛骨につながる筋肉痛が生じるようなら要注意。ストレッチングやカーフレイズなどの筋トレで予防します。
- アキレス腱炎
ウォーミングアップ不足の状態で、いきなりクラウチングスタートなんてやってしまうと起きる可能性高し。市民ランナーレベルでは、アキレス腱を伸ばすストレッチングとウォーミングアップを忘れなければ、まずならないはず。
- 足底腱膜炎
クッションの少ないショーズで硬い路面を走っていると、発症の恐れがあります。初心者の場合、足のショック吸収能力が低いので、クッションが良いシューズを履くとか、路面の柔らかい走路で練習することです。速く走れるようになっても、路面の硬い道路でのスピード練習を避けること。インターバル練習などは、トラックでやるようにしましょう。
- 肉離れ・靭帯断裂
発症の原因はさまざまにありますが、起きやすい状態は体の水分(ミネラル分も含めて)が減っている時と、突然力を加えた時。ラストスパートで走りを切り替えたり、まだ元気なうちに登り坂にさしかかってグッとつま先に力を込めて蹴る、というような動作の時が危険です。事前のストレッチングとウォーミングアップで危険はぐっと下がります。
- マメ
足に靴が合っていないとできやすいですが、総じて初心者のほうができるようです。原因として、一般に初心者のほうが太っていて、足が大きい。加えて、足底の皮が柔らかなこと、足底のクッション能力が悪いなどから、路面との摩擦熱が高くなり発生しやすいと考えられます。予防法としては、摩擦を減らすために、マメ予防のクリームを塗る。ワセリンを塗る。できそうな場所にテープを貼っておく。5本指靴下を履くなどです。
足の温度上昇を減らすためには、通気性の良いシューズ(ソールに通気坑が開いているタイプもある)を履く、日陰を走る(体は日に当たっても、足はガードレールや電柱の影を踏んで走る)、足が熱を持ってきたなと思ったら、靴と靴下を脱いで冷ます、レース中であれば水をかけて冷やすなどです。
>>走っているときに注意したい、起こりがちな事故>>
ありがちな事故とそれを防ぐには?
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(上)はストロボ撮影。反射シールが白く光っている。(下)はストロボを当てずに撮影。左のシューズは、ジョギング用、右はトレーニング用。一般にレース用に近づくほど反射シールなど、本来の走りに必要ないモノは略されている |
外に出て走り出せば、そこは危険地帯。歩くのとは、スピードが違います。他の歩行者もドライバーも、ランナーがいることを前提に行動していません。もっぱらランナーは自衛策で対処します。- 交通事故
相手は車です。ぶつかれば大きなけがにつながります。走る経験のないドライバーは、ランナーのスピードに対する感覚がないのではないかと思えることがよくあります。
例えば、左側の路地や駐車場から出ようとしている車のドライバーが、一度こちらを見たとします。私は、ドライバーは自分を確認したから停車しているなと思って前進します。ところがドライバーは反対方向を見て車が来ないのを確認すると、アクセルを踏むのです。私はすでにその車と接触するところまで来ているというわけです。よくある接触事故のケースなので、要注意です。
- 道路のどちら側を走るのが良い?
これも問題です。後で述べるように決まった側ばかりを走るのは足に良くありません。どちらを走っても安全な道があればいいのですが、練習コースに恵まれない場合もあるでしょう。ガイドの場合は、車が通る道路では左側を走るようにしています。これは、ドライバーが早くから視認してくれるからです。右側だと車と対向になります。ぶつかるショックが大きくなり、右へカーブする個所では出会い頭になるおそれもあります。
右側を走るにせよ左側を走るにせよ、ランナーは事故を予防するために、ロード練習では目立つ色のウエアを着用するようにしてください。シューズだと、ヒールカップの後に反射テープがついているものがあります。ウインドブレーカーも、背中や胸の部分に反射テープがついているものが多いです。しかし、Tシャツには反射テープがついている製品はほとんどありません。夜はなるべく白い色のシャツにし、反射テープをピンで止めるなどの工夫をしてください。
ガイドは、警察の運転免許証更新時に警察で見つけた反射ベルトをたすきがけにして走ったりしています。警察署に行かなくても売っているところはあるでしょう。作業用品を売る店などが狙い目ですね。
- 転倒
ガイドもよく転びます。手を付くので手のひらに擦過傷、受身をしたときに腰骨などに打撲傷などをよくやります。転倒の最大の原因は、疲労によってわずかに足が上がらなくなり、道路上の突起につま先をひっかける場合がほとんどです。したがって、疲労がたまるゴール間近が危ないのです。よそ見をしていて、駐車場の分離帯の突起につま先をひっかけて転倒したこともありました。ロードに出ると、路面にはなにがあるかわかりません。ゴールするまで気を抜かないようにしてください。手袋もなるべくならしていたほうがいいでしょう。
- 犬
犬をリードにつながず散歩していたり、ランナー近づいているにもかかわらずリードを伸ばしっぱなしという掟知らずの愛犬家が多いのは困りもの。練習コースと時間がほぼ決まってくると、出会う人も決まってきます。毎回避けているわけにもいかないので、犬が吠えかかるようなら飼い主に犬を曳いていてもらうように頼みます。飼い主と挨拶を交わすようにすると、犬も吠えつかなくなってきますので、積極的に飼い主には挨拶するようにします。
- 痴漢
以前、ニューヨークセントラルパークでジョガーが襲われる殺人事件が起きたことがありました。日本ではそのようなニュースは聞いていませんが、夜間、人気のない暗い道路を走るときはそれ相応の覚悟と用意をして走るべきでしょう。交通事故防止のためにも、明るい場所を選びましょう。防犯ベルはそんなに重くないので、持って走るといいと思います。怪しいと思ったら遠回りしてでも近づかないことです。
ちなみに、私がこれまでにやった事故、故障を列挙します。
- 膝関節炎 ウォーミングアップ不足。
- 半月板損傷 2日連続フルマラソン出場が原因らしい。走り過ぎ。
- 小指の骨折 林間を走っていて切り株にぶつける。足もと不注意。
- 肉離れ フルマラソンで30km過ぎに走りを切り替えた途端。
- 座骨神経痛 疲労の蓄積。
- マメ ワセリンを塗るなどの対策不足。
- 下痢 汗でお腹が冷えて。レース前に脂っこいものをうっかり食べてしまって。
- 疲労による転倒 これまで4回ほど。いずれも25kmを過ぎてから。
- 脇見による転倒 駐車場に埋め込まれた分離標識の出っ張りにつまずく。
- 軽い日射病 レース中に体に水をかけるなどの対策不足とやや体調不良だった。
幸いにしていずれも再び走れるようになりましたが、トータルすればブランクは3年分くらいになります。ちょっとムダな時間を使ってしまいました。
いずれも、ちゃんとウォーミングアップやストレッチングをして、休憩も入れるようにすれば防げたアクシデントがほとんどです。ランニングは、努力と工夫が結果に出ると前回書きましたが、手を抜くと悪い結果も出てしまいます。これから長くジョギング・マラソンを楽しむためにも安全の基本は手を抜かないようにお願いします。
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